2026.10.13 │ 京都大学iPS細胞研究所(CiRA) │ 元発表:2026.10.09

京都大学CiRAら、家族性ALSのSOD1変異をiPS細胞で一塩基修正

ニュース紹介

「SOD1遺伝子変異を一塩基単位で修正 ―家族性ALSを対象にiPS細胞で塩基編集とプライム編集を最適化―」

今村恵子(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、理化学研究所バイオリソース研究センター)、西田敬二(神戸大学先端バイオ工学研究センター)、ウォルツェン・クヌート(CiRA)、和泉唯信(徳島大学大学院医歯薬学研究部)、井上治久(CiRA、理研BRC)らの研究グループは、家族性筋萎縮性側索硬化症(家族性ALS)の原因となるSOD1遺伝子の2種類の変異(G93A変異、L126S変異)について、変異した塩基だけを正常な配列へ戻すゲノム編集法をヒトiPS細胞で検討しました。G93A変異にはプライム編集を用い、複数のpegRNA設計を比較して約10%の修正効率を得ました。ALSモデルマウス由来iPS細胞でも同様に約10%でした。L126S変異には塩基編集を用い、患者さん由来iPS細胞で3種類の編集酵素(BE4、YE1、AID2S)と2種類のガイドRNAを比較し、BE4とガイドRNA 2の組み合わせで変異アレルの約26%を修正しました。解析した予測オフターゲット候補部位では、意図しない編集は検出されませんでした。成果は2026年9月30日に国際科学誌「BMC Medical Genomics」にオンライン掲載されました。

出典:京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 2026年10月9日 ニュース(掲載誌:BMC Medical Genomics/DOI: 10.1186/s12920-026-02492-6)
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/261008-100000.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

今回のテーマは、病気の原因となる遺伝子の変異を、DNAの文字(塩基)単位で正常な配列に書き戻す「ゲノム編集(狙ったDNA配列を書き換える技術)」です。ALSは、筋肉を動かす運動ニューロンが徐々に失われる神経疾患で、原文によると約10%が遺伝性の家族性ALSです。日本では家族性ALSの約30%をSOD1遺伝子の変異が占めると報告されています。変異型SOD1タンパク質を減らす核酸医薬(DNAやRNAの断片を用いる薬)の開発が進む一方、正常なSOD1には細胞を酸化ストレスから守る働きがあるため、変異だけを直して正常な機能を残す方法が求められています。

①二本鎖を切らずに書き換える2つの手法

従来のCRISPR-Cas9によるゲノム編集は、DNAの二本鎖切断(DNAの2本の鎖を両方切ること)を起こして細胞の修復の仕組みを利用します。これに対し塩基編集は、二本鎖を切らずに特定の塩基を別の塩基へ変換する技術で、2016年に米国のDavid Liu氏らが報告しました。プライム編集は同じグループが2019年に報告した技術で、DNAの片側の鎖だけを切り、逆転写酵素(RNAを鋳型にDNAを合成する酵素)と設計したガイドRNA(pegRNA)で目的の配列を書き込みます。塩基編集は変換できる塩基の組み合わせに制約があり、プライム編集はより多様な置換に対応できます。今回の研究は、G93Aは塩基編集で直接は直せない種類の変化であるためプライム編集を、L126Sは塩基編集で戻せる種類であるため塩基編集を、というように変異ごとに手法を選んでいます。

②患者由来iPS細胞で条件を比較

患者さん由来のiPS細胞(体細胞から作る、多様な細胞に変化できる細胞)は、患者の遺伝的背景を保ったまま治療候補を試せる点が特徴です。研究グループは、編集酵素とガイドRNAの組み合わせを多数比較し、変異ごとに効率の高い条件を選び出しました。L126S変異の約26%という値は、未編集細胞で正常型と変異型がほぼ50%ずつのところ、正常型の割合が約13%増えたことから算出されています。また、標的以外の似た配列が書き換わるオフターゲット編集(意図しない場所の編集)について、コンピューターで予測した候補部位を次世代シーケンサーで解析し、背景レベルを超える編集は検出されませんでした。原文は、この解析ですべての可能性を除外できるわけではないとしています。

編集部からひとこと

今回の成果は、培養したiPS細胞で編集条件を選んだ段階の基礎研究であり、原文は今後、編集した細胞から運動ニューロンを作って細胞の異常が改善するかを確かめ、安全性を検証する必要があるとしています。変異を減らすのではなく直すという方針は、正常なSOD1の働きを保てる可能性がある点で、既存の核酸医薬とは異なる方向の取り組みです。修正効率は約10%と約26%で、治療応用に向けてどこまで高められるかが今後の注目点になりそうです。詳細は原文とBMC Medical Genomics掲載論文で確認できます。

FrontJournal編集部

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