CAST|熊本大学発の「配管減肉モニタリング」を研究するディープテック企業

株式会社CAST(キャスト)

CAST「配管減肉モニタリング」を研究|研究領域=配管が薄くなる減肉を測り続ける/強み=熱に強く薄い超音波センサー/将来性=現場に行かず肉厚を管理する

企業紹介|CASTとは?

工場の配管が内側から薄くなる様子を、設備を止めずに離れた場所から監視する技術として、注目を集める「配管減肉モニタリング」。株式会社CASTは、その社会実装を目指す、熊本大学発のセンサー系ディープテック企業です。耐熱・薄型の超音波センサーを使うシステム「ULTRACK」を、製油所や化学プラント、発電所などへ提供しています。

キーワード「配管減肉モニタリング」

「配管減肉モニタリング」は、腐食や摩耗で配管の壁が薄くなる減肉を、配管に取り付けたセンサーで継続して測る保全の手法です。特徴は、人が現場へ行かなくても、決めた間隔で肉厚(配管の壁の厚さ)の変化を記録できる点にあります。製油所や化学プラントでは、高温で近づきにくい配管の状態を、離れた場所の画面で確かめられます。

市場課題|配管の減肉は見えないまま進む

現状の肉厚検査の課題|点検の合間の減肉が事故に/定期点検は高温や狭所で困難

点検の合間の減肉が事故に

定期点検の合間に進む配管の減肉は、漏えいや火災といった事故の原因になります。消防庁によると、石油コンビナート等特別防災区域の特定事業所で2025年に起きた地震によらない事故425件のうち、210件は「配管等の腐食疲労等劣化など」の物的要因によるものでした。減肉を見逃せば、設備の停止による生産の損失も招きかねません。

定期点検は高温や狭所で困難

高温の配管や狭い場所の配管は、定期点検で肉厚を測る作業が困難です。従来は検査員が測定器を持って現場を回り、高温や高所では足場を組み保温材を外して測るため、手間と費用がかさみます。点検は半年から1年に1回程度にとどまり、人手で補うのも容易ではありません。

他にも、設備の老朽化に、保守を担う検査員の高齢化が重なっています。点検に携わる人手の不足や、保温材の下など人の目が届きにくい場所で進む劣化、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 減肉配管や容器の壁が、内側を流れる流体による腐食や摩耗で薄くなる現象である。壁が設計の厚さを下回ると強度が足りなくなり、穴あきや破断による漏えいにつながるため、プラントでは肉厚を測って管理する。

CASTの強み|「配管減肉モニタリング」を研究

CASTが「配管減肉モニタリング」を研究|付けたまま肉厚を自動計測/高温や曲面に貼れる圧電膜

付けたまま肉厚を自動計測

従来の超音波の測定器は、検査員が点検のたびに配管へ当てて測るため、点検と点検の間に進む減肉は記録に残りませんでした。

CASTの「ULTRACK」は、超音波センサーを配管の外面に取り付けたままにして、肉厚を決めた間隔で自動的に測るシステムです。センサーが出した超音波は配管の外面と内面の間を往復し、壁が薄くなるほど反射波どうしの時間の間隔が短くなるため、この間隔から肉厚を求めます。測定の精度は±0.1mmで、従来の探傷測定器(超音波などで傷や厚さを調べる検査機器)と同じ水準です。保全の担当者は、現場へ行かずに減肉の進み方を把握できるようになり、事故につながる変化を早い段階で見つけられます。

高温や曲面に貼れる圧電膜

一般的な超音波センサーは、硬い圧電セラミック(力を加えると電気を生じる焼き物)の板を使うため、曲がった配管に密着させて長く取り付けるのには不向きです。

同社のセンサーは、焼くとセラミックになる溶液に圧電セラミックの粉を混ぜ、金属に吹き付けて焼き固める「ゾルゲルスプレー法」で作る圧電膜です。できた膜は薄く柔軟で、曲げても折れにくく、急な温度変化の中でも動作します。耐熱温度は150℃・350℃・500℃の3種類で、測定部の厚さが約1mmのため狭い隙間への取り付けも可能です。高温の配管も運転を止めずに測れるため、点検のたびに足場を組んだり保温材を外したりする手間を減らせます。

FrontJournalの解説
  • ゾルゲルスプレー法焼くとセラミックになる溶液に圧電セラミックの粉を混ぜ、金属に吹き付けてから焼き固める製膜の方法である。吹き付けで塗るため曲面にも膜を作れ、得られる膜は薄く柔軟で、曲げや熱の変化に強い。

配管減肉モニタリングの未来|現場に行かずに肉厚を管理

常時の配管減肉モニタリングが変える未来|発電所の高温配管で実証/防爆区域や既設配管へ拡大/東南アジアの工場保全を目指す

発電所の高温配管で実証

同社のシステムは、発電所の高温配管で運転中の遠隔計測を実証しています。徳島津田バイオマス発電所では、稼働時に約175℃になるボイラの給水配管と燃料のシュート(燃料を落として送る傾いた通路)にセンサーを取り付け、3か月にわたって肉厚を測りました。測定値をインターネット回線でクラウドへ送り、離れた場所から確認する仕組みです。従来は点検のたびに設備を止めていた配管でも、運転を続けたまま肉厚を確かめられることを示しました。

