2026.10.24 │ 理化学研究所 │ 元発表:2026.10.23

広島大学ら、抗真菌物質が酵母の細胞壁を厚くする仕組みを解明

ニュース紹介

「抗真菌物質が酵母の細胞壁を厚くする仕組みを解明-海洋生物由来の抗真菌ペプチドが引き起こす防御反応の一端を明らかに-」

広島大学大学院統合生命科学研究科の西村慎一教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の大学院生 中尾拳典さんと菅長昭文さん、理化学研究所環境資源科学研究センターの吉田稔ユニットリーダー(東京大学特別教授)、スペインのサラマンカ大学を中心とする研究チームは、海に棲むカイメンが持つ抗真菌ペプチド「セオネラミドA」が、分裂酵母の細胞壁を異常に厚くする仕組みを明らかにしました。

細胞壁が厚くなる主な原因は、細胞壁の主成分である1,3-β-グルカン(ブドウ糖がつながった多糖)が過剰にたまることでした。グルカンをつくる酵素の活性が上がるのではなく、酵素が細胞の先端や分裂する場所に本来より長くとどまり続けることが関係していました。さらに、細胞の形や成長方向を制御するタンパク質「Cdc42」が、この現象に関わっている可能性も示されました。成果は2026年10月1日に米国科学誌iScienceに掲載されました。

出典:理化学研究所・広島大学・東京大学 2026年10月23日 プレスリリース(掲載誌:iScience/DOI: 10.1016/j.isci.2026.117645)
https://www.riken.jp/press/2026/20261023_1/index.html
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/100778

FrontJournalの解説

真菌感染症と抗真菌薬とは

今回のテーマは「抗真菌薬」(カビや酵母などの真菌に効く薬)です。真菌感染症には、水虫のような身近な病気から、肺や血液に感染して重症化する病気まであります。研究チームによると、体の深い部分に感染する真菌症は重くなることがあり、治療薬の種類が限られていることから新しい薬の開発が求められています。

真菌はヒトと同じく核を持つ生物のため、真菌だけに効く標的を見つけることが薬づくりの鍵になります。これまでの抗真菌薬の主な標的は、真菌の細胞膜にある脂質「エルゴステロール」でした。もう1つの標的が、ヒトの細胞には無い細胞壁です。たとえばエキノカンジン系の薬は、1,3-β-グルカンをつくる酵素の働きを妨げることで効果を発揮します。

①酵素が「同じ場所で働き続ける」ことが原因

研究チームは以前、セオネラミドAがエルゴステロールに結合して真菌を抑えること、分裂酵母の細胞壁を大きく厚くすることを報告していました。今回は、どの成分が増えるのかと、その仕組みを調べました。電子顕微鏡で観察すると、細胞の先端や分裂する場所の内側に壁の成分がたまっており、主成分は1,3-β-グルカンでした。グルカン合成酵素(Bgs1)を蛍光で光らせて追うと、通常は必要な時間だけその場で働く酵素が、セオネラミドAを加えると長くとどまり続けていました。その結果、グルカンがつくられ続けて壁が厚くなると考えられます。

②細胞膜の異常から細胞壁へつながる道筋

研究チームは、細胞のどこにどのタンパク質があるかを網羅的に調べました。その結果、細胞の向きや形を決める複数のタンパク質が、壁が厚くなった場所に集まっていました。そのうちの1つであるCdc42は、壁が厚くなった場所で活性化していました。研究チームは、セオネラミドAがエルゴステロールに結合して細胞膜に異常が起き、Cdc42が活性化され、その先で合成酵素が過剰に運ばれるという流れを示しています。膜の異常がCdc42の活性化につながる仕組みは、今後の課題とされています。

編集部からひとこと

研究チームは、グルカンをつくる力が弱い変異株がセオネラミドAに弱いことから、細胞壁の異常な合成は細胞を守るストレス応答の一部である可能性を示しています。真菌が細胞壁を保つための信号の伝わり方が分かれば、これまでと異なる仕組みで効く抗真菌薬の開発につながると期待されています。細胞膜と細胞壁という2つの標的を結ぶ道筋に光を当てた基礎研究として、今後の解明に注目したい成果です。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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