株式会社バッカス・バイオイノベーションは微生物の代謝経路を設計しスマートセルを開発する神戸大学発の企業

株式会社バッカス・バイオイノベーション

バッカス・バイオイノベーション「スマートセル」を研究|研究領域=遺伝子を設計した微生物の細胞/強み=ロボットで開発期間を短縮/将来性=CO2や木材から化学品の製造へ

企業紹介|株式会社バッカス・バイオイノベーションとは?

目的の物質を効率よく生産するよう設計された細胞として、注目を集める「スマートセル」。株式会社バッカス・バイオイノベーションは、その社会実装を目指す、神戸大学発のバイオ系ディープテック企業です。微生物の開発から生産プロセスまでを一貫して担う「統合型バイオファウンドリ」を、微生物で物質を生産したい企業へ受託サービスとして提供しています。

キーワード「スマートセル」

「スマートセル」は、遺伝子を設計し直して、目的の物質を効率よく生産する能力を高めた細胞です。特徴は、細胞の中で物質を作り変える代謝経路(酵素による反応の道筋)を組み替え、本来は作らない物質も生産させられる点にあります。医薬品原料や燃料、プラスチック、化粧品原料などを、培養槽で微生物に作らせる現場で使えます。

市場課題|化学品製造と微生物開発の壁

現状の化学品製造と微生物開発の課題|石油由来の化学品は脱炭素が困難/微生物開発は候補が膨大で長期化

石油由来の化学品は脱炭素が困難

石油などの化石資源から作る化学品は、地中の炭素を使うため、焼却などで大気中の二酸化炭素を増やす点が課題です。バイオマスの炭素はもともと大気から取り込んだものであり、原料を切り替える製造工程の転換が求められています。転換が進まなければ、2050年のカーボンニュートラルの達成が遠のくことが懸念されます。

微生物開発は候補が膨大で長期化

代わりとなるバイオものづくりでも、目的の物質を作る微生物の開発に長い期間を要します。遺伝子の組み合わせは膨大で、1000個、1万個といった仮説を人の手で試すと検証が追いつきにくくなります。開発から商業化までに数十年かかるともいわれ、時間と費用がかさみかねません。

他にも、スケールアップ(生産規模の拡大)の難しさ、バイオマス(生物由来の資源)の安定調達の難しさ、製品を取り出す分離・精製の手間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • バイオものづくり遺伝子技術で設計した微生物などの細胞に、有用な物質を生産させる技術を指す。化石資源の代わりにバイオマスやCO2を原料にできるため、製造工程の脱炭素の手段とされる。

バッカス・バイオイノベーションの強み|「スマートセル」を開発

バッカス・バイオイノベーションが「スマートセル」を開発|反応の道筋を設計し化学品を生産/ロボットで開発期間を短縮

反応の道筋を設計し化学品を生産

古典的な育種(変異株の選抜)では、微生物がもともと持つ代謝の範囲でしか物質を作れず、目的の化学品を狙って作らせるのは困難です。

同社の手法は、目的の化合物を多く作れるよう、微生物に人工的な代謝経路を組み込むことです。反応の道筋はケモインフォマティクス(化合物の情報を計算機で扱う手法)で描き、その反応を担う酵素バイオインフォマティクス(遺伝子やタンパク質の情報を計算機で扱う手法)で設計します。本来の生物に無い反応の設計図を描けるため、狙った化学品を作れる微生物を用意できます。原料をバイオマスへ切り替える選択肢も広がる点が利点です。

ロボットで開発期間を短縮

手作業の微生物開発では、遺伝子を組み換えた(同じ性質を持つ微生物の系統)を1つずつ作って評価するため、一度に試せる候補の数が限られます。

同社の開発手順は、設計、構築、評価、学習を繰り返す「DBTLサイクル」(Design・Build・Test・Learnの頭文字)です。構築ではロボットが遺伝子を組み込んだ株を並列で作製し、評価ではメタボローム解析(細胞の内外にある代謝物をまとめて測る分析)で働きを調べます。学習の段階では評価データを統計解析し、次の設計に生かす仕組みです。依頼する企業にとっては、目的の物質を効率よく作る微生物にたどり着くまでの期間を短縮しやすくなります。

FrontJournalの解説
  • DBTLサイクル設計・構築・評価・学習を1周として繰り返す、微生物の開発手順を指す。評価で得たデータを次の設計に反映するため、周回を重ねるほど狙った性能に近づきやすい。

スマートセルの未来|化学品の生産とCO2の資源化

微生物のスマートセルが変える未来|微生物の受託開発を提供/CO2を直接使う発酵を開発/木材資源の活用を目指す

微生物の受託開発を提供

同社は、微生物の開発・改良から生産プロセスまでを一貫して担う受託サービスを提供しています。対象は、大腸菌から糸状菌(カビの仲間)まで性質の異なる多様な微生物です。100mLから30Lまでの培養装置で、作った微生物の働きを評価します。依頼する企業にとっては、微生物の開発から生産条件の検討までを1社に任せられる点が利点です。

