Trans Chromosomics「完全ヒト抗体産生マウス」を開発

株式会社Trans Chromosomics(トランスクロモソミックス)

Trans Chromosomics「完全ヒト抗体産生マウス」を開発|研究領域=ヒトの抗体をつくるマウスで抗体医薬を探索/強み=人工染色体で巨大遺伝子を導入/将来性=公的研究機関へ広く提供を目指す

企業紹介|株式会社Trans Chromosomicsとは?

ヒトの抗体を、動物の体内で産生させる手法である「完全ヒト抗体産生マウス」。株式会社Trans Chromosomicsは、その社会実装を目指す、バイオ系ディープテック企業です。染色体工学の技術で、ヒト抗体遺伝子を全長で導入した「TC-mAbマウス」を開発し、抗体医薬シーズの創生を進めています。

キーワード「完全ヒト抗体産生マウス」

「完全ヒト抗体産生マウス」は、ヒトの抗体遺伝子を導入し、ヒトの抗体を産生するようにしたマウスです。通常のマウスでは、産生される抗体がマウス由来になり、ヒトに投与すると体内で免疫反応が起こることがあります。ヒトの抗体を産生するマウスであれば、抗体医薬の候補を、動物の体内で得られます。

市場課題|ヒトに適した抗体を、得にくい

現状の完全ヒト抗体産生マウスの課題|マウス由来抗体は免疫反応を招く/完全ヒト抗体産生動物は限られる

マウス由来抗体は免疫反応を招く

マウス由来の抗体は、ヒトに投与すると免疫反応が起こりやすく、実用化の障壁になってきました。抗体医薬の開発では、抗体の取得に通常のマウスを用いる手法が知られており、産生されるのはマウス由来の抗体です。ヒトに対する免疫原性が高いと、安全性の面から、抗体医薬の候補になりにくくなります。

完全ヒト抗体産生動物は限られる

完全ヒト抗体産生動物を提供できる企業は限られ、高額な利用料も利用のハードルになってきました。抗体医薬は、高い安全性を求めて、キメラ抗体(一部がマウス由来の抗体)、ヒト化抗体(マウス由来の部分を減らした抗体)、完全ヒト抗体へと変化しています。このため、完全ヒト抗体を取得できる環境は、一部の企業に偏ってきました。

他にも、巨大なヒト抗体遺伝子の導入の難しさ、利用の障壁の高さ、抗体の取得効率、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 免疫原性抗体などの物質が、体内で免疫反応を引き起こす性質である。マウス由来の抗体はヒトに対する免疫原性が高く、抗体医薬の実用化の障壁とされてきた。

株式会社Trans Chromosomicsの強み|「完全ヒト抗体産生マウス」を開発

Trans Chromosomicsが「完全ヒト抗体産生マウス」を開発|人工染色体でヒト抗体遺伝子を全長導入/通常の手法で完全ヒト抗体を取得

ヒト抗体遺伝子を全長で導入

従来の作製法では、1Mb(100万塩基対)を超える巨大なヒト抗体遺伝子の全長を、マウスに導入することが困難でした。

同社は、人工染色体ベクター(遺伝子を運ぶ、人工の小さな染色体)を使い、ヒト抗体遺伝子の全長をマウスに導入した「TC-mAbマウス」を開発しました。ヒトの抗体を構成する2種類のタンパク質鎖(重鎖とκ軽鎖)の遺伝子を完全長で搭載し、マウス自身の抗体遺伝子は働かないように(ノックアウト)しています。人工染色体ベクターは、宿主の染色体に挿入されず、独立して維持される仕組みです。Mbサイズの巨大な遺伝子を導入できるため、巨大なヒト抗体遺伝子を丸ごと保持でき、ヒトに近い多様な抗体を産生できるようになります。

通常の手法で完全ヒト抗体を取得

キメラ型の抗体は、マウス由来の抗体の定常領域をヒトの型に置換して作るため、置換の工程が必要でした。

TC-mAbマウスは、通常のハイブリドーマ法(抗体を産生する細胞と増え続ける細胞を融合して、抗体を得る方法)で、完全ヒト抗体を取得できます。産生される抗体は定常領域(抗体の根元側の、構造がほぼ一定の部分)までヒトの抗体であり、キメラ型のように、定常領域をヒトに置換する作業は不要です。取得できる抗体の型(サブクラス)は、IgG1を中心に、IgG2、IgG3、IgG4、IgMです。同社は、通常のハイブリドーマ法が使える点を、特徴として説明しています。

