セッション概要:ノーベル賞受賞者が語る、科学の発見を事業にする道
セミナー概要・登壇者
| タイトル | Nobel Session:科学の発見を人類の進歩へ:アントレプレナーシップが拓く社会実装の道 |
| 日時・会場 | 2026年10月7日 16:15〜17:00/ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター |
| 登壇者 | 天野 浩氏(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所 特別教授) 吉野 彰氏(旭化成株式会社 名誉フェロー) 東 博暢氏(GSE2026統括ディレクター/ 株式会社日本総合研究所 プリンシパル) |
出典:Global Startup EXPO 2026 公式セッションページ
内容
日本では、科学技術を社会で使われる形にするため、ディープテック(研究開発型の先端技術)を担うスタートアップの育成が進んでいます。その種となる研究成果の多くは、今も大学や研究機関の中にあります。本セッションでは、研究者とスタートアップが技術を事業にする道筋と、世界で戦える産業集積の姿を、人材育成の観点も含めて議論しました。
登壇者は次の各氏です。
- 2014年に青色LEDの研究でノーベル物理学賞を受賞した天野氏
- 2019年にリチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野氏
- GSE2026の統括ディレクターを務める東氏
【POINT①】成功の鍵は、事業を育てるインキュベーター
スタートアップが成功するには、起業家、投資家、インキュベーターの三者がそろう必要があります。吉野氏は、この中で最も重要なのはインキュベーターであり、その選び方が難しいと指摘しました。
リチウムイオン電池は、企業が研究から製品化までを社内で進める従来型の方法で開発されました。吉野氏によると、基礎研究、製品化、市場投入にそれぞれ約5年をかけ、実用化までに約15年を要しました。吉野氏は、大企業がスタートアップに出資して事業を育てるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)型の成功例が近年増えているとみています。
吉野氏が例に挙げたのは、2010年にロンドンで創業し、2014年にGoogleに買収されたDeepMindです。吉野氏は、DeepMindが資金に加えてGoogleの事業を育てる力を求め、買収を受け入れたとみています。同社のハサビス氏とジャンパー氏は、2024年にノーベル化学賞を受賞しました。
【POINT②】青色LEDは、大学と企業の長期投資で実現した
青色LEDの実用化は、大学の研究と企業の長期投資が結びついた成果です。天野氏は、学部の卒業研究から青色LEDに取り組みました。指導した赤崎勇先生は、学生が自ら装置を作り、動かせる環境を用意しました。
この研究成果は、JSTの前身である新技術開発事業団の委託開発に選ばれました。開発を担ったのは、自動車用ゴム部品を主力とする豊田合成です。豊田合成にとって半導体は新しい分野でしたが、同社は人材を送り込んで投資を続け、事業化しました。天野氏は、実用化までにかかった約30年を、むしろ早い部類だと捉えています。
吉野氏は、研究開発のサイクルが短くなった今、企業は現場の若手に権限を渡し、その場で判断できる組織に変わるべきだと述べました。天野氏は、企業の若手研究者がコンプライアンスを重視するあまり、挑戦に慎重になっている点を課題に挙げました。
【POINT③】起業家精神を育てる教育と文化
天野氏は、起業家精神を学部1年生から育てる必要があると述べました。修士・博士の段階から起業家教育を始めるのでは遅いためです。天野氏は、若い研究者が新しい学会を立ち上げることにも期待を寄せました。これを受けて吉野氏は、学会の会員数や企業からの発表が減っている現状に触れ、文系と理系の境目が消えつつあると述べました。
起業家を育てるには、失敗を前向きに受け止める文化が必要です。吉野氏は、米国西海岸の起業家は失敗を歓迎する一方、日本の起業家は一度成功すると守りに入りやすいと指摘しました。投資家に対しては、資金を出したら経営は起業家に任せる姿勢を求めました。
天野氏は、スタンフォード大学などで登壇した経験から、米国が先行していると認めました。そのうえで、来年は日本の新しい取り組みを発信したいと語りました。