KUREi「過冷却促進物質」を研究

株式会社KUREi(カレイ)

KUREi「過冷却促進物質」を研究

企業紹介|株式会社KUREiとは?

氷点下でも水が凍りにくい状態を保つ物質として、農業や食品保存で注目を集める「過冷却促進物質」。株式会社KUREiは、その社会実装を目指す、関西大学発のバイオ系ディープテック企業です。コーヒー粕のエキスから作る凍霜害(霜や低温で作物が傷む被害)の防除剤「フロストバスター」を、アサヒグループと共同で実用化し、果樹の農家向けに販売しています。

キーワード「過冷却促進物質」

「過冷却促進物質」は、水が0℃を下回っても凍らずに液体のまま保たれる状態(過冷却)を、長く保たせる物質です。氷の結晶のもとになる氷核(微小な核)の形成を妨げることで、氷ができるきっかけを減らします。霜による果樹の被害や、農産物の凍結による傷みを抑える手段として期待されています。

市場課題|果樹の遅霜被害は、従来の対策で負担が大きい

現状の霜害対策の課題

遅霜で花と幼果が傷み減収の恐れ

遅霜は果樹の花や幼果を傷め、収量を大きく減らしかねません。果樹の凍霜害は、春の発芽期から結実期に降りる遅霜が、花や幼果、新梢(その年に伸びる若い枝)の先端といった低温に弱い部位を傷める被害です。被害を受けた部位には褐変や生育不良、着果不良、枯死などの症状が現れ、果実の品質も下がります。

夜間の防霜作業が農家の重荷

霜に備える夜間作業は、農家にとって大きな負担です。従来は、防霜ファン(霜を防ぐための送風機)や燃焼資材(燃やして使う防霜資材)が一般的で、防霜ファンは設置に費用がかかり、燃焼資材は夜中から明け方まで作業が続きます。この負担が続けば、防霜の対策そのものを維持しにくくなる恐れがあります。

他にも、防霜ファンの事前の点検、燃焼資材の事前の用意、タイマーの調整、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 凍霜害春の遅霜や秋の早霜によって、植物の花や果実、新梢などの組織が低温で傷む被害を指す。果樹では、発芽期から結実期にかけての遅霜による被害が特に問題となる。

KUREiの強み|「過冷却促進物質」を研究

KUREiが「過冷却促進物質」を研究

氷の核の形成を妨げ霜害を抑制

過冷却促進物質としては、香辛料クローブの精油成分オイゲノールやヒノキの成分ヒノキチオールが研究されてきましたが、生産性とコストの面で実用化に至っていません。

KUREiの技術は、食品加工で出る副産物の熱水抽出物に、氷核の形成を妨げる活性があるという発見が出発点です。活性を示した副産物の一つがコーヒー粕で、そのエキスの主成分はポリフェノール(植物に含まれる成分)などです。同社はこのエキスを凍霜害の防除剤の原料にしています。果樹へ散布すると、氷ができるきっかけが減って、氷点下でも花や幼果が凍りにくい状態になるのが特徴です。散布で花や幼果を守る手段が加わり、農家が選べる防霜の手段が広がります。

予報に合わせた散布で防霜

従来の燃焼資材と防霜ファンは、設備の設置や夜間の作業を前提とする方式です。

同社の「フロストバスター」は、コーヒー粕のエキスを水で500倍に薄めた液で、低温予報の直前に散布して使います。農薬との混用も可能です。原料は、アサヒグループの飲料メーカーが工場で出す副産物のコーヒー粕です。2019年に1府4県で12の作物を対象に行った試験では、ニホンナシの畑で霜害を最大48%抑えた例がありました。散布という短い作業で防霜に備えられるため、農家は設備や夜間の燃焼作業の負担を減らせます。

FrontJournalの解説
  • 氷核水が凍るときに、氷の結晶が成長するもとになる微小な核を指す。水中の微粒子や細菌などの異物がこの働きをもつ。氷核ができるまで、水は0℃以下でも液体のままである。