防爆区域や既設配管へ拡大

「ULTRACK」は、爆発の危険がある区域や既設の配管にも対象を広げています。「ULTRACK Wireless Ex」は防爆(火花などで引火させない構造)の認証を取得し、可燃性のガスが生じ得る区域でも使えます。同社は2026年9月、既設の配管に後付けでき、200℃までの配管の肉厚を自動で記録する「ULTRACK Lite」を発売しました。導入の手間が小さくなれば、食品や製紙などの工場でも常時監視を取り入れやすくなります。

東南アジアの工場保全を目指す

同社が目指すのは、配管の常時監視を東南アジアの工場やプラントへ広げることです。2026年4月には、インドネシアの国家研究イノベーション庁(BRIN)傘下のエネルギー・製造研究組織と覚書(MoU)を結びました。今後は現地の工場で「ULTRACK」の実証を進め、東南アジア各国への展開を図ります。検査員が危険な場所へ出向く回数が減れば、東南アジアの工場で働く人の安全も高められます。

会社概要|株式会社CAST

熊本大学の研究から創業

CASTは、2019年9月に熊本市で設立された熊本大学発のベンチャー企業です。創業の中心となったのは、センサーの核となる「ゾルゲルスプレー法」を発明した小林牧子教授と、ロボットの皮膚センサーを研究していた中妻啓助教です。2人は2015年にこの技術をロボットの皮膚に応用する共同研究を始め、センサーを産業の現場へ届けるために会社を立ち上げました。中妻氏は熊本大学大学院の助教を務めながら代表取締役社長に就き、小林教授は共同創業者として技術顧問を務めています。

大学認定と海外の連携

同社は、大学の支援制度と国の事業を活用し、国内外で連携を広げてきました。熊本大学から「熊本大学認定ベンチャー」に認められ、2021年10月から2023年7月までは大学のURA(研究支援の専門職員)の派遣も受けています。2024年1月にはマレーシアに海外拠点を構え、2025年8月には配管減肉の監視技術をマレーシアとインドネシアへ広げる調査事業が、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」に採択されました。

累計約3.7億円を調達

同社は、2025年2月時点で累計約3.7億円の資金を調達しています。2023年5月には、リアルテックファンド、肥銀ベンチャーファンド、東亜非破壊検査株式会社を引受先とする第三者割当増資(新たに株を発行して特定の相手に引き受けてもらう方法)で1.5億円を調達しました。2025年2月にも、リアルテックファンドなど3つのファンドから1.5億円を調達し、防爆規格の認証取得に向けた開発などに充てるとしています。

会社情報

会社名株式会社CAST(CAST Inc.)
所在地熊本県熊本市中央区渡鹿5丁目7番6号
設立2019年9月
代表中妻 啓(代表取締役社長・共同創業者)。小林 牧子(共同創業者・技術顧問。熊本大学大学院先端科学研究部 教授)
従業員13人(2025年12月時点)
調達J-KISS型新株予約権で4,000万円(2022年4月。リアルテックファンド、肥銀ベンチャーファンド)。第三者割当増資1.5億円(2023年5月。リアルテックファンド、肥銀ベンチャーファンド、東亜非破壊検査株式会社)。第三者割当増資1.5億円(2025年2月。リアルテックファンド4号、肥銀ベンチャー2号、OKB・名南ベンチャー支援1号の各投資事業有限責任組合)。累計約3.7億円(2025年2月時点)
事業センサー及び周辺機器・ソフトウェアの研究・開発・製造・販売。配管減肉モニタリングシステム「ULTRACK」(Basic/Wireless Ex/Lite)
技術領域ゾルゲル複合体圧電デバイス(熊本大学の研究成果)による耐熱・フレキシブル・薄型の超音波センサー。超音波による肉厚測定
連携熊本大学(熊本大学認定ベンチャー)。インドネシア国家研究イノベーション庁(BRIN)傘下のエネルギー・製造研究組織(MoU、2026年4月)
採択経済産業省 令和6年度補正グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(小規模型・FS事業、2025年8月)
URLhttps://www.cast-sensing.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

配管の減肉は、表からは見えないまま進みます。CASTは、その見えにくい変化を、配管に取り付けたままのセンサーで測り続ける仕組みを形にしてきました。点検の間隔を縮めるのではなく、測り続けることで見落としを減らすという発想です。

興味深いのは、ロボットの皮膚のために研究していた曲がるセンサーの技術が、工場の配管という全く違う現場で生かされている点です。熱に強く薄い膜だからこそ、人が近づきにくい場所に置き続けられます。センサーを付けたまま測り続ける方式が広がれば、点検のために現場へ出向く回数そのものが減っていきます。

熊本で生まれたセンサーが、国内外の工場で働く人の安全を支える存在になるのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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