ヘリックスエクステンション「大容量PCR」を開発

ヘリックスエクステンション株式会社

ヘリックスエクステンション「大容量PCR」を開発

企業紹介|ヘリックスエクステンション株式会社とは?

mRNAワクチンの原料となるDNAを、速く大量に作る技術として研究が進む、PCR(DNAを短時間で増幅する技術)の応用「大容量PCR」。ヘリックスエクステンション株式会社は、その社会実装を目指す、山口大学発のバイオ系ディープテック企業です。大容量PCRの装置、試薬、反応用のバッグを開発し、大容量PCRで合成したDNAの受託製造を手がけています。

キーワード「大容量PCR」

PCR(DNAを短時間で増幅する技術)は、一度に扱える反応液が10〜50 μL(マイクロリットル・1 mLの1000分の1)と少量です。この反応液を10 mL(通常の200倍以上)や200 mLへ広げ、DNAを一度に大量に作る技術が「大容量PCR」です。大腸菌の生命活動に依存せず、酵素の反応でDNAを増やします。

市場課題|ワクチンの原料DNAの製造に時間がかかる

現状の原料DNAの製造の課題

原料DNAの製造に時間がかかる

mRNAワクチンの原料である鋳型DNA(mRNAを作る元になるDNA)は、大腸菌を培養してプラスミドDNA(大腸菌の中で増やす環状のDNA)を増やす方法で作られるのが主流です。公式サイトによると、この方法でのプラスミドDNAの作製には数か月かかります。時間とコストがかかる点が課題とされています。

配列の不安定さと高コスト

大腸菌の中でDNAを増やすと、配列が不安定になることがあります。加えて、菌株の保管と管理(セルバンキング)の工程が必要です。公式サイトは、材料と製造のコストが高い点も課題に挙げています。ワクチンの原料を安定して用意するうえで、品質と費用の両面が負担になります。

他にも、複数のDNAが意図せずつながった多量体の扱い、遺伝子組換え生物の使用に関する法令(カルタヘナ法)への対応、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • プラスミドDNA大腸菌の中で複製される環状のDNAである。大腸菌を培養して増やし、取り出して使うため、ワクチンの原料となる鋳型DNAの製造に用いられてきた。

ヘリックスエクステンションの強み|「大容量PCR」を開発

ヘリックスエクステンションが「大容量PCR」を開発

大腸菌培養に代わる合成法

プラスミドDNAの方法に代わるものとして、同社は大容量PCRによる合成法を開発しています。

同社は、薄いプラスチックの反応バッグをペルチェ素子(電流で加熱と冷却ができる素子)で両側から挟み、大容量の反応液でも温度を制御できる装置を開発しています。バッグを使うため、反応液の量を増やしやすい構造です。反応は、大腸菌の生命活動に依存しない酵素反応で、10 mLの反応でmg単位のDNAを数時間で生産できると、公式サイトは説明しています。また、製造にかかる期間は、プラスミドDNAの製造(数か月)より5倍以上速いといいます。ワクチンの原料DNAを用意する期間の短縮が見込まれる点が利点です。

反応液を増やしDNAを量産

1回の反応で得るDNAの量は、反応液の量に左右されます。

同社は、反応バッグの容量を大きくして、1回の反応で扱う反応液の量を増やしています。200 mLの反応1回で、100 mg以上のDNAを得た実績があると、公式サイトは紹介しています。10 mLの反応から200 mLの反応へ、反応液の量は20倍の規模で、得られるDNAの量も数mgから100 mg以上へ増えた計算です。大腸菌を介さないため、従来法で課題とされる菌株の保管と管理の工程を前提とせず、DNAの製造にかかる負担の軽減につながる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • ペルチェ素子電流を流すと一方の面が冷え、反対の面が熱くなる素子である。電流の向きを変えると両面が入れ替わるため、加熱と冷却の両方に使える。

