合同会社アートNGS研究所|微量ガスの検出に用いられる中赤外レーザを製造・販売する静岡大学発ディープテック

合同会社アートNGS研究所(アートエヌジーエス)

アートNGS研究所「中赤外レーザ」を開発|微量ガスの検出に使う光源/材料で波長帯を使い分ける/環境計測と同位体分析へ

企業紹介|アートNGS研究所とは?

大気中の微量ガスを見つけるための光源として、研究が進む「中赤外レーザ」。合同会社アートNGS研究所は、その研究開発に取り組む、静岡大学発のエレクトロニクス系ディープテック企業です。同社が手がけるのは、微量ガスの検出に用いる中赤外レーザの製造と販売です。

キーワード「中赤外レーザ」

中赤外レーザは、波長がおよそ3マイクロメートル以上の赤外線を出すレーザで、同社の研究開発の対象は3〜50マイクロメートルです。ガス分子は赤外線の特定の波長を吸収するため、吸収の強さからガスの濃度を測れます。大気や排ガスなどの環境計測や、同位体の分析に用いられます。

市場課題|微量ガスの検出は光源の条件に左右される

現状の微量ガス検出の課題|現状は、信号が弱く冷却も必要/濃度が低く吸収の信号が弱い/液体窒素の冷却が壁になった

微量ガスは信号が弱くなる

微量ガスは、濃度が低いほど光の吸収が小さく、検出器が受け取る信号も弱くなります。ppb(10億分の1)からppt(1兆分の1)オーダーの希薄気体の検出・分析への応用が期待されるといわれています。ガスが強く吸収する波長を使えなければ、微量の成分は見落とされやすい状況です。

液体窒素冷却が壁になった

鉛化合物の半導体レーザは液体窒素による冷却を要する点が、中赤外の吸収分光(ガスが光を吸収する量から濃度を測る手法)の壁になったといわれています。一方、科学技術振興機構(JST)の前身の事業団は1999年、電子冷却素子で動作する半導体赤外線レーザの開発を成功と認定しました。

他にも、ガスごとに異なる吸収波長、水蒸気など共存ガスの影響、測定環境に合う光源と検出器の選定、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 中赤外赤外線のうち、波長が可視光より長い領域の一部を指す。同社は約3〜50マイクロメートルを研究開発の対象とし、分野により区切りは異なる。

アートNGS研究所の強み|「中赤外レーザ」を開発

アートNGS研究所が「中赤外レーザ」を開発|現在は、半導体で光源を提供/材料を変え波長帯を使い分け/77Kから150Kの範囲で連続動作

材料で波長帯を使い分ける

ガスの種類ごとに吸収の強い波長は異なり、波長が合わない光源では微量ガスの信号を捉えにくくなります。

同社は、IV-VI族半導体(鉛などと硫黄やセレンなどからなる化合物半導体)の組み合わせを変え、波長帯の異なるレーザを手がけています。公開資料に示されるのは、波長3〜4マイクロメートル帯の硫化鉛系、5〜7マイクロメートル帯のセレン化鉛系などです。さらに、中赤外と遠赤外の境にあたる25〜50マイクロメートルのレーザも研究しています。利用者は、測りたいガスの吸収に合う波長帯の製品を使えるようになります。

150K付近まで連続動作

動作温度が1点に固定された光源は、組み込む装置の設計が制約されやすくなります。

同社は、液体窒素温度にあたる77K(ケルビン、絶対温度の単位。約マイナス196度)から150K付近までの極低温の範囲で連続動作する中赤外レーザを開発しています。素子は、鉛、ストロンチウム、カルシウム、セレン、硫黄の化合物を重ねた構造で、組み合わせの異なる複数の種類があります。PbSrSe/PbSe構造などのレーザについて、連続動作時の発光スペクトルの温度依存性を示す図も、製品ページで見られる内容です。77Kに限らない温度範囲が示されており、利用者は装置の冷却条件を検討できるようになります。

FrontJournalの解説
  • 基本振動分子を構成する原子が、決まった周期で伸び縮みする振動を指す。ガス分子はこの振動に対応する波長の赤外線を強く吸収する。

未来・応用|環境計測と同位体分析、未開拓の波長域へ

中赤外レーザが変える未来|用途と波長域の広がりを目指す/環境計測の光源として使う/同位体の分析にも用いられる/未開拓の波長域の開拓を目指す

環境計測の光源として

同社が中赤外レーザの用途に挙げるものの一つが、環境計測です。二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスで、基本振動(原子の伸び縮みの運動)に由来する強い吸収線が現れるのは、中赤外域です。この吸収を測ることで、同社は、ppbからpptオーダーの極微量なガスの検出・分析への応用が期待されるとしています。同社が担うのは検出装置ではなく、その光源です。

同位体の分析にも

同位体(同じ元素で質量の異なる原子)の分析は、同社が公式サイトで挙げる用途の一つで、吸収を測る点は環境計測と同じです。同じ分子でも同位体が異なると、吸収する波長に違いが生じます。この違いを捉えるには、波長を細かく見分けられる光源が役立つといわれています。同社が担うのは、この分析に使う光源です。

未開拓の波長域の開拓を目指す

同社は、製品の波長帯より長波長側にあたり中赤外と遠赤外の境でもある25〜50マイクロメートルで、レーザの研究開発を進めています。この帯域は、同社の資料で「未開拓波長域」と位置づけられ、同社はその開拓を目指しています。素子の土台となるIV-VI族の単結晶やウエハも、同社の取り扱い品目です。公式サイトは、同社の研究開発の対象を波長3〜50マイクロメートルの領域としています。

会社概要|合同会社アートNGS研究所

静岡大学の研究から起業

合同会社アートNGS研究所は、2024年に設立された浜松市の企業です。代表は石田明広氏です。石田氏は静岡大学の名誉教授で、同大学での研究成果をもとに起業しました。事業は、IV-VI族半導体の中赤外レーザの製造と販売、波長25〜50マイクロメートルのレーザの研究開発、熱電発電デバイスの技術相談です。本社は、浜松市中央区東三方町のアートテクノ会館内に置いています。

中赤外レーザ研究の経歴

石田氏は静岡大学で、赤外線レーザの研究に取り組んできました。1995年から1999年にかけて、同大学の藤安洋教授とともに、波長3〜5マイクロメートルの量子井戸構造レーザ素子の製造技術を課題とするJST(科学技術振興機構)の前身の事業団による開発課題に参加しています。この課題で事業団から開発を委託された企業は、浜松ホトニクスです。以上は石田氏の、アートNGS研究所の設立前の経歴にあたります。

主な製品と取り扱い品目

同社の製品は、中赤外レーザ、IV-VI族の単結晶とウエハ、大学の研究室向けの小型ダイヤモンドワイヤソーの3つです。同社が扱う単結晶は、硫化鉛やテルル化鉛などを封管気相成長法(密閉した管の中で気体から結晶を成長させる方法)で育てて作ります。

会社情報

会社名合同会社アートNGS研究所(Art-NGS Laboratory LLC)
所在地静岡県浜松市中央区東三方町23番地の5 アートテクノ会館内
設立2024年
代表石田 明広(静岡大学名誉教授)
事業IV-VI族半導体の中赤外レーザの製造・販売。波長25〜50マイクロメートルのレーザの研究開発。IV-VI族の単結晶・ウエハの取り扱い。熱電発電デバイスの技術相談
技術領域中赤外レーザ、IV-VI族半導体、微量ガス検出、同位体分析、環境計測
URLhttps://www.art-ngs-lab.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

ガスの濃度を測るには、まず適した光を出せる光源が欠かせません。中赤外の波長域には、鉛化合物の半導体という古くから研究されてきた材料があります。その材料で光源を製品にしている点が印象に残ります。

アートNGS研究所が手がけるのは、検出装置そのものではなく、その中で光を出す部品です。77Kから150K付近までの連続動作が示されている点が目に留まります。25〜50マイクロメートルの研究も、光源の選択肢を増やしうる試みです。

大学での長年の研究が、浜松で製品という形になりました。波長帯の異なるレーザが並ぶ製品ページからは、用途に応じて光源をそろえる姿がうかがえます。同社のこれからの歩みを見守りたいところです。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年10月18日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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