ANT5「マルチモーダルセンサ」を開発

ANT5株式会社(アンツ)

ANT5「マルチモーダルセンサ」を開発

企業紹介|ANT5株式会社とは?

脳の状態を、治療中に複数の指標で同時に捉える技術として、注目を集める「マルチモーダルセンサ」。ANT5株式会社は、その社会実装を目指す、山口大学発の医療機器系ディープテック企業です。脳の温度や脳波などを同時に測る「頭蓋内マルチモーダルセンサ」と、脳を局所的に冷やす装置を、重症の脳疾患の治療現場向けに開発しています。

キーワード「マルチモーダルセンサ」

「マルチモーダルセンサ」は、種類の異なる複数の信号を、1つの装置でまとめて測る機器です。特徴は、1枚の柔らかい基板に並べた複数のセンサで、脳の温度や脳波、頭蓋内圧、血流の情報を同時に捉えようとする点にあります。重症の脳損傷で集中治療を受ける患者のベッドサイドで、病態の変化を追う用途を想定しています。

市場課題|重症脳損傷では、病態の悪化を早期に把握しにくい

現状の重症脳損傷の診断の課題

画像と頭蓋内圧では把握が遅れる

重症の脳損傷では、診断の中心である画像検査と頭蓋内圧(頭蓋骨の内側にかかる圧力)の測定だけでは、病態の把握が遅れやすくなります。頭蓋内圧は、脳虚血(脳の血流が不足する状態)や低酸素、てんかん重積(発作が止まらない状態)といった二次性障害(最初の損傷のあとに広がる脳の障害)の結果として上がる指標です。そのため、圧が変わった時点では障害が進んでいる恐れがあります。

病態を迅速に診る機器が乏しい

二次性障害を迅速に診断する機器は、ベッドサイドでは乏しい状況です。そのため神経集中治療医(脳の重症患者を診る集中治療医)は、画像や頭蓋内圧に変化が出るまで、経験をもとに治療を進めることになります。その結果、二次性障害で起きる脳浮腫(脳が腫れる状態)が進み、死亡や寝たきりに至る例を防ぎにくい状況が続くといわれています。

他にも、脳波の判読が経験に左右される点、全身冷却の負担が大きい点、脳だけの冷却が実用化の途上にある点、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 頭蓋内圧頭蓋骨の内側にある脳や血液、脳脊髄液にかかる圧力を指す。脳の腫れや出血で上昇し、重症の脳損傷では診断や治療の判断材料になる。

ANT5の強み|「マルチモーダルセンサ」を開発

ANT5が「マルチモーダルセンサ」を開発

複数の信号で病態の変化を捉える

従来の脳のモニタリングは、画像検査と頭蓋内圧の測定が中心で、二次性障害が進んだ結果しか捉えにくい手法です。

同社が開発するのは、柔らかい基板(フレキシブル基板)に複数のセンサを並べた「頭蓋内マルチモーダルセンサ」です。測る対象は、脳の温度、脳波、頭蓋内圧に加え、近赤外分光(光で脳の血流や酸素の量を測る方法)で得る血流と酸素の情報で、同じ装置でまとめて、連続して測る設計です。複数の信号を並べて、画像検査に現れない病態や、症状に出ない悪化を多面的に見ることで、検出を目指します。検出できれば、治療の開始が早まります。

ベッドサイドで24時間計測へ

従来の頭蓋内圧センサは、二次性障害の結果として表れる圧を測るため、病態の原因を調べる材料が限られます。

同社のセンサは、重症の脳外傷や脳卒中、てんかん、院外心停止などによる重症脳損傷の患者を対象に、ベッドサイドで神経活動を24時間連続で監視する装置の実現が目標です。二次性障害による脳浮腫は、脳損傷から48時間程度で悪化して頭蓋内圧を上げるとされ、圧が上がる前に原因を検知して治療することが目指されています。計測した信号から異常な脳活動を見分けるため、機械学習や時間周波数解析(信号を時間と周波数に分けて調べる方法)の組み込みも目標の1つです。実現すれば、病態の変化を連続して追うことが可能になります。

FrontJournalの解説
  • 近赤外分光近赤外光を頭部に当て、血液中のヘモグロビンが光を吸収する量の違いから、脳の血流や酸素の量を調べる計測法である。

マルチモーダルセンサの未来|重症脳疾患の治療を変える

マルチモーダルセンサが変える未来

山口大学がてんかん装置を試作

山口大学の研究では、局所脳冷却を用いた難治性てんかん(薬で発作を抑えにくいてんかん)の治療装置が、2014年度から2015年度に試作されました。局所脳冷却とは、脳に低温の素材を直接当て、異常な脳活動を選択的に抑える治療法です。2015年度には、ポータブル型の発作治療装置の試作機と病態の解析技術も開発されています。同社は、この局所脳冷却の技術の重症脳疾患向けの応用を目指します。

センサ単体で24時間監視へ

計測用のセンサは、冷却装置と組み合わせなくても、単体で24時間連続のモニタリングに使える装置として開発中です。対象は重症の脳外傷や脳卒中(くも膜下出血、脳梗塞、脳内出血)、てんかん重積などの患者で、高齢化とともに増える傾向にあるといわれています。このセンサは、冷却と組み合わせたときは、冷却による治療の効果を確かめる手段です。画像検査に現れない病態の検出が進めば、治療の開始が早まる可能性があります。

計測と冷却の統合を目指す

同社が目指すのは、脳の計測と局所脳冷却を組み合わせた治療の仕組みです。冷却では、脳の状態が治療効果につながっているかの確認が欠かせず、その確認役がセンサです。全身を冷やす低体温療法は身体への負担が大きいため、脳だけを選んで冷やす局所脳冷却療法の実用化へ、研究と開発を進めています。実現すれば、全身への負担を抑え、脳の状態に合わせて冷却を調整する治療を重症の患者へ届けられる可能性があります。

会社概要|山口大学の研究から生まれたANT5

山口大学の研究から事業化

ANT5株式会社は、マルチモーダルセンサや局所脳冷却装置等の事業化を目的に、2020年10月に設立された山口大学発の企業です。創業の中心は、山口大学で脳神経外科学の教授を2020年3月まで務めた鈴木倫保氏で、現在は同大学の名誉教授で、同社の代表取締役社長です。社名の最後の「5」は、Surgeon(外科医)、Sensing(マルチセンサ)、Salvation(冷却など)、System(信号処理)、Solutions(遠隔を含む医療サービス)の5つの「S」を表します。

受賞と海外プログラムに選出

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のNEP(NEDO Entrepreneurs Program)の成果発表会では、2021年4月に代表の鈴木氏がNEDO事業カタライザー優秀賞を、2022年10月にも優秀賞を受けています。2025年12月には「頭蓋内マルチモーダルセンサの開発」が、LINK-Jのアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラムで上位入賞者に選ばれました。海外では、京都大学ライフサイエンスショーケース@San Diego 2025に採択され、MEDISOのプログラムでは2026年6月に米国で海外投資家向けに発表しました。

設立前の公的事業の履歴

同社の沿革には、設立前の山口大学の研究に関わる公的事業が並びます。2014年度から2015年度のやまぐち産業戦略研究開発等補助金事業や、2015年度の文部科学省の科学研究費補助金(基盤研究(S))などです。2017年度から2021年度の文部科学省「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」では、山口大学が、全脳冷却を基盤とした局所脳冷却技術による脳神経保護装置の事業化を構想しました。

会社情報

会社名ANT5株式会社(アンツ)
所在地山口県宇部市開3丁目9番38-6
設立2020年10月
代表代表取締役社長 鈴木倫保(山口大学名誉教授)
資本金1,225万円
事業脳疾患患者向けの医療機器の開発・製造・販売。開発中の製品は頭蓋内マルチモーダルセンサ
技術領域局所脳冷却技術。多面的脳活動計測技術。異常脳波検出技術
連携山口大学(共同研究先)。山口大学が2023年度のAMEDの橋渡し研究プログラムに採択され、鈴木倫保氏が研究開発分担者として参画
採択NEDO NEPの成果発表会で優秀賞(2021年4月、2022年10月)。LINK-Jのアカデミア発メドテックイノベーター発掘プログラム Premium Networking Day2025で上位入賞(2025年12月)。京都大学ライフサイエンスショーケース@San Diego 2025。MEDISO Direct Flight San Diego Biotech Week Program。HiDEP Global Navigator Program
URLhttps://ant5.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

重症の脳損傷では、体の中で起きている変化をどれだけ早く知れるかが、治療の分かれ目になります。ANT5の取り組みは、脳の温度や脳波、血流を同時に測り、画像検査に現れない病態を捉える試みです。治療の判断を、経験則から計測データへ近づける取り組みともいえます。

大学の研究室で積み重ねた脳の研究が、計測と冷却の2つの装置へ向かっている点に注目しました。単なる計測機器でなく、計測の結果をもとに冷却を調整する治療の仕組みを目指す点が、事業の価値の核心だと考えます。社名に込めた「5つのS」が、医療サービスまでを視野に入れている点も印象的です。

ベッドサイドで脳の状態を連続して見守れる日が来れば、重症の脳疾患の患者とその家族にとって、治療の選択肢が広がります。脳の電気活動を光で捉える別の技術は、ブレインビジョン株式会社の紹介で読めます。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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