適地限界の日本で再エネを推進するには?浮体式洋上風力とペロブスカイトが求める「多方面のプロフェッショナル」

適地限界の日本で再エネを推進するには?浮体式洋上風力とペロブスカイトが求める「多方面のプロフェッショナル」

2050年カーボンニュートラルの実現や生成AIの普及に伴うデータセンター向け電力需要の急増を背景に、再生可能エネルギーの需要がますます高まっています。

これまで、日本政府は再エネ、特に太陽光発電を主要な電力源へと推し進めてきました。

しかし、山が多く平地が限られる日本において、大型の太陽光発電所、いわゆるメガソーラーを建設できる土地はすでに限界を迎えています。

土地条件の厳しい日本で、再エネの導入をさらに広げる技術として注目されているのが、「ペロブスカイト太陽電池」と「浮体式洋上風力」です。いずれも、従来の再エネにはなかった可能性を切り拓く技術です。

しかし、どれほど優れた技術であっても、それだけで社会に根づくわけではありません。地域や漁業者との合意形成、巨額の資金調達、過酷な沖合での運用保守といった難題を乗り越えて初めて事業として成立します。

本記事では、日本の再エネをさらに推進する新技術の現在地と、社会実装に向けた課題や取り組みを解説します。あわせて、さらなる社会実装を推進する人材や役割についても目を向けます。

1.再生可能エネルギーの2大技術 ①太陽光発電

日本という、国土の7割が山で平地が少ない土地でも、再エネ由来の電力を増やす技術があります。

それが次世代型の太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」です。中国企業が世界の太陽光発電市場で大きな存在感を持つなか、日本企業はどこで競争できるのでしょうか。

従来のシリコン製太陽電池は、重くて曲げられず、発電に適した広い土地は、ほぼ残っていません。山を切り開くような自然環境の破壊を伴う発電所の開発は、再エネ活用の理念と矛盾するため難しくなっています。

次世代型の太陽電池の強みとは?

次世代の太陽電池であるペロブスカイトは、軽くて柔らかく、ビルの壁面や窓、屋根など、これまで未利用だった場所を発電所へと変えられる点が最大の強みです。

すでに実用化に向けた検証も進んでいます。東急株式会社では、弱い光でも発電できる特性を活かして店舗内で発電性能を検証中です。将来は駅や電車内への導入の可能性を探っているとのことです。

さらに、日本はペロブスカイト太陽電池の原料となるヨウ素の世界有数の生産国でもあります。世界のヨウ素生産量の約3割を日本が占めており(世界第2位)、海外からの輸入に依存しない安定したサプライチェーンを築けます。

現在、利用する太陽光の波長が異なる「カルコパイライト太陽電池」を組み合わせて、より効率よく発電できるタンデム型実証実験も進んでいます。

次世代太陽電池を開発する、スタートアップ企業の株式会社PXP(神奈川県相模原市)は、2028年にタンデム型の量産化へ向けて動き出しています。

タンデム型太陽電池の仕組みを示す図。青色の波長をペロブスカイト層が、赤色の波長をカルコパイライト層が吸収して電気に変える

2.再生可能エネルギーの2大技術 ②風力発電

浮体式洋上風力発電

そして、もう一つの切り札が風力発電、特に海の上(洋上)に風車を浮かべ、海風で発電する「浮体式洋上風力発電」です。

陸上の風力発電も太陽光発電と同様に、適した土地の不足や騒音問題から大きな開発が難しいのが現状です。そこで、障害物もなく、陸に比べて強い風が吹く海が新たな舞台となります。

しかし、日本の海は急激に深くなり、欧州のように遠浅海底に直接土台を固定する「着床式」は、ほとんど設置できません。

そこで現在注目されているのが、海の上に風車を浮かべる「浮体式」です。チェーン等で海底に「浮体」を係留して風車を海に浮かせるため、水深が深くても設置可能です。

風力発電の種類を比べる図。陸上風車、水深0〜50mの着床式洋上風車、水深50m以上に対応する浮体式洋上風車の3つを並べている

日本の環境に合わせた浮体式洋上風力発電の開発

この超巨大な構造物を海上で安定させるには、極めて高度な技術が必要です。そこで、洋上風力に参画する日本の企業各社は、風力発電先進国である英国やデンマークなどから技術を学びつつ、日本の環境により適した洋上風力発電に向け、開発と実証実験を進めてきました。

大手ゼネコンの戸田建設は、長崎県五島市沖で日本初の商業用「浮体式洋上風力ウインドファーム」を2026年1月5日に稼働させました。浮体の上部に鋼、下部にはコンクリートを組み合わせて重心を低くした独自の「ハイブリッドスパー型」を、京都大学の宇都宮智昭准教授(現 九州大学大学院教授)と共同で開発、大型の台風にも耐えうる浮体型洋上風力発電を成功させたのです。

風車8基で発電した電気は、海底ケーブルを通して五島市内の企業や家庭へ届けられます。日本の海で商用運転へとつながった記念すべきプロジェクトとなりました。洋上風力の普及へ向けて、量産化や浮体のリサイクルを整備していくとのことです。

戸田建設と京都大学が共同で開発した「ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電」の構造

3.洋上風力発電の推進のために

国がGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に後押し

化石燃料中心の社会から脱却し、クリーンエネルギーへの転換を促して経済成長と産業競争力の強化を目指す変革がGXグリーントランスフォーメーション)です。GXに欠かせない革新的な次世代技術の開発を裏側で強力にサポートしているのが、国の補助金NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の存在です。

