【GAPファンド・東海】Tongali GAPファンドの採択課題108件と研究テーマ
「GAPファンド」は、大学の研究成果が事業として成り立つかを、起業の前に検証するための資金です。東海地域では「名古屋大学」を主幹機関とする「Tongali」がこの資金を運営しており、令和5〜8年度の公募で延べ108件の研究開発課題を採択しました。本記事では、このうち8件について研究テーマとその狙いを紹介します。
「GAPファンド」は、大学の研究成果が事業として成り立つかを、起業の前に検証するための資金です。東海地域では「名古屋大学」を主幹機関とする「Tongali」がこの資金を運営しており、令和5〜8年度の公募で延べ108件の研究開発課題を採択しました。本記事では、このうち8件について研究テーマとその狙いを紹介します。
「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費」や、設立後の企業に投資する「VC」(ベンチャーキャピタル)とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。
GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。
「Tongali」は、主幹機関の「名古屋大学」と15の共同機関で構成する起業支援のプラットフォームです。共同機関には「岐阜大学」「三重大学」「静岡大学」などの大学のほか、研究機関の「自然科学研究機構」や企業の「STATION Ai株式会社」も名を連ねます。「Tongali GAPファンドプログラム」は「科学技術振興機構」(JST)の「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」の一環として運営されています。2026年2月には、このプログラムの中間評価で「Tongali」が最高ランクの評価を受けました。
支援は、応用研究に当たる「ステップ1」と、概念実証(PoC)とスタートアップの組成を目指す「ステップ2」に分かれています。令和8年度の公募によると、「ステップ1」の上限は1件あたりの直接経費で医療系(創薬)が1,000万円、その他の分野が500万円。「ステップ2」になると支援期間は最長3年に延び、期間合計の上限も創薬系で1億円、非創薬系で6,000万円まで広がります。応募の際は「Tongali」が認定した「事業化推進機関」と共同で申請する必要があり、令和7年度の採択ではベンチャーキャピタルなどがこの役割を担いました。
「Tongali」が公表した採択者一覧によると、「ステップ1」の採択件数は令和5年度が30件、令和6年度と令和7年度が各28件でした。「ステップ2」には、令和6年度に6件、令和7年度に10件、令和8年度に6件が採択されています。「ステップ1」で事業性を確かめた研究者が翌年度以降に「ステップ2」へ進む例も多く、本記事で紹介する8件のうち6件がこれに当たります。
ここでは、採択課題の中から医療・創薬、エネルギー・半導体、情報・農業の分野で8件を選びました。各課題について、研究テーマと採択枠を表で示し、研究の狙いを本文で説明します。
| 研究テーマ | 再生異種移植療法技術ー臓器不全・免疫抑制剤からの解放ー↗ |
|---|---|
| 分野 | 創薬系 |
| 研究代表者 | 丸山彰一 氏 |
| 所属・大学 | 名古屋大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1・令和7年度ステップ2 |
「名古屋大学」の丸山彰一氏は、「再生異種移植療法」の技術を研究しています。「異種移植」とは、ブタなど人以外の動物の臓器や組織を人に移植する治療法のこと。研究テーマが目指すのは、臓器不全と、移植後に飲み続ける免疫抑制剤の負担から患者を解放することです。丸山氏は令和5年度の「ステップ1」で事業性を検証し、令和7年度に「ステップ2」へ進みました。
| 研究テーマ | 睡眠障害やうつ病や双極性障害(躁うつ病)などの気分障害を含む現代病の治療に向けた概日時計調節薬の実用化↗ |
|---|---|
| 分野 | 創薬系 |
| 研究代表者 | 廣田毅 氏 |
| 所属・大学 | 名古屋大学 |
| 採択枠 | 令和8年度ステップ2 |
「名古屋大学」の廣田毅氏は、体内時計の働きを調節する「概日時計調節薬」を研究しています。「概日時計」とは、睡眠や体温などに約24時間周期のリズムを生み出す体の仕組みのこと。廣田氏は、睡眠障害や、うつ病・双極性障害といった気分障害の治療に向けて調節薬の実用化を目指しており、令和8年度に「ステップ2」の創薬系で採択されました。
| 研究テーマ | 深紫外線LED内視鏡治療デバイスの事業化に向けたスタートアップ創出↗ |
|---|---|
| 分野 | 非創薬系 |
| 研究代表者 | 國料俊男 氏 |
| 所属・大学 | 名古屋大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1・令和8年度ステップ2 |
「名古屋大学」の國料俊男氏は、「深紫外線LED」の光を使う内視鏡治療デバイスを研究しています。深紫外線は、紫外線の中でも特に波長が短い領域の光です。國料氏は令和5年度の「ステップ1」で、深紫外線LEDを用いたがん治療機器による起業の可能性を検証しました。続く令和8年度の「ステップ2」では、内視鏡治療デバイスの事業化とスタートアップの創出を目標に掲げています。
