病気の原因遺伝子を書き換えるゲノム編集を研究する Mammoth Biosciences(米国発)

原因遺伝子を書き換える「ゲノム編集」を研究【Mammoth Biosciences|米国発】

遺伝子の変化が原因の病気の多くは、症状を抑える治療を続けることが中心で、原因に直接働きかける治療法が求められています。この課題に挑むのが、米国のマンモス・バイオサイエンシズ(Mammoth Biosciences)です。超小型のCRISPR(クリスパー)酵素を使い、病気の原因遺伝子を体内で書き換える「ゲノム編集」の治療法を研究し、肝臓向けの「MB-111」は2026年の臨床試験入りを見込んでいます。2024年4月には、米製薬大手Regeneron(リジェネロン)との提携で、出資を含む約1億ドル(約150億円)を受け取ると発表しました。

遺伝性疾患の治療の課題

Mammoth Biosciencesの紹介と、遺伝子が原因の病気は治療が長期化し、編集道具の運び役が小さいため届く臓器が偏ることを示す図

原因遺伝子が残り治療が長期化

遺伝子の変化が原因の病気の多くは、症状を抑える薬を使い続ける治療が中心で、原因の遺伝子は体内に残ります。例えば家族性高カイロミクロン血症候群(FCS)は、血液中の中性脂肪が極めて高くなる遺伝性の病気で、急性膵炎を繰り返すおそれがあります。このままでは、患者は生涯にわたって厳しい食事制限と通院を続けることになります。

運べる酵素の大きさに制約

原因遺伝子を直接書き換える「ゲノム編集」の治療が研究されていますが、編集の道具を狙った臓器へ届ける手段は限られています。運び役として使われるアデノ随伴ウイルス(AAV)は積める遺伝子の量が小さく、代表的な編集酵素Cas9(キャスナイン)は編集道具一式を1つのAAVに収めにくい大きさです。このままでは、治療の対象が肝臓のように届けやすい臓器の病気に偏ります。

FrontJournalの解説
  • ゲノム編集酵素を使ってDNAの狙った位置を切ったり書き換えたりする技術。薬で症状を抑える治療と異なり、病気の原因となる遺伝子そのものに働きかける。
  • アデノ随伴ウイルス(AAV)病気を起こしにくいウイルスの殻を、遺伝子の運び役として使うもの。遺伝子治療で広く使われるが、積める遺伝子の量は小さい。

Mammoth Biosciencesが「ゲノム編集」を研究

Mammoth Biosciencesのゲノム編集研究を示す図。超小型の酵素で肝臓の外も編集し、肝臓向けは短いmRNAで運ぶする

課題解決に挑むMammoth Biosciences

Mammoth Biosciencesは、超小型のCRISPR酵素を使う「ゲノム編集」の治療法を研究しています。2017年に創業し、米カリフォルニア州ブリスベンに本社を置きます。カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ氏らが共同で創業し、ダウドナ氏は2020年にCRISPRの研究でノーベル化学賞を受賞しました。

超小型酵素で肝臓の外も編集

同社の編集酵素「NanoCas」は、Cas9の約3分の1の大きさです。編集道具一式を1つのAAVに収められるため、血管から投与して全身の筋肉へ届ける設計です。2025年1月の発表では、サルの骨格筋で最大約30%、心臓で約15%の編集効率を確認しました。筋肉に原因がある病気も、「ゲノム編集」治療の対象に入る可能性があります。

肝臓向けは短いmRNAで運ぶ

肝臓向けには、編集酵素の設計図であるmRNAを脂質の小さな粒子(LNP)に包んで届けます。酵素が小さいほどmRNAも短くなり、LNPに効率よく詰められると同社は説明しています。この方式で開発する「MB-111」は、肝臓のAPOC3遺伝子の働きを止め、中性脂肪を下げることをねらいます。

FrontJournalの解説
  • CRISPR細菌がウイルスから身を守るしくみを応用した、DNAの狙った位置を探して切る道具。案内役のRNAと、DNAを切る酵素(Cas9など)の組み合わせで働く。
  • mRNAたんぱく質を合成するための設計図を写し取った分子。細胞に入ると、書かれた情報どおりのたんぱく質が合成される。
  • LNP(脂質ナノ粒子)脂質でできた小さな粒子で、mRNAなどを包んで細胞へ届ける。新型コロナウイルスのmRNAワクチンにも使われた。

ゲノム編集の未来

ゲノム編集の未来を示す図。1回の投与で効果が続く治療をめざし、筋肉の病気への応用を目指し、製薬大手と提携して開発を進める

MB-111で臨床入りへ

「MB-111」は、1回の投与で効果が続く治療を目指しています。サルの試験では肝臓の編集がほぼ上限まで進み、血液中のapoC-III(アポシースリー)というたんぱく質の減少が続きました。同社は2025年10月、2026年の臨床試験入りに見通しが立ったと発表しました。実現すれば、FCSや重症の高トリグリセリド血症の患者が、薬を使い続ける負担を減らせる可能性があります。

筋肉の病気の治療を目指す

同社は「NanoCas」を使い、筋肉や心臓など肝臓の外の臓器へ「ゲノム編集」治療を広げることを目指しています。マウスの実験では、筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子を対象に、筋肉で約10〜40%の編集効率を確認しました。現在は動物実験の段階で、人での効果はこれから確かめられます。実用化すれば、筋肉の病気にも原因遺伝子から向き合う治療が選択肢に入ります。

製薬大手と提携し開発へ

2024年4月、Regeneronと提携し、出資を含む約1億ドル(約150億円)を受け取ると発表しました。開発・販売の進み具合に応じて、対象の病気ごとに最大約3.7億ドル(約555億円)を受け取る可能性があります。2021年9月には1.5億ドル(約225億円)を調達し、評価額は10億ドル(約1,500億円)を超えたと報じられました。両社は、Regeneronが持つAAVの設計力と同社の超小型酵素を組み合わせ、肝臓以外の臓器に届く治療の開発を目指しています。

FrontJournalの解説
  • 筋ジストロフィー筋肉の細胞が壊れやすくなり、筋力が徐々に低下する遺伝性の病気の総称。代表的なデュシェンヌ型は、ジストロフィン遺伝子の変化が原因である。
  • 編集効率対象の組織の細胞のうち、狙った遺伝子の編集が起きた割合。治療効果を見込むための目安の1つになる。

まとめ

Mammoth Biosciencesは超小型のCRISPR酵素で、「ゲノム編集」治療の届く範囲を肝臓の外へ広げる研究を進めています。肝臓向けの「MB-111」は2026年の臨床試験入りを見込み、筋肉の編集もサルで確認しました。国内でも、小腸がんの新しい原因遺伝子の発見や、変異遺伝子だけを抑えるsiRNA技術、ブリッジRNAを使うゲノム改変技術の基盤研究など、遺伝子に働きかける治療につながる成果が報告されています。FrontJournal編集部は、こうした研究と送達技術の進歩が結びつき、治療の選択肢が広がることに期待しています。2026年10月に開かれるBioJapan 2026のような商談の場で、「ゲノム編集」をめぐる国内外の企業の連携がどう進むかにも注目します。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Mammoth Biosciences 公式(会社概要・パイプライン・ニュースリリース)、Regeneron 公式ニュースリリース、TechCrunch(2021年9月9日)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら