PicoCELA|「無線多段中継」を研究

PicoCELA株式会社(PicoCELA Inc.)

PicoCELA「無線多段中継」を研究|研究領域=電波で中継し通信網を広げる/強み=10回中継しても速度低下が小さい/将来性=現場から施設やエッジ活用へ

企業紹介|PicoCELA株式会社とは?

建設現場や大規模施設に通信環境をすばやく整える技術として、注目を集める「無線多段中継」。PicoCELA株式会社は、その「無線多段中継」の社会実装を目指す、九州大学発の通信系ディープテック企業です。メッシュWi-Fiアクセスポイント「PCWLシリーズ」とクラウド管理システム「PicoManager」を、建設現場や商業施設へ提供しています。

キーワード「無線多段中継」

「無線多段中継」は、アクセスポイントどうしを電波でつなぎ、通信を何回も受け渡して届ける方式です。特徴は、中継の回数が増えても通信速度の低下と遅延を抑えられる点にあります。建設現場や大規模な施設で、LANケーブルの敷設量を抑えたまま通信エリアを広げられます。

市場課題|現場のWi-Fi整備の負担

現状の現場通信の課題|現状は、配線工事で通信整備に時間/有線の敷設に時間と費用/中継の回数が増すと低速化

有線の敷設に時間と費用を要する

建設現場や大規模施設では、通信環境が整うまでに時間と費用がかかります。LANケーブルを引くには配管工事が必要で、建物の構造によっては配線の経路を確保しにくいためです。工程が進むたびに設備の配置が変わる現場では、配線をやり直すたびに通信の準備が作業の足かせになりがちです。

中継の回数が増すほど低速化

電波で中継する方式にも、回数が増えるほど速度が落ちやすい制約があります。一般的なメッシュWi-Fiでは、1台の無線機が受信と送信同じ帯域で担い、中継のたびに分け合うからです。そのため実用的な中継は数回にとどまるといわれ、奥まった場所まで通信エリアを広げにくくなります。

他にも、建物ごとに変わる電波の設計や、粉じんや雨にさらされる屋外での機器の保護があります。加えて、作業員が同時につなぐときの通信の混雑、機器を移すたびの設定のやり直し、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • アクセスポイントスマートフォンなどを無線で通信網につなぐ機器。通常は1台ずつLANケーブルで有線の回線につなぐ。
  • メッシュWi-Fi複数のアクセスポイントを網の目状につなぎ、電波の届く範囲を広げる方式。有線を減らせる一方、中継の回数が増えると速度が落ちやすい。
  • 帯域通信に使える電波の幅。同じ帯域を複数の通信で分け合うほど、1つあたりの速度は下がる。

PicoCELAの強み|無線多段中継

PicoCELAが「無線多段中継」を開発|今後は、多段中継で配線の削減が可能に/LAN配線を7割以上削減/10回中継しても速度低下を抑制

LAN配線を減らし短期間で構築

有線で通信環境を整える方法では、アクセスポイントの台数分だけ配線工事が必要になります。

同社が開発したのは、アクセスポイントどうしを電波で連ね、有線の敷設を最小限にする無線多段中継技術「PicoCELA Backhaul Engine」です。電源さえ確保できれば通信網を伸ばせるため、天井裏や壁の中に新しく配線の経路を設けずに済みます。無線を束ねる専用の制御装置も不要で、中継の網は各機器が自律的に組む仕組みです。100サイトを超える導入実績のうち、ほとんどの現場でLANケーブルの配線量を7割以上削減したとしています。同社はこの技術に関する特許を、全世界へ延べ30件以上出願しています。

多段中継でも速度低下を抑える

一般的なメッシュWi-Fiでは、中継の回数が増えるほど速度が落ち、遅延も積み重なります。

同社は、単一周波数リユース動的ツリー経路制御、フレーム転送を組み合わせ、10回以上の多段中継を実現しています。経路は電波の状況にあわせて瞬時に切り替わり、混雑した区間を避けて通信を運ぶ設計です。途中の機器が使えなくなっても、残った機器が通信経路を自動で組み直します。稼働を止めずに機器を足せる構成のため、現場の広がりにあわせて通信エリアを伸ばせる点も特徴です。中継の回数が増えるほど、従来のメッシュWi-Fiに対する速度の優位は大きくなるとされています。

FrontJournalの解説
  • 単一周波数リユース同じ周波数を複数の中継区間で繰り返し使う設計。電波の幅を増やさずに多段の中継を成り立たせる。
  • 動的ツリー経路制御通信の経路を木の枝状に組み、電波の状況にあわせて切り替える制御方式。障害が起きた区間を迂回できる。

無線多段中継の未来|現場と施設への応用

多段中継の通信が変える未来|現場から施設まで通信環境が広がる/建設現場の通信を支える/大規模施設で人流を把握/エッジ活用へ広がる通信網

建設現場の通信を支える

同社の製品は、建設現場の通信環境を支えています。工程にあわせて設置場所を移す現場では、電源だけで中継できる無線機が扱いやすくなるためです。公表されている導入事例には、西松建設のような建設会社のほか、日本通運阪急阪神エクスプレスのような物流の現場も並びます。建設機械のレンタルを手がける西尾レントオールは「PCWLシリーズ」を取り扱い、必要な期間だけ借りられる形で現場へ届けています。

