Gel Coat Biomaterials「酵素の安定化」を研究

株式会社Gel Coat Biomaterials(ゲルコートバイオマテリアルズ)

Gel Coat Biomaterials「酵素の安定化」を研究

企業紹介|株式会社Gel Coat Biomaterialsとは?

酵素などの生体分子を、壊れにくい状態に保つ「酵素の安定化」。株式会社Gel Coat Biomaterialsは、その社会実装を目指す、東京大学発のバイオマテリアル系ディープテック企業です。同社は、双性イオンポリマーを使った独自のハイドロゲル技術で、酵素の保存と利用の条件を広げる研究を進めています。

キーワード「酵素の安定化」

「酵素の安定化」は、熱や有機溶媒、保存の期間によって酵素の働きが落ちるのを抑え、使える条件を広げる技術です。同社は、酵素を水の層で包む素材によって、これを実現しようとしています。酵素に加えて、抗体や核酸といった生体分子にも、同じ考え方を広げる計画です。

市場課題|壊れやすい酵素は保存と利用の条件が限られる

現状の酵素の安定化の課題

壊れやすい酵素は冷凍保存が要る

酵素(生体内の化学反応を助けるタンパク質)は、熱や有機溶媒で働きが落ちやすい分子です。壊れやすい酵素の中には、−30℃の冷凍保存が必要なものがあるとされています。冷凍が必要であれば、保存や輸送のための設備も要り、酵素を使える場面が限られます。

既存の安定化剤には弱点がある

酵素の安定化には、界面活性剤や親水性素材、生体由来素材などの安定化剤が使われてきました。界面活性剤は生体物質を傷める懸念があり、生体由来素材は量産やスケールアップに懸念があるとされています。親水性素材は、免疫原性(体内で免疫反応を起こしやすい性質)や増粘(粘り気が増すこと)のリスクがあり、疎水的(水になじみにくい)な生体物質を安定化する効果は弱いとされています。

他にも、有機溶媒中での活性低下、凍結融解の繰り返しによる失活、酵素を繰り返し使えないことによるコスト、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 酵素生体内の化学反応を助けるタンパク質である。熱や有機溶媒などで形が崩れると働きを失うため、保存や利用の条件が限られる。

Gel Coat Biomaterialsの強み|「酵素の安定化」を研究

Gel Coat Biomaterialsが「酵素の安定化」を研究

水の層で酵素を包んで守る

従来の安定化剤は、生体物質へのダメージや、疎水的な物質への効果の弱さが課題でした。

同社の技術は、双性イオンポリマー(プラスとマイナスの電気を両方もつ、鎖状につながった分子)を使う方法です。生体適合性のある超親水性ユニット(水になじみやすい部分)と疎水性ユニット(水をはじく部分)を組み合わせたポリマーが、ナノゲル(ナノサイズのゲル粒子)を形成します。双性イオン部位が自由水(物質に束縛されず動ける水)を保持し、酵素などの生体分子を水の層で包みます。動物由来の成分を含まず、スケールアップがしやすい点も特徴です。これにより、疎水的な物質にも使える安定化の手段が広がる可能性があります。

4℃保存でも活性を保つ

壊れやすい酵素の中には、冷凍保存の設備が欠かせないものがありました。

同社の「Gel Coat™」は、高井まどか教授が発見したアメーバハイドロゲル(双性イオンポリマーを一成分とし、物理架橋でゲル化した素材)を用いた、酵素の安定化技術です。壊れやすい酵素を4℃(冷蔵)で4週間、安定に保存できるとされています。65℃、有機溶媒中、凍結融解の繰り返しでも、高い残存活性(処理後も残る酵素の働き)を維持できる点が特徴です。担体(酵素を固定する土台)に固定化すると、回収して繰り返し使いやすくなるとされています。冷蔵保存や、有機溶媒を使う反応への利用が広がる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • ナノゲルナノメートル(10億分の1メートル)サイズの、ゲル状の粒子である。この粒子が酵素などの生体分子を包み、水の層で守る。

