2026.10.14 │ 早稲田大学・理化学研究所 │ 元発表:2026.10.13

早稲田大学・理研ら、12種アミノ酸の原始酵素でATP生成反応を発見

ニュース紹介

「生命のエネルギー通貨ATPをつくる『原始的酵素モデル』を構築 ―アミノ酸の種類を減らすことで、進化に埋もれたATP生成機能を発掘―」

早稲田大学人間科学学術院の赤沼哲史教授・八木創太講師、理化学研究所生命医科学研究センターの田上俊輔チームディレクター・Subrata Dasgupta研究員、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの研究グループは、現代の酵素より少ない種類のアミノ酸で原始的な酵素モデルを作製し、その機能を調べたと発表した。原始地球で利用できたと考えられる10種のアミノ酸にリジンとアルギニンを加えた12種のアミノ酸から酵素「Arc1-12KR」を構築したところ、もとの酵素にはない仕組みでADPからATPをつくる反応を触媒できることを見いだした。

出典:理化学研究所 2026年10月13日 プレスリリース(掲載誌:Angewandte Chemie International Edition/オンライン掲載 2026年10月10日付/DOI: 10.1002/anie.2166480)
https://www.riken.jp/press/2026/20261013_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

ATP(アデノシン三リン酸)は、ほぼすべての生物に共通する「エネルギー通貨」です。筋肉の収縮、神経の信号伝達、物質の合成など、生命活動のエネルギーはATPのリン酸結合を切ることで得られます。一方で、生命が誕生したばかりの原始地球で、どのようにATPの生成が始まったかは解けていない大きな問いの一つです。

現代の生物の酵素は20種のアミノ酸でできています。原始地球で利用できたアミノ酸はこれより少なかったと考えられており、「種類を減らすと酵素の働きは落ちる」というのが一般的な見方でした。研究グループは、過去の生物の酵素を実験的に再現する祖先配列再構成(ASR)という手法を使って、原始的な酵素の機能を調べてきました。

①12種のアミノ酸で原始酵素「Arc1-12KR」を構築

研究グループは、原始地球で利用できたと考えられる10種のアミノ酸に、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)を加えた12種のアミノ酸だけで、祖先配列を再構成したヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)型の原始酵素「Arc1-12KR」を作製した。NDKは、現代の生物においてATPなどの三リン酸から二リン酸へリン酸基を受け渡す酵素です。

構築したArc1-12KRには、現代型NDKの触媒に必須のヒスチジン(His)が存在しない。それでも機能するかを、反応速度論解析・変異体解析・X線結晶構造解析・分子動力学シミュレーション・ドッキングシミュレーションで詳しく調べた。

②もとの酵素にはない仕組みのATP生成反応を観測

解析の結果、Arc1-12KRは現代型NDKとは異なる触媒機構でATPをつくっていた。2分子のADPが同時に活性部位に結合し、ADP同士で直接リン酸基を移してATPとAMPを生成する「ADP不均化」の反応を触媒した。活性部位にはHisがなく、代わりにアスパラギン酸(Asp)、アルギニン(Arg)、マグネシウムイオン(Mg2+)が並んでいた。

プレスリリースによると、Arc1-12KRはあらかじめ比較対象として検討されたP-loop様ペプチドと比べて約7,500倍の効率でATP生成反応を触媒した。アミノ酸の種類を減らすという制約を加えたことで、現代型酵素では使われていない機能が顕在化したと研究グループは説明している。

編集部からひとこと

今回の成果は、生命誕生の初期に、わずかな種類のアミノ酸でもATP生成反応が成立し得たことを実験的に示した基礎研究です。発表時点では、詳細な反応機構の解明、他の酵素での検証、ATP利用代謝ネットワークでの機能検証が今後の課題として挙げられています。アミノ酸の組成を絞ることで隠れた機能が現れるという着眼点は、タンパク質工学や人工酵素の設計に手がかりを与える可能性があります。実用化の時期や応用先の具体像は、発表では触れられていません。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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