スペースシーファイブ「折紙工学」を研究

株式会社スペースシーファイブ

スペースシーファイブ「折紙工学」を研究

企業紹介|スペースシーファイブとは?

平らな材料を折って、軽く丈夫な構造や折り畳める製品を設計する技術として、注目を集める「折紙工学」。スペースシーファイブは、その社会実装を目指す、明治大学発の構造設計系ディープテック企業です。扇の見え方を確かめるアプリ「Ougi Builder」と、折り畳み帽子の製作キットを、一般の利用者へ提供しています。

キーワード「折紙工学」

「折紙工学」は、日本の折り紙をもとに提唱された、折り方で構造や機械を設計する研究領域です。特徴は、平らな材料を折り目や切り込みで立体に変え、軽さと強さを両立させたり、折り畳んで小さくしたりできる点にあります。自動車の衝撃を吸収する部材や、折り畳めるペットボトルなど、身近な製品の設計への応用が研究されています。

市場課題|造形物の大きさと緩衝装置の動きに制約

現状の装置の課題

造形物が装置の大きさに縛られる

現在広く使われている積層型(素材を溶かして一層ずつ積み上げる方式)の3Dプリンタは、造形物の大きさが装置の大きさに縛られます。同社の比較資料では、積層型は展開収縮ができず、造形できる大きさにも制限があると整理されています。一方、折紙式は展開図から折り上げるため、折り畳める構造も作れる点が違いです。

微小入力でピストンが動きにくい

従来のショックアブソーバー(車体の揺れを和らげる緩衝装置)では、ピストンとシール(油漏れを防ぐ部品)の間に静摩擦(動き出す前に働く摩擦)が働くため、小さな振幅の入力ではピストンが動きにくくなります。良好な路面ではサスペンションが十分に機能せず、高周波の振動が車体に伝わり、乗り心地に影響する点が課題です。渋滞中に橋の上で停車しているときも、橋の揺れをタイヤのばねがほぼ受け持つため減衰(揺れを収めること)が小さく、乗員は揺れが長く続くのを感じます。

摺動部(ピストンとシールなどが擦れ合う部分)には、横方向の力が加わると摩擦が増える課題もあります。コイルスプリングと並べて使うと、斜めに押し返す力が摺動部の抵抗をさらに増やします。他にも、軽さと強さを両立する構造の設計、折り畳んだ構造が元の形へ戻ってしまう現象(スプリングバック)、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 静摩擦静止している物体を動かし始めるときに働く摩擦。動かす力がこの値を超えるまで物体は動かず、ピストンの動き出しが遅れる原因となる。

スペースシーファイブの強み|「折紙工学」を研究

スペースシーファイブが「折紙工学」を研究

折り上げて装置より大きく造形

積層型の3Dプリンタは、素材を溶かして積み上げる方式のため、使える素材と造形物の大きさに限りがありました。

同社が研究開発を進める折紙式3Dプリンターとは、三次元のCADデータ(コンピュータ上の設計データ)から、山折りと谷折りの線を描いた展開図を作り、それに沿って折り上げる方式を目指す研究です。紙などの素材なら展開図をもとに人が折ることができ、鉄板のような素材ではロボットで折る研究も進められています。展開図が基になるため、装置より大きな立体物を作れる点が目標です。人物や動物の写真から展開図を作るシステムもあり、CADデータがなくても、装置に収まらない大きさの立体物の試作が可能になります。

擦れ合う部分をなくして減衰

従来のショックアブソーバーは、ピストンが擦れ合う摺動部を持つため、横方向の力が加わると摩擦が増え、動きが妨げられる課題がありました。

同社が研究開発を進める折紙油圧ダンパーは、折り紙の構造を用いて摺動部をなくした緩衝装置です。摺動部がないため、ピストンとシールの静摩擦による動き出しの遅れが生じにくくなります。軸対称のばね(中心軸のまわりで同じ形になるばね)として構成できるので、コイルスプリングと並べても横方向の力による摩擦の問題が起きにくい構成です。良好な路面での小さな入力でもサスペンションが働く緩衝装置の実現を目指しており、乗り心地の改善が期待されます。

