2026.10.13 │ 大阪大学・東京大学 │ 元発表:2026.09.30

大阪大学と東京大学、音波で流れる電流から高感度ひずみ検出へ道

ニュース紹介

「【研究成果】音波と電荷の波が生み出す電流 ──高感度ひずみセンシングへ道──」

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の二階堂夏海さん(研究当時:博士前期課程2年)、川田拓弥さん(現在:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教)、高田真太郎准教授、新見康洋教授、同先導的学際研究機構の近藤浩太准教授らの研究グループは、電荷密度波状態を示す層状物質を圧電基板LiNbO3上に転写し、固体中を伝わる音波の一種である表面弾性波を照射すると、音響電流と呼ばれる直流電流が流れることを確認しました。一次元鎖層状物質NbSe3では、約140 Kの電荷密度波転移温度で音響電流の符号が変化し、60 K以下の電荷密度波状態では大きく増大しました。

実験結果とモデル計算の照合から、音響電流はひずみによる電気の流れやすさ(電気伝導度)の変化に由来し、その変化率は電荷密度波状態では転移前の10倍以上になることが示されました。表面弾性波は櫛型電極に約300 MHzの交流電圧を加えて発生させています。成果は米国科学誌『Physical Review B』にEditors' Suggestionとして2026年9月30日(日本時間)にオンライン公開されました。

出典:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部/大阪大学 2026年9月30日 研究成果(掲載誌:Physical Review B/論文:"Significant modulation of acoustoelectric current associated with charge density wave transitions"/DOI: 10.1103/19zf-xskg)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20260930030000.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

今回の研究は、物質の中の電子のふるまいを扱う物性物理(固体の性質を電子や原子の動きから調べる分野)の成果です。舞台となる表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)は、圧電基板に交流電圧をかけると表面を伝わる音波で、波長がマイクロメートル程度と短いため素子を小さくでき、スマートフォンの高周波フィルタとして広く使われています。

電気を流す物質にSAWを当てると、波の進む方向に直流電流が流れます。これが音響電流で、近年はグラフェンを対象にした研究が多く、直流を測るだけで物質の状態を読み取れることからセンサーへの応用が検討されてきました。一方、原文によれば、グラフェン以外の層状物質での研究例はこれまで多くありませんでした。

①電荷密度波という「ひずんだ電子の秩序」

電荷密度波(CDW:Charge Density Wave)は、主に一次元・二次元の金属で、電子が周期的に集まったりまばらになったりして、電子の密度が空間的に波打つ状態です。結晶格子のひずみと一体で生じるため、ひずみとの結びつきが強いと考えられてきました。今回用いたNbSe3(セレン化ニオブ)は、一般に約145 Kと約59 Kの2段階でCDW転移を起こす物質として知られ、CDW研究の代表的な試料です。今回の発表で符号変化が約140 K、増大が60 K以下で見られた点は、この2段階の転移温度帯と対応しています。

②直流を測るだけでひずみを読む

研究グループは、音響電流の大きさが「ひずみに対して電気伝導度がどれだけ変わるか」を反映していることを、モデル計算との照合で示しました。CDW状態ではこの変化率が転移前の10倍以上になったことから、同じひずみでも大きな電気信号として取り出せる可能性があります。SAWを使う方式は、既存の高周波デバイス技術(櫛型電極と圧電基板)と組み合わせやすい点も特徴です。ただし今回の測定は50 Kなどの低温で行われており、室温での動作や具体的な素子化については発表内で示されていません。

編集部からひとこと

音波という身近な現象と、CDWという低温物理の現象を組み合わせ、「直流電流の符号と大きさ」という扱いやすい量で電子状態の変化を捉えた点に、基礎と応用の両面の面白さがあります。グラフェン以外の層状物質に音響電流の研究対象を広げる一例として、今後どのような物質で同様の増幅が得られるかに注目したいと思います。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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