2026.10.22 │ 科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.21

理化学研究所ら、水の電気分解触媒が0℃付近で最も長持ちすると発見

ニュース紹介

「0℃付近で長寿命化する水の電気分解触媒~過冷却水で見つかった低温電気化学の新しい挙動~」

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターの中村龍平チームディレクター(東京科学大学地球生命研究所 教授)らの研究チームは、水の電気分解で酸素をつくる反応に使う酸化マンガン(MnO2)触媒が、氷ができる直前の0℃付近で最も長持ちすることを見つけました。研究チームは硫酸を含むpH0の水溶液を電解液に使い、温度を80℃から-12℃まで変えて調べました。温度を下げると酸素の発生は遅くなりますが、触媒が溶け出して劣化する反応はそれ以上に遅くなりました。電流密度100 mA/cm2で流し続けた寿命試験では、寿命は0℃付近で最も長くなり、さらに冷やすと再び短くなりました。

0℃以下の水は、凍らずに液体のままの「過冷却水」になっており、ラマン分光法(光の散乱で分子の状態を調べる方法)で調べると水素結合のつながり方が0℃以上と大きく異なっていました。冷やすほど反応が遅くなるという一般的な法則(アレニウス則)とは異なる、低温の電気化学に特有の挙動だとしています。成果は2026年10月21日付で英科学誌Nature Chemistryのオンライン版に掲載されました。

出典:科学技術振興機構(JST)・理化学研究所・東京科学大学 2026年10月21日 共同発表(掲載誌:Nature Chemistry/DOI: 10.1038/s41557-026-02274-8)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261021-2/index.html
https://www.riken.jp/press/2026/20261021_1/index.html

FrontJournalの解説

水の電気分解とは

今回のテーマは「水の電気分解」です。水に電気を流して水素と酸素に分ける技術で、再生可能エネルギーの電気を使えば、製造時に二酸化炭素を出さない「グリーン水素」をつくれます。

課題の1つが、酸素が発生する側の電極(陽極)です。特に酸性の電解液を使うPEM型水電解(固体高分子膜を使う方式)では、強い酸化の環境で触媒が溶けやすく、現在は耐久性の高いイリジウム(希少な貴金属)が使われています。普及が進むとイリジウムの不足や価格の上昇が心配されるため、マンガンのような豊富な金属で置き換える研究が進められています。

①冷やすと「劣化」のほうが大きく遅くなる

触媒には、よく働くほど早く傷むという「活性と安定性のトレードオフ(両立しにくい関係)」があります。今回の研究は、温度によって酸素発生と触媒劣化の遅くなり方が違う点に注目しました。0℃付近まで冷やすと、酸素発生の遅れよりも、マンガンが過マンガン酸イオン(MnO4-)として溶け出す反応の遅れのほうが大きくなります。その結果、触媒の寿命が延びました。論文の題名も「凍る直前まで冷やすとトレードオフが崩れる」という内容です。

②凍らない水では劣化が再び速くなる

一方、0℃より冷やして過冷却水になると、溶け出しが再び速まりました。-8℃の電解液は2℃のものより濃いピンク色になり、過マンガン酸イオンが増えたことが確認されています。研究チームは、過冷却水では水分子どうしの水素結合(水分子をつなぐ弱い結びつき)のつながり方が変わることを示しました。冷やすほど長持ちするのではなく「0℃付近」に最適点がある、という点が今回の成果の中心です。

編集部からひとこと

今回の成果は、触媒の材料ではなく「温度」を設計の要素として使うという考え方を示しました。研究チームは、触媒の活性と安定性を両立させる新しい指針や、寒冷地・極地、将来は地球外の天体での電気化学の理解につながると期待しています。研究はJSTの革新的GX技術創出事業(GteX)などの支援を受けています。イリジウムに頼らない水電解の実現に向けて、身近な「水の温度」から手がかりが見つかった点に注目したい研究です。

FrontJournal編集部

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