洋上風力や次世代太陽電池は、商業化までに莫大な初期投資と長い年月が必要です。民間企業単体では背負いきれない、開発初期の巨大なリスクが横たわっているのが現実です。実際、コスト上昇などを理由に風力発電事業から撤退するケースは少なくありません。

そこへ、NEDOが主導する「次世代浮体式洋上風力システムの実証研究」といった国家プロジェクトや公的資金が投入されることで、社会を大きく変える技術への挑戦が可能になっています。

人材育成と、困難なメンテナンスの省力化がカギ

2026年7月10日、風車世界大手のベスタス(デンマーク)が風車の主要部品を組み立てる拠点を北九州市へ設立すると福岡県が発表しました。国内サプライチェーンの整備が着々と進んでいます。

一方で、現場には深刻な「人材不足」と「過酷な保守作業」という壁が立ちはだかります。そのような中で、面白い動きを見せているのが地方の中小企業です。全国の風車540基定期点検やサポートを手がける有限会社イー・ウィンド(長崎県五島市)は、もともとは建設会社でした。それが2008年に大胆に業態転換。全国で風力発電所の稼働が増え、定期点検やメンテナンスの依頼が急増している風をとらえ、人材育成プログラムを整備し事業を拡大しています。

また、人の力だけに頼る現場の限界を突破しようとしているのが、国内の先進企業とスタートアップによる技術革新です。

KDDINTTなどの通信事業者は、ドローンを用いて洋上風車のブレード(羽根)の遠隔自動点検に乗り出します。従来は膨大な時間と人手がかかっていた点検作業を大幅に短縮し、安全性と風車の稼働率が向上しました。

洋上風力の成功に欠かせない環境への影響評価と漁業関係者との合意

洋上風力プロジェクトの成功には、資金と技術と人材、さらに環境への影響評価と関係者との合意形成が不可欠です。

特に地域の漁業者にとって、海洋へ巨大な建造物を設置することは、生活基盤や漁場に対して予測のつかない影響を及ぼす懸念があります。

プロジェクトの成功のためには、関係者の立場を理解したうえでの誠実な話し合い、客観的な環境への影響評価を経た合意形成が欠かせません。

開発と環境保護を両立できる専門家が必須

こうした背景を受け、北海道大学は、洋上風力発電に従事する社会人を対象とした人材育成プログラムを2026年10月に開講。約2カ月で生物多様性の知識や技術を学び、開発と環境保護を両立できる人材を目指しています。

洋上風力は、単に風車を建てれば成立するものではありません。設備を建設する技術だけでなく、長期にわたって運用を支える人材、地域との合意形成を担う人材、環境への影響を評価する人材など、さまざまな専門家が協力することで初めて実装に向けて前進する巨大なプロジェクトです。

4.再エネ比率を上げるために

再エネ比率のアップは実現可能な未来

世界の国々は再エネを推進しています。電力の98〜99%を水力でまかなうノルウェー、風力と太陽光で大半をまかなうデンマークを筆頭に、各国の環境に適したポートフォリオで再エネを導入しています。

日本の発電量に占める再エネ割合(水力を含む)は23.1%(2026年4月14日経済産業省発表による2024年度確定値より)、かつ太陽光がメインで再エネ先進国と比較すると道半ばですが、それだけ伸びしろが大きいということです。しかも再エネは、災害時であっても電力を確保する手段になり得ます。

太陽光や風力に大型蓄電池を組み合わせれば、送電網が寸断されても地域単位で電気を確保できます。災害の多い日本にとって、再エネ導入は環境対策を超えた防災インフラでもあるのです。

発電量に占める再生可能エネルギーの割合を比べた棒グラフ。世界の上位5か国と日本を並べている

活躍できるポジションは多数ある

洋上風力は、技術だけでは進みません。資金を集める人。地域と対話する人。制度を読み解く人。複雑に絡み合ったステークホルダーのパズルを解いて、実際に事業を前に進められる多方面の人材が必要です。

■プロジェクトマネージャー(PM)

ゼネコン自治体漁業関係者、地域住民、スタートアップなど、立場も利害も異なる関係者の間に立ち、プロジェクトを前に進める役割です。技術そのものを理解するだけでなく、関係者との調整や合意形成を進め、全体を俯瞰してプロジェクトを動かす力が求められます。

商社やデベロッパー、大手メーカーなどで、複数の企業や組織を巻き込みながらプロジェクトを推進してきた経験は、こうした仕事にも生かせます。

■事業開発・ファイナンス

洋上風力は、巨額の初期投資を必要とする事業です。事業として成立させるには、収益性を見極めた事業計画をつくり、公的支援制度なども活用しながら、金融機関や投資家から必要な資金を調達する必要があります。

金融、コンサルティング、総合商社などで培った投資判断や事業計画、ファイナンスの経験は、こうした領域で生かせる可能性があります。

再エネの現場で求められているのは、業界内の経験だけではありません。

プロジェクトを動かす力、資金を調達する力、顧客や地域と関係を築く力、複数の関係者の利害を調整する力。これまで異なる業界で培ってきた経験が、技術を社会に実装し、新しい事業を生み出す力になる可能性があります。

この記事の作者

安藤 鞠(てまりラボ)

サイエンス&インタビューライター / 科学コミュニケーター

大阪大学大学院工学研究科修了、修士(環境工学)。北海道大学CoSTEP修了。約20年にわたる医療・環境分野での研究実務を経て、2018年にライターとして独立。ディープテック、DX・GXに取り組む企業・研究機関を多数取材。幅広い分野にわたる知見と徹底した一次情報リサーチを強みに、先端技術の社会実装やビジネス動向を分かりやすく伝える。