大容量PCRの未来|ワクチンの原料DNAを短期間で供給

ワクチン用の大容量PCRが変える未来

受託製造と装置を提供

同社の事業の柱は、大容量の反応液でDNAを増やす装置、試薬、反応用のバッグの開発と製造です。あわせて、DNAを増やす反応に使うプライマー(起点となる短いDNA)の設計を手がけています。また、合成したDNAの受託製造も事業です。受託製造は、依頼を受けて同社の大容量PCRでDNAを作り、提供する事業です。

1L規模の装置を開発中

mRNAワクチン用の鋳型DNAの調製に向けて、同社は1L(リットル)の反応液を扱える装置の開発を進めています。この研究開発は、AMED(日本医療研究開発機構)の事業の課題として、2026年7月に始まりました。反応の規模が200 mLから1Lへ広がれば、1回で得られるDNAの量はさらに増える見込みです。AMEDの資料は、将来的に1日に1〜2 gの鋳型DNAを得ることを、期待される成果として挙げています。

原料DNAの50日供給を目指す

将来的にmRNAワクチン用の鋳型DNAを50日で供給できることが、AMEDの資料に期待される成果として示されています。研究開発の達成目標は、1L規模の反応液を扱うシステムの開発です。鋳型DNAは、mRNAワクチンを製造する最初の段階で必要になる原料です。供給までの期間が縮まれば、新しい感染症への備えとして、社会がワクチンを手にするまでの時間の短縮につながる可能性があります。

会社概要|大容量PCRを事業にするヘリックスエクステンション

2023年8月に設立

ヘリックスエクステンション株式会社は、2023年8月4日に設立された、山口県の企業です。本社は、山口県宇部市の山口大学工学部の先端研究棟内にあります。代表取締役社長は富田悟志氏で、技術を担う取締役には、山口大学大学院創成科学研究科教授の赤田倫治氏が就いています。

山口大学発の研究成果

同社は、山口大学の研究開発シーズ(研究成果の種)を活かした大学発ベンチャーです。経済産業省の大学発ベンチャーデータベースでは、研究成果ベンチャーに分類されています。取締役の赤田倫治氏は、2015年から宇部市のヤナギヤと大容量PCR技術を共同開発してきたとされています。

採択と助成

AMEDの「ワクチン・新規モダリティ・治療薬等研究開発事業(一般公募)」に、「大容量PCRシステムによるmRNAワクチン鋳型DNA調製に関する研究開発」の課題が採択されています。研究開発の開始は2026年7月です。この事業は、ワクチンや新しい治療手段の研究開発を、公募によって支援する事業です。2024年度には、ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団(キューテック)が実施する研究開発助成金にも採択されました。助成金は、研究開発の費用を支える制度です。

会社情報

会社名ヘリックスエクステンション株式会社
所在地山口県宇部市常盤台2丁目16-1 山口大学工学部内
設立2023年8月
代表代表取締役社長 富田悟志。取締役 赤田倫治(山口大学大学院創成科学研究科教授)
事業大容量PCR装置、試薬、反応用バッグの開発と製造。プライマー設計。大容量PCRで合成したDNAの受託製造
技術領域大容量PCR。酵素反応によるDNAの合成
連携山口大学(研究開発シーズ)。ヤナギヤ(大容量PCR技術の共同開発)
採択AMED「ワクチン・新規モダリティ・治療薬等研究開発事業(一般公募)」。キューテック研究開発助成金(2024年度)
URLhttps://www.helixextension.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

ワクチンの原料DNAは、大腸菌を育てて得る方法が主流です。ヘリックスエクステンションの取り組みは、その工程をPCRという反応に置き換える試みです。製造の時間と手間を見直す点に、同社の特徴があります。

注目したのは、実験室の手法であるPCRを、製造に使える規模へ広げようとしている点です。装置と試薬とバッグを組み合わせ、単なる実験用の装置ではなく原料DNAの製造設備として育てる姿勢が、事業の核心だと考えます。次の感染症への備えとして、原料DNAを短期間で用意できる選択肢が増えることに、期待したいです。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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