2026.08.06 理化学研究所 元発表:2026.08.05

植物の気孔を閉じさせて乾燥に耐えさせる化合物を同定、理研などが類縁体の合成にも成功(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「植物の乾燥耐性を向上させる化合物の開発」

理化学研究所 環境資源科学研究センターの関原明 チームディレクター、バシル・クーラム 客員研究員(現 ラホール経営科学大学 准教授)は、東北大学、九州大学、ミラノ大学(イタリア)、新潟薬科大学、アストロバイオロジーセンター、名古屋大学、熊本大学、静岡大学、岡山大学、CSIC(スペイン)、ミュンスター大学(ドイツ)と共同で、気孔の開口を促すカリウムイオン(K+)チャネルの阻害剤NS5806を同定し、さらにその類縁化合物UA49の合成にも成功した。発表によると、植物の葉にある気孔はガス交換や蒸散を担う一方、乾燥時には閉鎖して水分の損失を防ぐ性質を持ち、気候変動対策として農作物に乾燥耐性を付与する植物調節剤(バイオスティミュラント)の開発が求められている。NS5806/UA49を植物に噴霧すると気孔の開口抑制(閉鎖誘導)が起こり、乾燥耐性が付与されることが実証された。さらに本化合物を用いた解析から、K+チャネルが環境応答に重要なCaシグナルの生成に関与している可能性が示唆されたという。原論文のDOIは 10.1038/s41467-026-75894-w。

出典:理化学研究所(東北大学・九州大学ほか12機関との共同研究) 2026年8月5日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260805_2/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

植物の葉の表面には、気孔と呼ばれる小さな穴が並んでいます。気孔は光合成に必要な二酸化炭素を取り込む入口である一方、水が出ていく出口でもあります。そのため植物は、乾燥してくると気孔を閉じて水を守ります。この切り替えを担う代表的な物質がアブシシン酸(ABA)という植物ホルモンで、乾燥ストレスを受けると植物の中のABA量は10〜100倍にまで増えることが知られています。ABAを作れない、あるいは受け取れない変異株は気孔を閉じられず、ひどく萎れてしまいます。気孔の開け閉めを外から操作できれば、水が足りない条件でも作物を保てるのではないか、という発想はここから来ています。

①ホルモンではなくイオンの通り道を止める

今回同定されたNS5806は、気孔の開口を促すカリウムイオン(K+)チャネルの阻害剤です。気孔は、周りにある孔辺細胞にカリウムイオンなどが出入りして膨らんだり縮んだりすることで開閉します。その通り道をふさぐと、開く方向の動きが抑えられ、結果として閉じる側に傾きます。ABAのようなホルモンの経路に働きかけるのではなく、開閉の物理的な仕組みそのものに介入している点が特徴です。研究グループはNS5806の類縁化合物であるUA49の合成にも成功しており、噴霧によって気孔の開口抑制と乾燥耐性の付与が実証されたとしています。

②農薬ではなく植物調節剤という枠組み

発表では、こうした化合物が植物調節剤(バイオスティミュラント)として位置づけられています。バイオスティミュラントは、病害虫を叩く農薬とは別の枠組みで、植物がもともと持つ環境ストレスへの耐性を引き出す資材を指します。農林水産省も現状と課題の整理を進めている分野で、ABA合成を介した気孔閉鎖や、ケイ酸による乾燥・高温ストレスの軽減などが成分として知られています。今回の研究はさらに、この化合物を道具として使った解析から、K+チャネルが環境応答に重要なCaシグナルの生成に関与している可能性も示唆したとしています。作物に使う資材の候補であると同時に、気孔の仕組みを調べる研究用の道具にもなる、という二面性があります。

編集部からひとこと

乾燥に強い作物を作る、というと品種改良や遺伝子の話になりやすいのですが、今回は葉に噴きかける化合物という手段でした。品種を変えずに済むぶん、既に育てている作物にも使える可能性があります。気孔を閉じれば水は守れますが、同時に二酸化炭素の取り込みも減るはずで、収量との兼ね合いをどう取るかは今後の実証を待ちたいところです。国内外13機関が名を連ねている点も目を引きました。気候変動への対応が、化学・植物生理・合成の各分野をまたぐ課題になっていることが分かります。

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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