トレジェムバイオファーマ株式会社|歯の発生を抑えるUSAG-1を中和する抗体医薬で歯の再生治療薬を開発する京都大学発ディープテック

トレジェムバイオファーマ株式会社(Toregem BioPharma)

トレジェムバイオファーマ「歯の再生治療薬」を研究|研究領域=歯を再び生やす抗体医薬/強み=休眠した歯胚に働きかける/将来性=先天性無歯症から歯科治療全般へ

企業紹介|トレジェムバイオファーマとは?

自分の歯を取り戻す治療として、研究が進む「歯の再生治療薬」。トレジェムバイオファーマは、その「歯の再生治療薬」の社会実装を目指す、京都大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。抗体医薬(特定の分子に結びつく抗体を薬にしたもの)「TRG035」を、生まれつき歯が欠けている先天性無歯症の患者に向けて開発しています。

キーワード「歯の再生治療薬」

歯の再生治療薬は、患者自身の歯を新たに生やすことを狙う医薬品で、通称「歯生え薬」とも呼ばれます。特徴は、顎の骨の中で休眠している歯胚(歯のもとになる組織)へ働きかけ、その成長を再び進める点です。人工の歯で補う義歯や歯科インプラントに対し、この薬は自分の歯を取り戻す根治的な治療を目指します。

市場課題|先天性無歯症は選択肢が限られる

現状の歯の欠損治療の課題|現状は、人工歯での代替に限られる/先天性無歯症は咀嚼と発音に影響/成長期は人工歯を入れにくい

先天性無歯症は咀嚼と発音に影響

生まれつき歯が1本でも欠けている先天性無歯症は、咀嚼や発音に影響します。見た目の問題も伴い、心理的な負担が大きい疾患です。歯が欠けたまま成長期を過ごすとオーラルフレイル(口の働きの衰え)の状態となり、栄養の確保と成長に悪影響が及ぶといわれています。

成長期は人工歯を入れにくい

既存の治療は、義歯や歯科インプラントによる人工歯の代替が中心です。ただし患者の多くは幼少期から治療を必要とし、その時期は顎の骨が発達の途中にあるため、これらの適応は困難です。歯が無いままだと顎の骨に噛む力が伝わらず、骨は次第に萎縮します。多数の歯が欠けた症例では、成人後に顎骨の再建を含む長期の治療を要します。

他にも、成人まで待つ期間の長さ、症例が少なく治療法を比べにくいために家族が治療方針を決めにくいこと、といった課題があるといわれています。

トレジェムバイオファーマの強み|抗体医薬

トレジェムバイオファーマが「歯の再生治療薬」を開発|今後は、USAG-1を抑え再生が可能に/USAG-1を抑え歯胚を活性化/注射薬で自分の歯を取り戻す

USAG-1を抑え歯胚を活性化

歯の欠損を補う治療は人工歯が中心で、歯そのものを生やす手段は限られてきました。

「TRG035」は、歯の発生を抑えるタンパク質USAG-1を中和する抗体医薬です。USAG-1は、歯や骨の形成を促す骨形成タンパク質(BMP)などの働きを阻害し、歯胚の成長を抑えています。起点は2007年、京都大学の髙橋克氏らが、この分子を欠くマウスで過剰な歯を発見したことでした。USAG-1を中和抗体で抑えると、無歯症のモデル動物で、欠けた歯が歯槽骨(歯を支える骨)とともに回復することが明らかになっています。ヒトでも休眠していた歯胚が活性化し、新しい歯が生えると期待されています。

注射薬で自分の歯を取り戻す

人工歯を顎の骨に固定する治療は、骨の成長が終わるまで適応が難しいものでした。

「TRG035」は注射で投与する抗体製剤で、患者自身の歯を再生する治療になり得ます。最初の適応疾患は、生まれつき複数の歯が欠けている重症型先天性部分無歯症で、2025年9月には厚生労働省から「希少疾病用医薬品」(患者数の少ない疾患を対象に、開発を後押しする指定制度)に指定されました。指定は開発段階の支援であり、製造販売の承認とは別です。顎の骨が育つ途中でも埋め込まずに歯を補えるため、成長期の患者に適します。投与によって歯が形成されれば、生涯自分の歯で食事を摂れる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • 歯の再生治療薬失った歯を人工物で補うのではなく、患者自身の歯を新たに形成させる医薬品を指す。あごの骨の中には、歯のもとになる歯胚が休眠したまま残っている場合がある。その成長を妨げる分子の働きを抗体で抑えると、歯胚が再び成長する。義歯やインプラントが失った歯の機能を代替するのに対し、歯そのものを取り戻す点で根本的に異なる。

