2026.07.27 順天堂大学・科学技術振興機構(JST) 元発表:2026.07.25

順天堂大、利き手の切り替えを制御する脳内メカニズムを解明(FrontJournal解説)

ニュース紹介

「利き手のスイッチを支える脳内メカニズムを解明~脳半球間のアセチルコリンバランスが利き手のスイッチを制御~」

順天堂大学大学院医学研究科脳回路形態学の岡本和樹非常勤助教と日置寛之教授らの研究グループは、マウスにおいて利き手(利き前肢)を安定的に切り替える行動モデルを確立し、その成立に脳半球間のアセチルコリン活動の一時的な左右差が重要であることを明らかにしました。

非利き手のみを用いる訓練を5日間実施すると、約4分の3のマウスで利き手が安定して切り替わり、その状態は少なくとも2週間維持されました。訓練する前肢と反対側の大脳半球に投射するアセチルコリン神経を選択的に除去・抑制すると、利き手の切り替えが阻害されることが確認されました。研究成果は『Cell Reports』誌オンライン版に2026年7月24日付で公開されました(論文タイトル「Paw switching with lateralized cholinergic modulation」、DOI:10.1016/j.celrep.2026.117734)。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年7月25日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20260725/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

ヒトを含む多くの動物には「利き手」があり、細かな作業や道具の操作でどちらの手を優先して使うかは、脳の左右半球の働き方の差(機能的左右差)と深く結び付いています。利き手がどのように成立し、後天的な訓練やリハビリで変化するのかは、発達神経科学や運動学習の分野で長年研究されてきたテーマです。

脳内で情報伝達を担う神経伝達物質のなかでもアセチルコリンは、注意や運動学習に関わることが知られており、大脳皮質や線条体などに広く投射しています。今回の研究は、この左右半球のアセチルコリン活動のバランスが、利き手を切り替える際に鍵を握ることを実験的に示した点で意義があります。

①利き手を「切り替える」行動モデルの確立

研究グループはまず、マウスが安定して利き前肢を切り替える行動モデルを構築しました。プレスリリースによると、非利き前肢のみを使う訓練を5日間続けたところ、約4分の3のマウスで利き手が安定して切り替わり、その状態は少なくとも2週間維持されました。ヒトのリハビリでも、非利き手を集中的に使うトレーニングが機能回復に用いられていますが、その神経基盤は必ずしも明確ではありませんでした。

再現性の高い動物モデルが確立されたことで、利き手を切り替える過程で脳内に何が起きているかを、細胞レベル・神経回路レベルで解析できるようになりました。

②脳半球間のアセチルコリンバランスが「スイッチ」を制御

研究グループはこの行動モデルを用いて、訓練する前肢と反対側の大脳半球へ伸びるアセチルコリン神経を選択的に除去・抑制する操作を行いました。その結果、利き手の切り替えが阻害されることが確認されました。すなわち、単に片側の脳が活動しているかどうかではなく、左右脳半球のアセチルコリン活動の一時的な差(バランス)が、利き手のスイッチを制御していることが示されたのです。

本研究は利き手の可塑性を支える神経基盤の理解に新たな知見をもたらすものであり、脳の左右差形成や運動学習の仕組みの解明につながることが期待されると発表資料は述べています。将来的には、脳卒中後のリハビリや発達期の運動学習支援など、ヒトの臨床応用に向けた基礎知見にもなり得るテーマです。

編集部からひとこと

今回の成果はマウスを用いた基礎研究であり、ヒトの利き手の切り替えやリハビリテーションへの応用可能性については、今後の追加研究が必要です。発表時点で治療法として利用できるものではありませんが、「利き手が変わるとき脳の中で何が起きているか」を分子・回路レベルで示した点は、神経科学とリハビリ医学の接点として重要な一歩といえます。詳細な実験条件と結果は、JSTの公式ページと『Cell Reports』の原著論文をご参照ください。

プレスリリース原文を読む ↗

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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