2026.07.15
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科学技術振興機構(JST)
東大が金属中の水素の「粒子と波」を切り替える結晶対称性の役割を解明(FrontJournal解説)
ニュース紹介
「水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか~結晶対称性が量子トンネル現象を支配することを解明~」
東京大学生産技術研究所のダス・スデアンス・シェーカール特任研究員、小澤孝拓助教、福谷克之教授らの研究グループは、金属バナジウムの中にある水素が、その濃度に応じて異なる状態を示すことを解明しました。成果は科学技術振興機構(JST)との共同で2026年7月15日に発表されました。
研究によると、水素の濃度が低いときは結晶構造の対称性が高く、水素は複数の場所に同時に存在する波のような量子状態を示します。一方、濃度が高くなると結晶の対称性が下がり、水素は1つの場所にとどまる粒子のような状態へと変わります。結晶の対称性が高いほど、水素が障壁をすり抜ける「量子トンネル現象」が活発になり、波のような振る舞いが強まることを明らかにしました。共鳴核反応法、電気伝導測定、第一原理量子ダイナミクス計算を組み合わせて分析したもので、水素の拡散や吸蔵の制御、新たな水素関連材料の開発への応用が期待されるとしています。
出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月15日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260715-2/index.html
FrontJournalの解説
「粒子」と「波」の二つの顔とは
私たちの身のまわりのものは、ふつう「粒(つぶ)」として一つの場所に存在します。ところが、水素のようにとても軽い原子は、条件によっては波のように複数の場所へ同時に広がるという、量子力学ならではの性質を示します。今回の研究は、金属の中の水素がこの「粒子」と「波」の二つの顔を、まわりの条件によって切り替えることを、実験と計算の両面から確かめたものです。
①結晶の対称性が量子トンネルを左右する
物質の中を原子が移動するとき、通常は「壁(エネルギーの障壁)」を乗り越える必要があります。しかし量子の世界では、壁をすり抜けるように移動する「量子トンネル現象」が起こります。今回の研究は、水素を取り囲む結晶の対称性が高いほど、このトンネル現象が活発になり、水素が波のように振る舞うことを示しました。目に見えない結晶の構造が、水素の動きやすさを左右していることが分かったのです。
②水素材料の開発につながる基礎研究
水素は、燃料電池や水素貯蔵など、脱炭素社会に向けた技術で重要な役割を担うと期待されています。金属の中で水素がどのように動き、たくわえられるかを原子レベルで理解することは、そうした材料を設計するうえでの土台になります。今回の成果は、すぐに製品になるものではありませんが、水素を扱う材料の性能を高めるための基礎的な知見を与えるものです。
編集部からひとこと
「水素はいつ粒子になり、いつ波になるのか」という問いは、一見すると純粋な物理の話に見えますが、その答えは水素をたくわえ・運ぶ材料の開発という実用的な課題につながっています。目に見えない結晶の対称性が、水素の量子的な振る舞いを左右するという今回の発見は、基礎研究が新しい材料の設計指針を生み出す一例といえます。水素エネルギーの活用が進むなかで、こうした基礎研究の積み重ねが今後どう生かされるか、注目されます。