N-サンガク「γδT細胞増殖キット」を開発

株式会社N-サンガク(エヌサンガク)

N-サンガク「γδT細胞増殖キット」を開発

企業紹介|株式会社N-サンガクとは?

がん免疫療法の研究で注目されるγδ型T細胞(がん細胞などを攻撃する免疫細胞の一種)を、血液から短期間で増やす研究用の「γδT細胞増殖キット」。株式会社N-サンガクは、その社会実装を目指す、長崎大学発のバイオ系ディープテック企業です。長崎大学の研究成果を基に、免疫細胞の増殖と働きの測定に使う研究用キットを製品化しています。

キーワード「γδT細胞増殖キット」

「γδT細胞増殖キット」は、血液中にわずかしかいないγδ型T細胞を、培養によって選んで増やすための研究用試薬のセットです。専用の抗原(免疫細胞を刺激する物質)と培地、2種類の増殖因子(細胞の増殖を促す物質)で構成されています。健常な成人の血液を使った試験では、10〜11日の培養でγδ型T細胞を高い割合まで増やせます。

市場課題|免疫細胞研究では、細胞を増やす技術と働きを測る技術の両方に課題がある

現状の免疫細胞研究の課題

免疫細胞は増やすと弱りやすい

がん免疫細胞療法(患者の免疫細胞を体外で増やして体に戻す治療)の研究では、免疫細胞を働きを保ったまま十分な数に増やすことが課題です。培養が短いと数がそろわず、長く培養すると働きが落ちやすくなります。T細胞の培養では11日ごろを境に働きが落ちる傾向があるといわれ、治療の効果が十分に得られなくなる恐れがあります。

放射性物質を使う測定が負担

免疫細胞ががん細胞を壊す力を測る従来法は、放射性同位元素のクロム51を使うクロミウムリリース法です。放射能汚染を避けるため試料を混ぜる操作を控える必要があり、測定値がばらつきやすくなります。細胞を混ぜて反応させる時間は通常4時間で、条件を比べる研究では手間が重なる可能性があります。

他にも、樹状細胞など他の免疫細胞の効率的な増殖、医薬品の製造基準に沿った細胞培養の規格化、試料の放射能汚染対策、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • γδ型T細胞リンパ球の一種で、血液中には少数しかいない。がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃する働きをもつ。がん免疫細胞療法に使う細胞として研究されている。

N-サンガクの強み|「γδT細胞増殖キット」を開発

N-サンガクが「γδT細胞増殖キット」を開発

γδT細胞を短期間で増殖

免疫細胞の培養では、数を増やそうと培養が長引くほど、細胞の働きが落ちやすくなります。

長崎大学の研究を基にした同社の「N-SPC ヒトγδ型T細胞増殖キット」は、付属の抗原でVγ2Vδ2型T細胞(がんへの攻撃力が高い型)を選んで増やします。抗原は単球(白血球の一種)に取り込まれ、FPPS(コレステロール合成の酵素)を阻害し、IPP(合成途中の物質)を細胞内にためます。このIPPが、Vγ2Vδ2型T細胞の増殖の目印です。健常な成人の血液なら、10〜11日で割合は95%程度以上、数は1000倍程度に増え、増えた細胞はがん細胞を壊す働きを保ち、実験に使える量を短期間で用意できます。

放射性物質なしで反応40分

従来のクロミウムリリース法では試料を十分に混ぜにくく、細胞を混ぜて反応させる時間は通常4時間です。

RI(放射性同位元素)を使わない同社の「N-SPC 非RI細胞障害性アッセイキット」(細胞を壊す力を測る試薬のセット)は、蛍光で測ります。標的細胞に入れた試薬は細胞内の酵素で「HTキレート」(金属と結合する分子)に変わり、細胞が壊されると速やかに培養液へ漏れ出すのが特徴です。そこへユウロピウム(金属元素の一種)の溶液を加えてレーザー光を当てると蛍光を発し、その強さから細胞が壊された割合を求めます。反応時間は40分で済み、放射性物質を扱わずに試料を十分に混ぜられるため、値のばらつきを抑えられます。

FrontJournalの解説
  • クロミウムリリース法標的細胞に放射性のクロム51を取り込ませ、免疫細胞に壊されて漏れ出た放射能の量から、細胞を壊す力を求める測定法である。放射能汚染を避けるため、試料を混ぜる操作が制限される。

