2026.10.09 │ 理化学研究所・東京都立大学 │ 元発表:2026.10.08

理化学研究所ら、麻酔下の脳に6種共通の「時空間的孤立」を発見

ニュース紹介

「麻酔がもたらす脳の「時空間的孤立」-ヒトから線虫まで6種に共通する神経動態を発見-」

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センターの岡野栄之チームディレクター、東京都立大学大学院人間健康科学研究科の畑純一准教授、牟田佳那子特任助教らの国際共同研究グループは、ヒト、マカク、マーモセット、マウス、ゼブラフィッシュ、線虫の6種に共通する麻酔時の神経動態を明らかにしたと発表した。哺乳類4種は機能性磁気共鳴画像法(fMRI)、ゼブラフィッシュと線虫はカルシウムイメージングで計測したデータを、セボフルラン、プロポフォール、ケタミン、イソフルランなど作用機序の異なる複数の麻酔薬について解析した。hctsaという解析法で6,827種類の時系列特徴を抽出したところ、485種類の特徴の比較の全てが同じ方向に変化した。少し前の神経活動の影響がどの程度長く残るかを表す内在的神経時間スケールは6種全てで麻酔下に短縮し、脳領域間の同期性も低下した。研究グループはこの状態を「神経活動の時空間的孤立」と位置付けた。マカクでは、プロポフォール麻酔中に視床中心正中核への脳深部刺激(DBS)で行動反応性が回復すると、内在的神経時間スケールが再び長くなった。生物物理学的全脳モデルでは、GABA作動性麻酔薬を模したモデルが485種類の特徴のうち461種類(95%以上)を同じ方向に再現した。成果は科学雑誌『Nature Neuroscience』オンライン版に9月29日付で掲載された。

出典:理化学研究所 2026年10月8日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20261008_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

全身麻酔は手術に欠かせない医療技術ですが、麻酔薬が脳にどう働いて外界への反応を失わせるのか、その全体像はまだ分かっていません。麻酔薬ごとに作用する分子が異なり、たとえばプロポフォールは神経活動を抑える方向に、ケタミンはNMDA受容体(興奮を伝える神経伝達に関わる分子)を阻害する形で働きます。

それでも、異なる麻酔薬でヒトも動物も反応が鈍くなります。今回の研究は、分子の違いを越えて脳全体の活動パターンに共通点があるのかを、種と計測方法をまたいで調べたものです。

①数千の特徴を同じ物差しで比べる

脳の計測データは、ヒトではfMRI(血流の変化から脳活動を測る方法)、小さな生物ではカルシウムイメージング(神経が働くときの細胞内カルシウムの変化を蛍光で見る方法)と、種によって手法が違います。研究グループは、信号の揺らぎ方を数千種類の時系列特徴(時間とともに変わる信号の性質を数値にしたもの)に置き換える手法を使い、異なる計測でも同じ物差しで比べられるようにしました。その結果、活動の持続性の低下と領域間の同期の低下が、種や麻酔薬を問わずそろって現れました。

②反応の回復と活動の変化が連動した

注目したいのは、マカクの実験です。麻酔中に脳深部刺激(脳の特定部位を電気で刺激する方法)を視床の一部に加えて反応が戻ると、短くなっていた時間スケールが再び長くなりました。刺激しても反応が戻らない部位では、この変化は見られませんでした。研究グループは、捉えた神経動態が外界に反応できる状態と関係していると説明しています。あくまで動物と計測データによる基礎研究であり、臨床の麻酔管理にすぐ結びつくものではありません。

編集部からひとこと

麻酔下の脳を「活動が弱まった状態」ではなく、時間と空間の両面でつながりが弱まる状態として捉え直した点が興味深い成果です。ヒトから線虫までを共通の物差しで並べた解析の枠組みは、研究グループが述べるように、ほかの脳状態や病気の理解へ広がる可能性があります。今後の展開に注目したいと思います。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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