研究者の隣の「空席」。DeepTech企業のBizDevという仕事の正体

「今の仕事で身につけたスキルが、社会を変える技術の役に立つなら——」。商社や金融コンサルで働きながら、ふとそんなことを考えたことはないでしょうか。でも、理系の学位がない自分に居場所があるのか分からない。それが正直なところだと思います。

ここで一つ、意外なデータがあります。経済産業省が2025年に公表した最新調査(2024年10月時点)によると、大学発ベンチャーは5,074社と過去最高。ところが、そのCEOの前歴で多いのは「大学・公的研究機関の研究者・教職員」です。つまり多くの会社で、ビジネスのプロの席が埋まっていないのです。

この記事では、その「空席」の代表格であるBizDevビズデブ事業開発)について、仕事の中身・必要スキル・入り方・覚悟しておくべき現実までを解説します。読み終えれば、自分がこの仕事に向いているか、どこから始めればいいかを判断できるはずです。

DeepTech企業のBizDevとは?ひとことで言えば「技術と社会の翻訳者」

BizDevとは、新規事業の創出や事業の拡大を担う職種です。市場調査事業戦略の立案・実行、提携交渉、収支管理まで、事業を「立ち上げて伸ばす」ことのすべてに関わります。

ただし、DeepTech企業のBizDevには独特の難しさと面白さがあります。扱う商品が「まだ世の中にない技術」だからです。

たとえると

海外の名著を、まだ誰も翻訳していない状態を想像してください。中身が素晴らしいことは一部の専門家しか知りません。BizDevの仕事は、この名著を「翻訳」し、誰に売るかを決め、出版にこぎつけることです。

研究者が書いた「原書」の価値を、顧客の言葉・投資家の言葉・行政の言葉に訳していく。だから「技術と社会の翻訳者」なのです。

その守備範囲は、中央にいる研究者(技術)を起点に、次のように広がります。

handshake顧客開拓
apartment大企業アライアンス
payments資金調達支援
account_balance官公庁・補助金
campaign採用・広報

ある1日を覗いてみる——「何でも屋」の中身

抽象的な役割の説明だけでは伝わらないので、典型的な1日を描写してみます。

時間帯やっていること
午前大手メーカーとの共同開発の打ち合わせ。先方の事業部が求める仕様と、自社の研究チームが作れるものの間を調整する。
研究者であるCEOとランチを兼ねた壁打ち。来月の投資家向け説明資料の「技術の見せ方」を相談する。
午後公的助成金の申請書類づくり。事業計画の数字を詰め直す。
夕方展示会で名刺交換した企業へのフォロー連絡。並行して、採用候補者との面談が1件。

お気づきでしょうか。1日の中に「営業」「経営企画」「広報」「渉外」が全部入っています。分業が進んだ大企業では複数の部署に分かれている仕事を、一人で横断するのがスタートアップのBizDevです。

なぜDeepTechではBizDevが「経営の半分」なのか

「それは普通の会社の事業開発と何が違うの?」と思った方のために、違いを整理します。

観点一般的なBizDevDeepTechのBizDev
商品既にある製品・サービスの拡大まだ世にない技術の用途探し
顧客個人・企業など幅広い大企業・官公庁が中心で商談が長い
時間軸四半期〜1年製品化まで数年単位
お金売上が先に立ちやすい売上の前に調達・助成金が生命線

DeepTechでは、技術が完成する前から「誰に・何を・いくらで」を設計し、お金をつないでいく必要があります。研究者が苦手とするのは、まさにこの領域です。

だからこそ、JST科学技術振興機構)のSTARTのように、経営人材と研究者のマッチングを国が支援する仕組みまで生まれています。経済産業省の最新調査でも、経営人材確保の支援を実施する大学等は71%にのぼり、うち52%が成果につながったと回答しています。大学側も「ビジネスの相棒」を探しているのです。

必要なスキルと、よくある誤解——「理系の学位」は必須ではない

一般にBizDevへ求められるスキルは、マーケティング、営業、問題解決、コミュニケーション、マネジメント財務会計の知識とされています。DeepTechの場合、これに「技術への敬意と学習意欲」が加わります。

ここで誤解を2つ解いておきます。

errorよくある2つの誤解
  • 誤解①「理系の学位が必須」:必須ではありません。求められるのは技術を自分で生み出す力ではなく、研究者に質問し、本質を顧客の言葉に訳せる程度まで理解する力です。文系出身でも、学ぶ姿勢があれば追いつけます。
  • 誤解②「華やかな戦略職」:実態は泥くさい仕事です。展示会のブース設営も、申請書類の誤字チェックも仕事のうち。「何でも屋」を楽しめるかが適性の分かれ目です。

逆に強い武器になるのは、大企業の意思決定プロセスを知っていること(商社・メーカー出身者)、数字で事業を語れること(金融・コンサル出身者)、そして研究の文化が分かること(研究者出身者)です。

入り方は3つ——あなたはどのルートか

1ビジネス職からの転職

もっとも王道です。法人営業アライアンス経営企画の経験はそのまま活きます。最初の一歩は、興味のある技術領域のイベントや大学のスタートアップ支援プログラムに顔を出し、「中の人」と知り合うことです。

2研究者からの転身

技術が分かるBizDevは希少で、社内外の信頼を得やすい存在です。「研究を離れる」のではなく「研究を社会につなぐ側に回る」という整理ができるなら、有力な選択肢です。

3新卒・第二新卒

募集は多くありませんが、インターンや公的プログラムの学生枠から入る道があります。早くから「何でも屋」の経験を積めるのは大きな財産です。

なお、待遇はステージ(創業期か、調達後の拡大期か)によって幅が大きいのが実情です。公開求人の条件をよく確認し、給与だけでなくストックオプション(将来、自社株を決まった価格で買える権利)を含めて判断することをおすすめします。

向き合っておくべき現実——それでも、なぜやるのか

最後に、いい話だけでは終わらせません。DeepTech企業BizDevには、3つの現実があります。

warning覚悟しておくべき3つの現実
  • 会社そのものが不確実:技術が想定どおりに育たないリスクは常にある。
  • 成果が出るまでが長い:商談も開発も年単位で、短期の達成感は得にくい。
  • 孤独である:社内にビジネス職の同僚が自分一人、ということも珍しくない。

それでも、この仕事には代えがたいものがあります。自分が引いた事業の線の上を、世の中にまだない技術が通って社会に出ていく。その瞬間の手応えです。

5,074社という過去最高の数字の裏で、「研究者の隣の席」は今も空いたままです。商社・金融・コンサル・メーカーで培ったあなたの経験は、その席で待たれています。研究者のあなたなら、なおさらです。

この記事のポイント

  • DeepTechのBizDevは「技術と社会の翻訳者」。顧客開拓から資金調達支援、助成金、採用まで横断する「何でも屋」である。
  • 大学発ベンチャーは5,074社と過去最高だが、CEOの前歴は研究者が多数派。ビジネス経験者の席が空いており、国も経営人材マッチングを支援している。
  • 理系の学位は必須ではない。商社・金融・コンサルの経験も、研究者としての素養も、それぞれ武器になる。

出典:経済産業省「大学発ベンチャー実態等調査」(2025年公表・2024年10月時点)/科学技術振興機構(JST)START 等公表資料。

作成:FrontJournal編集部

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