大規模施設で人流を把握

同じ機器は、大規模施設で人の流れを把握する用途にも広がっています。クラウド管理システム「PicoManager」が、機器の遠隔管理や監視に加えて、電波の強さの分布や端末の統計を扱えるためです。通信のために置いた無線機が、そのまま施設の混雑を測る装置にもなります。福岡地下街開発や生駒山上遊園地のように、多くの来訪者が同時に通信を使う商業・レジャーの施設でも、同社の機器が使われています。

エッジとクラウドの連携を目指す

同社が掲げるのは、エッジとクラウドが連携するIoT基盤です。無線機どうしが電波でつながる網は、通信を届けるだけでなく、現場のデータを集めて運ぶ通り道にもなります。エッジコンピューティングに対応したアクセスポイントは、遠くのクラウドへ送らずに機器の手元でデータを処理できる仕様です。ポーランドの研究開発拠点も加えて、九州発のディープテック企業として、配線の制約が小さい通信網を土台に機器とデータをつなぐ仕組みの確立を目指します。

FrontJournalの解説
  • エッジコンピューティングデータを遠くのクラウドへ送らず、現場に近い機器の側で処理する考え方。通信の量と応答の遅れを抑えられる。
  • IoT基盤現場の機器をインターネットにつなぎ、データを集めて活用する土台。通信網と管理の仕組みが対になる。

会社概要|PicoCELAの事業内容・設立背景

九州大学の研究から創業

PicoCELA株式会社は、2008年8月に設立されました。創業したのは、九州大学大学院で無線通信を研究していた古川浩氏です。古川氏はNEC中央研究所を経て2003年に九州大学大学院の准教授となり、在職中の2008年に同社を立ち上げ、2010年に教授、2018年に退職しています。同氏が考案した送信ダイバーシチ方式は、第三世代移動通信の世界標準に採用されています。古川氏は現在、代表取締役として同社を率いる立場です。

事業会社からの出資と提携

同社は、事業会社からの出資と資本業務提携を重ねてきました。2020年8月には、清水建設、双日、日本郵政キャピタル、岡三キャピタルパートナーズを引受先とする第三者割当増資を実施しています。2023年1月には西尾レントオールからも出資を受け、同年4月には通信設備工事を手がけるエクシオグループと資本業務提携を結びました。2018年12月にはJR東日本スタートアップと資本業務提携を結んでいます。開発の拠点は東京のほか、福岡市とポーランドにも置いています。

Nasdaq上場で開発を進める

2025年1月16日には、米国のNasdaq Capital Market(新興企業向けの株式市場)へ上場しました。公募では175万株のADS(米国預託証券)を1株4.00ドルで売り出し、引受手数料などを差し引く前で総額700万ドルを調達しています。調達した資金の使い道は、在庫を生産するための運転資金と、製品・サービスの改善や研究開発とされています。

会社情報

会社名PicoCELA株式会社(PicoCELA Inc.)。
所在地〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-34-5 SANOS日本橋4階。
設立2008年8月8日。
代表代表取締役 古川浩。
事業所福岡技術センター(福岡市早良区)、ポーランドR&Dセンター(ワルシャワ)。
上場Nasdaq Capital Market(ティッカー PCLA)。2025年1月16日に上場。
投資家清水建設、双日、日本郵政キャピタル、岡三キャピタルパートナーズ(2020年8月)、西尾レントオール(2023年1月)など。
連携エクシオグループ(2023年4月)、JR東日本スタートアップ(2018年12月)と資本業務提携。
技術領域無線多段中継技術「PicoCELA Backhaul Engine」、アクセスポイント「PCWLシリーズ」、クラウド管理「PicoManager」。
受賞知財功労賞 特許庁長官表彰(2022年)。JR東日本スタートアップ大賞(2018年)。WiFi NOW Awards 2025 ファイナリスト。
URLhttps://picocela.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

通信環境の整備は、建物の設計や工事の段取りと切り離せない仕事でした。配線の経路が決まらなければ、電波の届く範囲も決められません。中継そのものを電波で担う発想は、その順序を入れ替えるものです。

興味深いのは、同社が届けているのが機器そのものではなく、通信網の形を自由にする技術である点です。工程にあわせて姿を変える現場ほど、置くだけで伸ばせる通信網の価値は大きくなります。無線の中継は回数が増えるほど不利になるという前提を、経路の制御で押し戻してきた積み重ねが土台です。米国市場への上場を経ても開発の軸が中継技術にある姿勢は、配線という制約をほどく仕事への一貫した関心に見えます。

線を引かずに広げられる通信網は、これから何をつなぐのか。現場の外へ広がる展開に注目します。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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