アイカムス・ラボ|岩手大学発の「電動ピペット」で分注の精度と研究者の手の負担を改善するディープテック企業

株式会社アイカムス・ラボ

アイカムス・ラボ「電動ピペット」を開発|研究領域=液体の吸引と吐出をモーターで行う器具/強み=本体は軽く手の熱も補正/将来性=記録を自動で残し再生医療へ展開

企業紹介|アイカムス・ラボとは?

実験で液体を決まった量ずつ吸い取って移す作業を、ボタン操作で行う器具として、研究や検査の現場で使われる「電動ピペット」。アイカムス・ラボは、その開発と製造に取り組む、岩手大学発のライフサイエンス機器系ディープテック企業です。プラスチック歯車で作る小型の駆動装置を載せ、ペン型電動ピペット「pipetty」を研究機関や検査の現場へ提供しています。

キーワード「電動ピペット」

電動ピペットは、ピペット(液体を一定量だけ吸い取って移す器具)の吸引と吐出を、モーターで行う器具です。ボタンを押すだけで、決まった量を移す分注(液体を一定量ずつ分けて移す操作)や、同じ量ずつ何回にも出す連続分注が可能です。人による液量のばらつきを抑えられるため、分注の精度が結果を左右する遺伝子の検査などに向いています。

市場課題|手作業の分注は精度と研究者の負担に課題

現状の分注作業の課題|現状は、手作業で精度がばらつき、手にも負担がかかる/手動の分注で精度がばらつく/手動は手を痛め電動は高価

手動の分注で精度がばらつく

分注の大半を占める手動のピペットでは、作業者ごとの精度のばらつきが課題です。押し込む手技が人ごとに異なるうえ、握る手の熱が本体の内部に伝わる「ハンドウォーミング」によっても、分注の精度が悪化します。分注の精度は実験の再現性を左右するため、ばらつきが残ると、結果がそろいにくくなります。

手動は手を痛め電動は高価

手動の分注作業は研究者の手首や指に負担をかけますが、負担を減らせる電動のピペットは手動より高価です。手動のピペットは重さがあり、繰り返しの作業で腱鞘炎(手首や指の腱の炎症)に悩む研究者も多いといわれています。電動ピペットは重く大きいという印象を持つ人も多く、価格の相場も8万〜10万円ほどと手動より高価です。

他にも、同じ容器への二重分注や入れ忘れ、分注量の切り替えの手間、記録の手間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ハンドウォーミングピペットを握る手の熱が本体の内部に伝わり、分注の精度が悪化する現象。作業が長くなるほど本体の温度が上がるため、同じ操作を続けていても、吸い取る液体の量が少しずつ設定からずれる原因になる。

アイカムス・ラボの強み|「電動ピペット」を開発

アイカムス・ラボが「電動ピペット」を開発|現在は、樹脂歯車で軽い電動ピペットを提供/温度補正で分注量を一定に/樹脂歯車で軽く安価な本体に

温度補正で分注量を一定に

従来のピペットは、押し込む手技や手の熱によって吸い取る量が変わるため、設定どおりの量を出し続けにくいという弱点がありました。

アイカムス・ラボの「pipetty」は、吸引と吐出をモーターで行い、ボタンを押すだけで設定した量を分注します。本体には温度センサーを載せ、手の熱で本体が温まっても、温度に応じて分注量を自動で補正する仕組みです。一度に吸った液体を同じ量ずつ何回にも分けて出す等量連続分注にも対応し、その精度を保証しています。作業者の手技や作業時間に左右されずに同じ量を出せるため、PCR(遺伝子を増やして調べる手法)の検査のように液量の差が結果を左右する作業でも、分注に起因する検査結果のばらつきを抑えられます。

樹脂歯車で軽く安価な本体に

モーターの回転を遅くして力を強める減速機(歯車の組み合わせで回転を落とす装置)は、金属の歯車を多段に重ねる方式が主流で、小さくするほど加工が難しく、部品も増えるという弱点がありました。

同社は、精密な金型で成形した、歯1つが約0.1mmのプラスチック歯車で、直径10mm以下の減速機を作りました。歯数の異なる2枚の内歯車(内側に歯が並ぶ輪の形の歯車)を重ねる「不思議歯車方式」により、1段で回転を約100分の1まで落とせるため、多段式に比べて部品を大きく減らせます。この歯車は無潤滑で動く設計です。この駆動装置を載せた「pipetty」は約75gと軽く、ペンのように持って分注できます。長い作業でも研究者の手の負担が軽くなり、価格も手動のピペットに近い水準に抑えられています。

FrontJournalの解説
  • 不思議歯車方式中心の太陽歯車の周りを回る遊星歯車が、歯数の異なる2枚の内歯車とかみ合う減速の仕組み。下の内歯車を固定して太陽歯車を回すと、歯数の差で上の内歯車がゆっくり回り、1段で大きな減速比が得られる。