γδT細胞増殖キットの未来|長崎大学の研究成果を、研究者が使える製品へ

研究用のγδT細胞増殖キットが変える未来

2種類の研究用キットを販売

2つのキットは、研究用試薬としてすでに購入できます。購入の問い合わせ先は、医療・研究・福祉の分野で事業を行う株式会社テクノ・スズタです。専用の蛍光測定装置は要りますが、2つのキットを組み合わせれば、増やしたγδ型T細胞ががん細胞を壊す力を、40分の反応で確かめられます。研究者は、細胞を増やす工程と、増やした細胞の働きを測る工程を、市販のキットでそろえられます。

研究成果の製品化を提案

N-サンガクは、研究成果の製品化を研究者に呼びかけています。公式サイトに掲げる言葉は「あなたの研究成果を製品(かたち)にしてみませんか?」です。同社の事業には、長崎大学との技術移転契約(大学の技術を企業が使うための契約)に伴う、製品の製造委託と販売委託が含まれます。同社は、研究室で生まれた試薬や手法を、ほかの研究者も使える製品として届ける窓口を担います。

地域産業の活性化を目指す

同社は、大学の研究成果を産業化し、長崎の地域産業の活性化と、大学や研究者への支援を目指しています。設立の目的は、長崎大学が持つ知的財産権の有効活用です。その担い手を、地元企業の経営者が発起人となった同社が務めています。大学の研究が地元の企業を通じて製品になれば、研究の成果を長崎の産業に生かす道が開けます。

会社概要|地元の経営者が設立した長崎大学発のN-サンガク

地元経営者の発起で設立

N-サンガクは、地元企業の経営者が発起人となり、2014年5月に設立された長崎大学発のバイオベンチャーです。事業には、産学連携による新たな事業の創出や長崎大学の研究成果を活用する事業のほか、産学における事業の企画、製造、販売、仲介などを掲げています。資本金は1,500万円で、本社は長崎市に置いています。

田中義正氏らの研究を製品化

2つのキットは、田中義正氏らが長崎大学で得た研究成果を製品化したものです。田中氏は2018年時点で同社の顧問を務めており、当時は長崎大学大学院の准教授でした。田中氏らは、γδ型T細胞を増やす抗原や、蛍光で細胞の傷害を測る試薬を研究し、学術誌で報告しています。2018年の第59回日本熱帯医学会大会では、テクノ・スズタの展示ブースで「N-SPC」の名を冠した2つのキットを紹介しました。

2024年に代表と本社を変更

2024年4月26日、代表取締役が松尾隼人氏に代わりました。同年7月8日には、本社を長崎市白木町14番20号へ移しています。登記上の所在地も同じ住所に更新されており、公式サイトの会社概要にも新しい代表と本社が掲載されています。

会社情報

会社名株式会社N-サンガク(エヌサンガク)
所在地長崎県長崎市白木町14番20号
設立2014年5月
代表代表取締役 松尾隼人(2024年4月26日就任)
資本金1,500万円(公式サイト掲載)
事業産学連携による新たな事業の創出と長崎大学・研究者への支援。長崎大学の研究成果を活用する事業。技術移転契約に伴う製品の製造委託・販売委託。製品=N-SPC ヒトγδ型T細胞増殖キット、N-SPC 非RI細胞障害性アッセイキット(いずれも研究用試薬・購入の問い合わせ先は株式会社テクノ・スズタ)
技術領域γδ型T細胞の増殖誘導と、時間分解蛍光法(光を当てた後に遅れて出る蛍光を測る方法)による細胞障害性の測定
連携長崎大学
URLhttps://sites.google.com/view/n-sangaku/home

編集後記|FrontJournal編集部より

大学の研究成果は、論文になっても、ほかの研究者が手に取れる形になるまでに距離があります。N-サンガクは、地元の経営者が発起人となり、長崎大学の研究を研究用キットという形にした会社です。研究の中身ではなく、製品として届ける仕組みを担う大学発ベンチャーの役割が見える事例だと感じました。

増やす道具と測る道具を2つのキットとしてそろえた点に、研究の工程に沿った製品の組み立てが見えます。長崎で生まれた試薬が、各地の研究室で使われていく広がりにも注目したいところです。長崎大学から生まれたほかの企業は、長崎大学発スタートアップ10選で紹介しています。

FrontJournal編集部

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年10月3日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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