過冷却促進物質の未来|農産物の保存や医療への応用

過冷却促進物質が変える未来

果樹の防霜資材として発売

「フロストバスター」は、果樹の凍霜害を防ぐ散布型の資材です。JA全農福島(全国農業協同組合連合会の福島県本部)の肥料農薬部は、2022年3月号の技術情報で、JAグループで取り扱いのある防霜資材の1つとして紹介しました。この資材は、散布の回数に制限がありません。産地の農家にとっては、霜の予報が出た際に取れる行動が1つ増えます。

果実の未凍結保存へ研究が進む

過冷却促進物質を、収穫した農産物を凍らせずに保存する技術に使う研究が進んでいます。この研究は、関西大学が代表を務める共同研究組織(コンソーシアム)で行われ、同社も構成員として加わりました。イチジク「桝井ドーフィン」で、食品由来の過冷却エキスを樹上に散布した完熟果と散布しない果実を−2℃で保存した場合、散布しない果実は10〜20%が凍結し、散布した完熟果は凍結せず20日間の販売が可能と確認されています。収穫後の鮮度を長く保てれば、農産物の廃棄ロスを減らしつつ、遠くへ届ける流通の選択肢が広がります。

細胞や臓器の保存を目指す

同社の事業分野の1つが、細胞や臓器を凍らせずに保存する未凍結保存(臓器保存液など)です。過冷却促進物質は氷の形成を妨げるため、凍結による細胞の損傷を避けた保存が期待されています。実現すれば、組織や臓器の保存手段が増える可能性があります。

会社概要|KUREiの事業内容・設立背景

関西大学の研究成果から設立

同社は、関西大学化学生命工学部の河原秀久教授が研究で開発した氷結晶制御技術「iConTech(アイコンテック)」を事業にするため、2016年11月に設立されました。河原氏は、食品加工で出る副産物から過冷却促進物質を探す研究を進めてきました。同社は、過冷却エキス(過冷却促進物質)の研究と製造、販売を事業としています。

アサヒの出資と製品の発売

2019年3月に、アサヒグループホールディングスがコーヒー粕を原料とする凍霜害防止材の事業化に向けて同社への出資を発表しました。アサヒグループの飲料メーカーが工場で出すコーヒー粕を使い、両社で共同開発した「フロストバスター」は2020年3月に発売されました。同社は、関西大学を研究代表機関とする過冷却促進技術の共同研究組織の構成員でもあります。

副産物を原料に製造し販売

2019年の事業化の時点では、アサヒ飲料の北陸工場が出す年約9,000トンのコーヒー粕が活用の対象でした。工場で出る副産物を原料に使うため、廃棄される資源の用途が広がります。

会社情報

会社名株式会社KUREi
所在地大阪府枚方市長尾元町7丁目11番34号
設立2016年11月
調達2019年3月にアサヒグループホールディングスが出資を発表
事業過冷却エキス(過冷却促進物質)の研究・製造・販売。凍霜害防除剤「フロストバスター」
技術領域氷結晶制御技術「iConTech」による、コーヒー粕などの副産物を原料とした過冷却促進物質
連携アサヒグループホールディングス(出資・「フロストバスター」の共同開発)。関西大学(過冷却促進技術の共同研究組織の研究代表機関)
URLhttps://kurei.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

飲料工場で出るコーヒー粕が、果樹を霜から守る資材に変わる。KUREiの取り組みは、食品の副産物に農業の課題の答えを見いだした例です。副産物の活用を進める企業は、食品廃棄物から昆虫飼料を作るBooonの企業紹介でも読めます。

設備や夜間の作業で霜に備える従来の防霜に対し、氷ができるきっかけそのものを妨げるという発想は、農家の負担を別の角度から減らす試みだと考えます。農家が霜の予報に合わせて自分で散布できる点は、現場に広がる土台になりそうです。散布という使い方の分かりやすさも、現場で使いやすい特徴だと考えます。

凍霜害の防止から農産物の保存、さらに医療へ。凍らせずに保てる時間を延ばす技術が、食と医療の現場に広がる日を楽しみにしています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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