CO2を直接使う発酵を開発

CO2を直接の原料として微生物に物質を作らせる技術も、同社の開発テーマです。同社はカネカなどとともに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業」で「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」に参加しています。2030年度までの事業期間で、CO2から生分解性(微生物に分解される性質)のバイオポリマー(生物の働きで作る樹脂)を生産する技術の確立を目指します。そのうち気体を原料にするガス発酵の開発基盤の構築を、島津製作所とともに担う立場です。

木材資源の活用を目指す

同社が目指すのは、木材などの未利用資源を微生物で化学品へ変えることです。2024年からは、王子ホールディングスなどの6社で、未利用資源を原料とするバイオものづくりの仕組みの構築に取り組んでいます。同社はその中で、木質などの原料を扱えるスマートセルを作る微生物開発プラットフォームの確立を担います。製紙工場などの設備を生かして木質原料を安定して供給し、化学品の製造へつなげることがこの事業の狙いです。

会社概要|バッカス・バイオイノベーションの設立背景と事業

神戸大学の研究から事業化

株式会社バッカス・バイオイノベーションは、2020年3月に、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の研究成果をもとに設立されました。神戸大学からは、先端バイオテクノロジーに関わる知的財産人材の移転を受けています。基盤は、神戸大学の合成生物学(生物の仕組みを設計し組み立て直す学問)を中心とした先端研究です。創業者の近藤昭彦氏は、2024年から代表取締役社長兼CEOを務めています。

国の事業と企業連携を拡大

同社は、国の研究開発事業への参加と企業との連携を広げています。2023年3月には、カネカ、日揮ホールディングス、島津製作所とともにNEDOのグリーンイノベーション基金事業に採択されました。同年6月には日揮ホールディングスと「統合型バイオファウンドリ」事業の共同推進を発表し、両社で微生物の開発から商業化までの期間を10分の1以下へ縮めることを目指しています。同年9月には関西の有望スタートアップを選ぶ「J-Startup KANSAI」に選ばれ、2024年7月にはNEDOの「バイオものづくり革命推進事業」にも6社で採択されました。

シリーズA後も出資が継続

同社は、2021年2月のシリーズA(製品やサービスの本格展開に向けた初期の資金調達)で総額12億円を調達し、その後も事業会社から出資を受けています。引受先は、DEFTA Partners、ロート製薬、太陽石油でした。続いて島津製作所、双日、出光興産、日揮ホールディングス、日本曹達が出資しています。

会社情報

会社名株式会社バッカス・バイオイノベーション(Bacchus Bio innovation Co., Ltd.)
所在地兵庫県神戸市中央区港島南町6丁目3番7
設立2020年3月18日
代表近藤 昭彦(代表取締役社長兼CEO)
資本金資本金等50億円(2026年4月時点)
従業員108名(2026年4月1日時点)
調達2021年2月にシリーズAで総額12億円(DEFTA Partners、ロート製薬、太陽石油)。2021年11月に島津製作所・双日が第三者割当増資を引受。2023年5月に出光興産、2024年7月に日揮ホールディングス、2025年4月に日本曹達が出資
事業統合型バイオファウンドリ(DBTLバイオファウンドリ事業、スケールアップ・プロセス開発事業、自社プロダクト開発事業、腸内細菌叢培養モデル事業等)
技術領域スマートセル開発。DBTLサイクル(代謝経路・酵素の設計、ロボットによる微生物の構築、メタボローム解析による評価、データの学習)。CO2を原料とするガス発酵
連携神戸大学(知的財産・人材の移転)。日揮ホールディングス(2023年6月に統合型バイオファウンドリ事業を共同推進)。島津製作所(2022年1月から共同研究)
採択NEDOグリーンイノベーション基金事業(2023年3月)。NEDOバイオものづくり革命推進事業(2024年7月)。J-Startup KANSAI選定(2023年9月)
URLhttps://www.b2i.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

微生物に物質を作らせる発想そのものは、酒やみそを生んだ発酵の延長にあります。バッカス・バイオイノベーションが変えようとしているのは、その微生物を設計して作り上げる速さです。ロボットとデータで検証を繰り返す手法は、生き物を扱う研究を工学の手順に近づける試みといえます。

注目したいのは、自社で製品を作るだけでなく、他社の微生物開発を引き受ける基盤として事業を組み立てている点です。異なる業界の企業が同じ基盤を使えば、バイオものづくりに挑む企業の裾野は広がります。石油から作ってきた化学品を微生物で作る流れが、神戸から広がることを期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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