歯の再生治療薬の未来|小児から高齢者へ

歯を再生する抗体医薬が変える未来|小児から高齢者へ、応用が期待される/第Ⅰ相試験を国内で完了/小児対象の第Ⅱa相試験へ/歯科治療の選択肢拡大を目指す

第Ⅰ相試験を国内で完了

「TRG035」は、日本国内で第Ⅰ相臨床試験が完了しています。この試験は、京都大学医学部附属病院で2024年10月に始まった医師主導治験です。動物モデルでの有効性はすでに確認されており、第Ⅰ相では安全性を確かめました。これにより、患者を対象とする次の試験へ進む条件が整いました。

小児対象の第Ⅱa相試験へ

次の段階は、小児の重症型先天性部分無歯症を対象とする第Ⅱa相試験です。複数の医療機関が参加し、比較対象を置かずに投与量を調べる試験で、目標症例数は24例とされています。2026年8月には、医薬品医療機器総合機構による治験計画届の調査が完了し、今後は治験審査委員会の審査などを経て、被験者の組み入れと投与を開始する予定です。米国では食品医薬品局(FDA)との事前相談を進めており、海外での臨床試験の準備も並行しています。

歯科治療の選択肢拡大を目指す

同社が目指すのは、歯科治療の選択肢を広げることです。USAG-1の中和抗体は、乳歯と永久歯に続く第三生歯(3番目に生える歯)を発生させることも期待されています。加齢で歯を失った人にも自分の歯が戻れば、高齢者のオーラルフレイルの改善も視野に入ります。人工の歯で補う治療に、自分の歯を取り戻す選択肢を加えることが目標です。

会社概要|トレジェムバイオファーマ株式会社

京都大学の研究から事業化

トレジェムバイオファーマは、2020年5月に京都市で設立されました。基盤となったのは、京都大学大学院医学研究科口腔外科学分野で歯の発生を研究してきた髙橋克氏の成果です。同社は、USAG-1の中和抗体という研究成果を医薬品として世に出すことを目的に設立され、共同創業者3名が開発を率いてきました。2026年8月28日には、8月27日付で新たな経営体制へ移行したと発表し、代表取締役CEOに和田博喜氏が就任しています。従業員数は14名です(2026年7月時点)。

創薬ベンチャー事業に採択

開発は公的機関の支援を受けています。2024年6月、先天性無歯症を対象とする「TRG035」の開発が、日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に採択されました。交付決定を受けた額は約19.2億円です。このほか、京都府の「産学公の森」推進事業や、海外展開を支援する事業にも採択されています。

累計46億円以上を調達

資金面では、2026年5月にPreシリーズCラウンドで約8.5億円を調達しました。PreシリーズCは、事業を次の成長段階へ進めるための資金調達にあたります。引受先はJICベンチャー・グロース・インベストメンツをはじめとする複数の投資家で、大阪大学ベンチャーキャピタルや松風なども参加しています。株式の発行による累計調達額は約26億円、AMEDの交付決定額を含む補助金の累計は約20億円で、合わせて46億円以上となります(2026年5月時点)。調達した資金は、国内の臨床試験と海外での臨床試験の準備に充てられる予定です。

会社情報

会社名トレジェムバイオファーマ株式会社(Toregem BioPharma Co., Ltd.)
所在地京都府京都市上京区河原町通今出川下る梶井町448-5 クリエイション・コア京都御車207号室
設立2020年5月12日
代表和田 博喜(代表取締役CEO・2026年8月27日付就任)
資本金5,000万円(2025年2月時点)
従業員14名(2026年7月時点)
調達累計46億円以上(2026年5月時点。エクイティ約26億円、補助金約20億円)。投資家はJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、大阪大学ベンチャーキャピタル、美ホールディングス、松風、SIIFインパクトキャピタル、中信ベンチャーキャピタルほか
事業歯数制御(歯が生えてくる本数を調整する技術)による歯の再生治療薬の開発。開発品はTRG035(ヒト化抗USAG-1抗体)で、2025年9月に希少疾病用医薬品へ指定
技術領域歯の再生治療薬、抗USAG-1抗体、抗体医薬、歯胚の活性化、先天性無歯症、創薬
採択AMED「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」(2024年6月・交付決定額 約19.2億円)。京都府「産学公の森」推進事業。海外展開を支援する事業
URLhttps://toregem.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

歯を失ったあとの治療は、長らく人工物で補う方法が前提でした。義歯もインプラントも完成度の高い技術ですが、失った歯そのものが戻るわけではありません。トレジェムバイオファーマが取り組むのは、その前提を組み替える研究です。

出発点は、過剰な歯を持つマウスの発見でした。そこからUSAG-1という分子にたどり着き、抗体という手段で歯胚を起こす道筋が描かれました。基礎研究で見つかった一つの手がかりを、17年かけて治験まで運んできた歩みには、確かな重みがあります。

最初に向き合う相手は、成人まで待つほかなかった先天性無歯症の子どもたちです。京都の研究室で見つかった分子が、その待ち時間を短くする日が近づいています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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