FrontJournalの解説
  • 展開図立体を切り開いて平面に広げた図。山折りと谷折りの線を示し、その線に沿って折ると元の立体が組み上がる。

折紙工学の未来|宇宙・自動車・日用品への応用

折紙工学が変える未来

折り畳み帽子や扇アプリを提供

折紙工学の成果は、すでに折り畳み帽子や扇の見え方を確かめるアプリとして製品になっています。折り畳み帽子は、蛇腹折りとナマコ折りという2つの折り方を組み合わせた帽子で、製作キットを販売しています。スマホスタンドも、同じく製作キットの形での提供です。App Storeで入手できる「Ougi Builder」は、二次元の画像を三次元の扇にしたときの見え方を、事前に確かめられるアプリです。

折り畳める容器や防音室へ展開

折り畳める容器や空間にも、折紙工学の設計を生かした研究開発が進んでいます。折り紙のように折りたため、スプリングバックしないペットボトルが開発の過程にあり、給水タンクや折り畳み箱、安全輸送箱も研究開発の対象です。音を抑える音響減音室も、ハードウエアとして研究されています。使わないときに体積を小さくできる構造は、保管や運搬の負担を減らす設計につながります。

宇宙や深海での活用を目指す

同社は、折紙工学を宇宙開発(宇宙機など)や深海開発など多様な産業へ広げ、細胞のようなミクロな現象の解明にも貢献することを目指しています。展開収縮(必要に応じて形を大きくしたり小さくしたりする性質)を持つ構造も、折紙工学の研究対象です。自動車のエネルギー吸収材や落石防護柵、地震対策の構造にも折り紙構造の応用が挙げられるほか、折り紙構造で車両を超軽量にし、制御技術で安定させる自動走行車を構想し、地方創生への寄与も掲げています。

会社概要|スペースシーファイブの事業内容・設立背景

明治大学の研究から事業化

スペースシーファイブは、2023年2月に設立された明治大学発のベンチャー企業で、本社は神奈川県鎌倉市です。代表取締役は、明治大学研究・知財戦略機構の先端数理科学インスティテュートで研究特別教授を務める萩原一郎氏です。取締役には篠田淳一氏が就いています。社名の「スペース」は、折紙工学が宇宙空間にまで広がっていくことを意味します。

知的財産の譲渡契約を締結

明治大学は、同社の新株予約権(あらかじめ決めた条件で株式を取得できる権利)を対価に、大学の知的財産権を同社へ譲渡することで、2023年8月3日に合意しました。大学が大学発ベンチャーの株式や新株予約権を取得する例としては、明治大学で4例目にあたります。代表の萩原氏は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の基礎的研究推進制度のもとで、2007年7月から2010年3月まで超軽量車両の基礎研究にも取り組みました。

製品提供と研究開発が事業の軸

事業は、折紙工学を基盤にした製品の提供と、ハードウエアやソフトウエアの研究開発を軸としています。折り畳み帽子とスマホスタンドは、当面の間、製作キットのみの販売です。開発技術には、最適化や制御、機械学習に関するソフトウエアも掲げています。

会社情報

会社名株式会社スペースシーファイブ
所在地神奈川県鎌倉市今泉台5丁目10番8号
設立2023年2月27日
代表萩原 一郎(代表取締役)。篠田 淳一(取締役)
資本金500万円
事業折紙工学を基盤にしたハードウエア・ソフトウエアの研究開発。扇シミュレーションアプリ「Ougi Builder」の提供。折り畳み帽子・スマホスタンドの製作キットの販売
技術領域折紙工学、折紙式3Dプリンター、折紙油圧ダンパー、ハニカム構造(蜂の巣状の構造)、展開収縮構造(形を大きくも小さくもできる構造)
連携明治大学と知的財産権の譲渡契約を締結(2023年8月)
URLhttps://www.spacec5.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

折り紙は、多くの人にとって遊びや芸術の印象が強い文化です。その折り方を設計の言葉に置き換え、軽さや折り畳みやすさといった工業製品の課題に結びつける発想が新鮮に映ります。工学の分野で折り紙が注目される理由も、ここにあります。

スペースシーファイブが目指すのは、折り紙の技法を部材や容器、緩衝装置にまで広げることです。摺動部をなくした緩衝装置や、展開図から立体を折り上げる3Dプリンターは、既存の製造方法とは異なる出発点から設計を考える試みといえます。折り紙の技法が産業の現場でどこまで通用するかが問われます。

2023年に設立された大学発の同社が、日本の伝統を製造業の設計へ結びつけていく歩みに期待したいところです。今後は、製品の提供と研究開発の両面での広がりに注目します。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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