2026.10.16 │ 東京大学・理化学研究所 │ 元発表:2026.10.15

東京大学・理研ら、鉄さびの主成分ヘマタイトの隠れた磁気状態を解明

ニュース紹介

「鉄さびの中の隠れた磁気状態を解明 ―電場印加下のX線吸収分光と第一原理計算の融合で1兆分の1mm単位のイオン変位を捉える―」

東京大学大学院工学系研究科の林田健志助教(研究当時)、木村剛教授、理化学研究所放射光科学研究センターの田中良和研究員、玉作賢治チームリーダーらの研究グループは、フランス・ネール研究所、レンヌ大学との共同研究により、鉄さびの主成分であるヘマタイト(α-Fe2O3)に電場をかけながらX線を照射する新しい測定手法を開発し、電子の複雑な分布である「高次多極子状態」の検出に成功した。第一原理計算との融合により、電場で誘起される1兆分の1mmという原子核の大きさ程度のイオン変位が、この応答を引き出す要因であることも突き止めた。

出典:東京大学大学院工学系研究科 2026年10月15日 プレスリリース(掲載誌:Physical Review X/2026年10月14日付/DOI: 10.1103/p5ry-x2wr)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2026-10-15-001

FrontJournalの解説

この研究分野について

鉄さびの主成分であるヘマタイトは、古くから研究されてきた身近な磁性材料です。近年は、強磁性と反強磁性の双方の長所を併せ持つとされる新しい磁性状態「交替磁性」を示す物質として、世界的に再び注目されています。

ヘマタイトの内部には、N極とS極の単純な並びでは説明できない複雑な状態(高次多極子)が形成されています。しかし、従来の測定技術では磁気信号が互いに打ち消し合ってしまうため、実際の物理現象として詳細に観察することは困難でした。

①電場で対称性を崩し、打ち消し合っていた信号を取り出す

研究グループは、電場を加えて物質の空間的な対称性をあえて崩し、これまで打ち消し合って隠れていた微小な磁気信号を取り出す測定手法を提案・実施しました。大型放射光施設SPring-8のビームラインで、鉄のK吸収端付近のエネルギーのX線を用い、電場印加下でX線吸収測定を行いました。

その結果、電場の強さに比例して現れる特殊なX線応答「電場誘起X線非相反線二色性」を観測しました。

②第一原理計算が、数フェムトメートルのイオン変位を示した

第一原理計算を実施したところ、実験で得られたスペクトルや磁気ドメイン依存性、X線偏光依存性などを再現しました。この解析により、電場をかけた際に生じる数フェムトメートル(1兆分の1mm)という極めて微小なイオンの変位が、高次多極子の応答を引き出す要因であることを突き止めました。

研究グループは、この手法が従来は観察できなかった磁性材料内の高次多極子状態を可視化・同定する枠組みになるとし、将来は電流のロスを抑えた超高速・低消費電力の次世代スピンデバイスや量子材料の設計に貢献することが期待されると説明しています。

編集部からひとこと

今回の成果は、身近な材料であるヘマタイトの内部にある隠れた磁気状態を、電場とX線の組み合わせで直接捉えられることを示した基礎研究です。発表は、スピンデバイスなどへの貢献を「期待される」としており、具体的な素子の性能や実用化の時期は示されていません。この手法がヘマタイト以外の磁性材料でも同じように使えるかが、今後の注目点です。

FrontJournal編集部

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