2026.10.22 │ 科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.21

KEKと筑波大学、半導体中を流れる伝導正孔を光電子顕微鏡で可視化

ニュース紹介

「「存在する」から「見える」へ。半導体中を流れる伝導正孔の可視化に初めて成功~100年前にディラック博士が提唱した「負のエネルギーを持つ電子」を捉える~」

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の福本恵紀特任准教授と筑波大学の吉川康介氏らは、半導体デバイスを動かす電荷キャリアの一つである「伝導正孔」の可視化に成功しました。パルスレーザーを光源とするフェムト秒光電子顕微鏡を使い、電界効果トランジスタが動作する環境で正孔を直接観測し、観測に必要な条件と手順を詳しく示しています。従来のホール効果などの電気計測はトランジスタ全体の平均しか得られませんでしたが、今回の画像化により、膜厚などの不均一性が正孔の観測に影響することが分かりました。共同研究には物質・材料研究機構(NIMS)も参加しています。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年10月21日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261021-5/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

半導体の中で電気を運ぶものは2種類あります。1つは自由に動く電子(伝導電子)、もう1つは電子が抜けたあとの「穴」である正孔(ホール:プラスの電荷を持つように振る舞う)です。トランジスタや太陽電池は、この2つの動きを組み合わせて働いています。正孔の存在は、1929年に物理学者ディラックが示した「負のエネルギーを持つ粒子」の考え方や、同時期のパイエルスによるホール効果の理論にさかのぼります。

①動いている素子の中を「画像」で見る

研究グループが使った光電子顕微鏡(PEEM:光を当てて飛び出した電子を拡大して像にする顕微鏡)は、物質の電子の状態に敏感な手法として知られています。今回は光源に極めて短いパルスのレーザーを使い、電界効果トランジスタ(FET:電圧で電流のオン・オフを切り替える素子)を実際に動かしながら観測しました。これまで正孔の振る舞いは素子全体の平均値として電気的に測るしかなく、素子の中のどこを正孔が流れているかという空間的な分布を捉えた例はありませんでした。

②膜厚のむらが正孔の観測に影響

画像で見たことで、トランジスタ内の膜厚などの不均一性が正孔の観測に影響することが特定されました。平均値の測定では見えにくい場所ごとの違いを調べられる点が、この手法の特徴です。発表では、ダイオード、トランジスタ、太陽電池、発光デバイス、光触媒など幅広い半導体デバイスの評価や開発への応用が期待されるとしています。論文は米国の学術誌「Applied Physics Reviews」に掲載されました(DOI: 10.1063/5.0335842)。

編集部からひとこと

半導体の性能を上げるには、素子の中で電荷がどう流れているかを知ることが欠かせません。100年近く理論の中にあった正孔を、動作中の素子の中で場所ごとに見られるようになったことは、デバイス開発の評価手段を増やす一歩といえます。観測の手順まで公開されている点も、他の研究者が手法を使う助けになりそうです。研究はJSTの創発的研究支援事業の支援を受けています。

FrontJournal編集部

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