酵素の安定化の未来|抗体・核酸と医療への展開

Gel Coat Biomaterialsの酵素の安定化が変える未来

シリーズAで量産体制を強化

2026年4月に、同社はシリーズAとして第三者割当増資(特定の相手に新株を発行する資金調達)を行ったと発表しました。引受先は、早稲田大学ベンチャーズが運営するWUV1号投資事業有限責任組合と、綜研化学。資金は、アメーバハイドロゲルの高度化と量産体制の強化に充てる計画です。あわせて、大手企業との共同研究と受託研究開発を加速する方針。

酵素から抗体・核酸へ広げる

適用の対象は、酵素から抗体や核酸へ広がる計画です。工業応用では、酵素を回収して繰り返し使うことで、生産コストを下げる用途が想定されています。診断薬や検査薬では、酵素や抗体などを安定に保つ用途です。バイオ医薬品では、PEG(ポリエチレングリコール)に代わるDDS(薬を患部へ届ける仕組み)への応用が想定されています。

医療や産業への展開を目指す

生体内で発電するデバイスとして、バイオ燃料電池の開発にも取り組んでいます。2026年10月22日と23日には、「海のEXPO@駿河湾」(駿河湾で開かれる展示会)に出展し、ナノ粒子ハイドロゲルを使った界面技術を紹介します。水分子の膜によって、菌や微生物の初期吸着を抑えることを目指す技術です。酵素の安定化にとどまらず、バイオマテリアルの用途を医療や産業へ広げることを目指す方針です。

会社概要|Gel Coat Biomaterialsの事業内容・設立背景

2024年に東京大学発で設立

株式会社Gel Coat Biomaterialsは、2024年1月16日に設立された東京大学発のスタートアップです。代表取締役CEOは吉田伸氏、共同創業者の高井まどか氏は東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の教授で、技術顧問とCTOを務めています。取締役会長は丹羽大介氏。本社は東京都千代田区富士見にあります。

資金調達と受賞の歩み

2024年12月に、同社はLife Sciences Review APAC誌2024年12月号の表紙に、アジア太平洋地域のTop Biotech企業として掲載されたと発表しました。2026年4月には、シリーズAの第三者割当増資で2億円を調達し、追加で1億円のエクステンションラウンド(同じ資金調達ラウンドに続けて行う追加の資金調達)を予定しています。2026年10月17日には、「バイオテックグランプリ2026」で最優秀賞を受賞しました。

事業と技術の位置づけ

「Gel Coat™」は、双性イオンポリマーを用いた、酵素などの安定化の素材です。技術の基盤は、東京大学の高井教授が発見したアメーバハイドロゲルです。細胞活性の評価は、医療機器の生物学的評価の規格であるJIS T 0993-1とISO 10993に準拠して行ったとされています。

会社情報

会社名株式会社Gel Coat Biomaterials
所在地東京都千代田区富士見一丁目3番11号 富士見デュープレックスB's 4階
設立2024年1月
代表代表取締役CEO 吉田伸
事業酵素などの生体分子を安定化する素材「Gel Coat™」の開発
技術領域双性イオンポリマーによる酵素の安定化
連携東京大学(技術の基盤)、綜研化学(2026年4月にシリーズAの引受先)
URLhttps://www.gelcoatbio.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

酵素は、冷凍保存や有機溶媒といった扱いの難しさが、使える場面を狭めてきた分子です。保存と利用の条件を広げる素材が実用になれば、診断薬や工業生産の現場で、酵素を使う手間とコストを下げられると期待されます。冷凍から冷蔵へ条件を移せるかが、実用の分かれ目になると考えます。

とくに注目したのは、酵素にとどまらず、抗体や核酸への拡大を計画している点です。4℃・4週間の保存性など、数値は同社の発表にとどまり、第三者による検証や実用化はこれからです。今後の検証と実用化の進展を見守りたいと考えます。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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