| 研究テーマ | オンサイト型ターコイズ水素・炭素併産システムの事業化実証↗ |
|---|---|
| 分野 | 非創薬系 |
| 研究代表者 | 朝原誠 氏 |
| 所属・大学 | 岐阜大学 |
| 採択枠 | 令和6年度ステップ1・令和8年度ステップ2 |
「岐阜大学」の朝原誠氏は、水素と炭素を同時に製造する「ターコイズ水素」のシステムを研究しています。ターコイズ水素とは、メタンを熱で分解して得る水素のことで、メタンに含まれる炭素は二酸化炭素ではなく固体の炭素として回収されます。朝原氏は令和6年度の「ステップ1」で製造装置の事業性を確かめました。令和8年度の「ステップ2」で取り組むのは、水素を使う現場に設置する「オンサイト型」システムの事業化実証です。
| 研究テーマ | 医療・計測・製造分野を革新するUV-B半導体レーザーの社会実装↗ |
|---|---|
| 分野 | 非創薬系 |
| 研究代表者 | 岩谷素顕 氏 |
| 所属・大学 | 名城大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1・令和7年度ステップ2 |
「名城大学」の岩谷素顕氏は、紫外線の一種である「UV-B」を発する「半導体レーザー」を研究しています。UV-Bとは、波長がおよそ280〜315ナノメートルの紫外線のこと。このレーザーを医療・計測・製造の各分野で社会実装することが、研究の目標です。岩谷氏は令和5年度にVR・AR向けディスプレイの研究で「ステップ1」に採択され、令和7年度に現在のテーマで「ステップ2」へ進みました。
| 研究テーマ | ロックインサーモグラフィによる高速熱物性マッピング技術の事業化検証↗ |
|---|---|
| 分野 | モノづくり-Deep Tech 他 |
| 研究代表者 | 藤田涼平 氏 |
| 所属・大学 | 名古屋大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1 |
| 設立した会社 | 株式会社ThermieL↗ |
「名古屋大学」大学院工学研究科の藤田涼平特任講師は、材料の熱の伝わりやすさなどを面で測る「熱物性マッピング」を研究しています。採択時の研究テーマは、温度の変化を周期的に捉える「ロックインサーモグラフィ」を使い、この計測を高速化する技術の事業化検証でした。藤田氏は2025年6月、電子機器や半導体の放熱設計の効率化を目指して「ThermieL」(サミエル)を起業しました。現在は同社の代表取締役CEOを務めています。
| 研究テーマ | DNAデータストレージデバイスの開発↗ |
|---|---|
| 分野 | 非創薬系 |
| 研究代表者 | 伊藤伸太郎 氏 |
| 所属・大学 | 名古屋大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1・令和7年度ステップ2 |
「名古屋大学」の伊藤伸太郎氏は、デジタルデータをDNAに記録する「DNAデータストレージデバイス」を研究しています。DNAデータストレージは、0と1で表すデジタルデータを、DNAを構成する4種類の塩基の並びに置き換えて保存する技術です。伊藤氏は令和5年度の「ステップ1」を経て、令和7年度に「ステップ2」へ進みました。この段階では、「大阪大学ベンチャーキャピタル」が事業化推進機関を務めています。
| 研究テーマ | 飼料によるメス化で実現する鶏卵生産革命―遺伝子操作を用いない持続可能なメス化技術の社会実装↗ |
|---|---|
| 分野 | 非創薬系 |
| 研究代表者 | 笹浪知宏 氏 |
| 所属・大学 | 静岡大学 |
| 採択枠 | 令和5年度ステップ1・令和7年度ステップ2 |
「静岡大学」の笹浪知宏氏は、飼料を使ってニワトリの雌雄を産み分ける技術を研究しています。卵を産むのはメスだけなので、ひなをメスに偏らせる技術は鶏卵生産の効率に直結します。笹浪氏は令和5年度の「ステップ1」で、雌雄の産み分け技術と飼料の開発に取り組みました。令和7年度には、遺伝子操作を用いないメス化技術の社会実装を掲げて「ステップ2」に採択されています。
「Tongali GAPファンド」は、創薬から水素製造、DNAデータストレージまで、東海の大学で生まれた幅広い研究を事業化の検証へ送り出しています。「ステップ1」で事業性を確かめた後、「事業化推進機関」と組んで「ステップ2」へ進む研究者も多数。これらの研究の実用化が進めば、臓器不全や気分障害の治療に新たな選択肢が加わり、脱炭素の水素を現場で製造する道も開けます。採択課題からの起業はすでに始まっており、2025年には「ThermieL」が設立されました。東海の大学で事業化を目指す研究者は、所属大学の起業支援窓口で「Tongali」の公募時期と応募条件を確認してください。
作成:FrontJournal編集部
ディープテックを、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。
本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。
この企業の方へ
内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。