未来|精密な電動ピペットの技術が研究と医療を変える

精密な電動ピペットが変える未来|液体制御の技術を研究と医療へ展開/分注の記録を自動で残す/細胞を精密に移植する装置/医療機器への展開を目指す

分注の記録を自動で残す

分注の作業記録を自動で残す仕組みは、すでに製品として実用化されています。Bluetooth(近距離の無線通信の規格)を載せた「pipetty Pro」は、パソコンの専用アプリで分注量をプログラムでき、量を切り替える手間を省けます。実験の日時や作業者名、分注量、温度、湿度の自動記録に加え、マイクロプレート(小さな穴が多数並んだ容器)のどこまで分注したかを示す画面表示も搭載。二重分注や入れ忘れを防げるため、製薬の研究や受託検査で、作業の信頼性を高められます。

細胞を精密に移植する装置

同社は液体制御の技術を生かし、細胞を精密に移植する装置の開発にも取り組んでいます。岩手医科大学の原田英光教授と共同開発した「超精密細胞移植デバイス」は、2026年3月の第25回日本再生医療学会総会に同社が出展しました。同社は理化学研究所と、iPS細胞(体の様々な細胞に変化できる人工多能性幹細胞)の移植装置の研究に取り組んでいます。同社は細胞を育てる培養装置も手がけ、育てる工程と移植する工程の両方に技術を広げています。

医療機器への展開を目指す

同社が目指すのは、小型で精密な液体制御の技術を、医療機器へ広げることです。同社の駆動装置は、医療や動物向けに薬液を精密に投与する装置にも使われています。同社が開発した細胞培養の実験装置は、国際宇宙ステーションでの実験にも使われました。薬液や細胞を必要な量だけ正確に届ける機器が広がれば、高品質な医療を安価に届けるという同社の目標に近づきます。

会社概要|株式会社アイカムス・ラボ

岩手大学との連携で創業

アイカムス・ラボは、2003年5月に岩手大学との共同研究から生まれた企業として、岩手県八幡平市で創立されました。現在の本社は盛岡市にあります。創業者の片野圭二氏は、アルプス電気の盛岡工場でプリンターの設計開発に携わり、工場の閉鎖を機に同僚らと同社を設立しました。事業の核は、岩手大学の精密金型技術を生かして共同開発したプラスチック歯車で作る小型の駆動装置(マイクロアクチュエーター)です。社名は、地域で研究開発からものづくりまでを完結させる理想郷(Ihatov)の実現(comes)を表します。

ものづくり日本大賞を受賞

同社は、ペン型電動ピペットの開発で、2020年1月に第8回「ものづくり日本大賞」の経済産業大臣賞を受賞しました。2018年8月には、医療機器の品質管理の国際規格「ISO13485」の認証を、歯科用機器を範囲として取得しています。2025年には、セルスペクト株式会社、株式会社TOLIMSと進めるスリランカでの水質管理システムの社会実証が、経済産業省の補助事業に採択されました。

東北に医療機器産業を集める

同社は、東北にライフサイエンス機器の産業を集める取り組みに参加しています。2015年に設立された事業化連携体(企業や大学、行政が製品化のために組む団体)「TOLIC」は、同社を含む民間企業19社と、大学や行政機関などの21機関を合わせた40機関の会員で構成されています。同社は2016年に、東北製の機器の販売を担う株式会社TOLIMSを設立し、現在は同社のグループ企業の1社です。TOLICに参加する企業どうしの共同開発からは、複数の製品が生まれています。

会社情報

会社名株式会社アイカムス・ラボ(Icomes Lab Co.,Ltd)
所在地岩手県盛岡市北飯岡二丁目4番23号
設立2003年5月28日
資本金4,227万円
事業マイクロアクチュエーターとその応用製品の開発・製造・販売。ペン型電動ピペット「pipetty」「pipetty Pro」・電動ディスペンサー「Tofutty」などの液体制御装置。製品・技術・製造装置・評価装置の受託開発
技術領域プラスチック歯車によるマイクロアクチュエーター(不思議歯車方式)、精密流体制御
連携岩手大学(プラスチック歯車の共同開発)。岩手医科大学(超精密細胞移植デバイスの共同開発)。理化学研究所(iPS細胞移植装置の研究)
採択第8回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞(2020年)。経済産業省 令和6年度補正グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(2025年・3社共同)。ISO13485認証(2018年)
URLhttps://www.icomes.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

液体を決まった量だけ移す分注は、生命科学の実験で繰り返し行われる基本の作業です。アイカムス・ラボは、その道具の中にある歯車を樹脂で作り直すことで、電動ピペットを小型・軽量にし、価格を手動のものに近づけてきました。手の熱まで補正に組み込んだ点には、現場の作業者の困りごとから設計を始める姿勢が表れています。

興味深いのは、同社の小さな駆動装置が、実験器具から再生医療の機器、宇宙での細胞実験にまで使われている点です。一つの駆動装置の改良が、分野の異なる複数の製品を支えています。岩手大学からは、いおう化学研究所のように、大学の研究を生かした企業がほかにも生まれています。

盛岡から生まれた歯車の技術が、研究と医療の現場の精度をどこまで高めていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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