FrontJournalの解説
  • 人工染色体ベクター天然のヒトまたはマウスの染色体から遺伝子領域を取り除き、最小限の機能と構造を残したベクターである。Mbサイズの巨大遺伝子を搭載でき、宿主の染色体に挿入されず独立して存在する。

完全ヒト抗体産生マウスの未来|利用の場の広がり

完全ヒト抗体産生マウスが変える未来|抗体を効率よく取得できる/ヒト型P-gpマウスも提供/公的研究機関へ広く提供

抗体の取得効率が高い

TC-mAbマウスは、同一の抗原に対する抗体の取得効率で、野生型マウスよりも多くの抗原特異的モノクローナル抗体(特定の抗原に結合する、均一な抗体)が得られています。この結果は、2022年4月に発表された論文で報告されました。抗体の多様性を生む遺伝子の組換えの頻度も、ヒトと類似していることが示されています。TC-mAbマウスは、2024年6月から、株式会社医学生物学研究所の抗体開発受託サービスでも利用できます。

ヒト型P-gpマウスも提供

同社は、人工染色体ベクターを使った、医薬品の評価用の動物も提供しています。TC-huMDR1マウスは、ヒト型のP糖タンパク質(P-gp)を発現するマウスです。P-gpは、薬物の脳内移行性や、薬物間相互作用に重要な役割を果たします。動物の種によって薬物の脳内移行のデータが異なる課題に対し、TC-huMDR1マウスは、多くの医薬品でヒトとの相関性が高いデータを示しています。

公的研究機関へ広く提供を目指す

同社は、TC-mAbマウスを、国内外の公的研究機関へ広く提供する方針を、2022年4月の発表で示しています。完全ヒト抗体を産生する動物を提供できる企業は、限られていました。提供の範囲が広がれば、抗体医薬品の創出に取り組める研究機関が増える可能性があります。同社は、アカデミアとの連携を通じて、抗体医薬シーズの創生を目指しています。

会社概要|染色体工学の研究者が代表を務めるTrans Chromosomics

染色体工学の研究者が代表

同社は、2014年12月に設立されました。代表取締役の押村光雄氏は、鳥取大学で細胞工学の教授を務め、同大学の染色体工学研究センターでセンター長を務めた研究者です。1998年には、『ヒト抗体を産生するマウスの開発』で日経BP技術賞を受賞しています。本社は鳥取県米子市にあり、2018年4月に、とっとり創薬実証センター(鳥取大学米子キャンパス)に入居しました。

採択・連携

2023年10月、AMEDの令和5年度革新的先端研究開発支援事業(LEAP)に参画しました。課題名は「デザイン染色体による免疫系ヒト化動物の創成と創薬応用」で、研究代表は鳥取大学の香月康宏教授です。同社は、2022年12月に、iBody株式会社と業務提携契約を締結しました。鳥取大学染色体工学研究センターとは、共同研究を行っています。

資金調達

資金面では、2017年2月の株式会社カイオム・バイオサイエンスを皮切りに、第三者割当増資を実施しています。2018年にはとっとり地方創生ファンド投資事業有限責任組合、2019年6月にはTNPスレッズオブライト投資事業有限責任組合を引受先とする増資を行いました。事業は、人工染色体ベクターを軸に、完全ヒト抗体産生動物を用いた抗体医薬シーズの創生を進める方針です。

会社情報

会社名株式会社Trans Chromosomics
所在地鳥取県米子市西町86番地(とっとり創薬実証センター内)
設立2014年12月17日
代表代表取締役 押村光雄
資本金1億円(2024年4月1日時点)
従業員18名(2024年4月1日時点)
調達第三者割当増資(2017〜2019年)
事業染色体工学技術を活用した医薬品のシーズ探索のためのプラットフォームの研究開発と導出
技術領域人工染色体ベクター、完全ヒト抗体産生マウス「TC-mAbマウス」、ヒト型P-gpマウス「TC-huMDR1マウス」
連携鳥取大学染色体工学研究センター(共同研究)。iBody株式会社(業務提携、2022年)。株式会社医学生物学研究所(抗体開発受託サービス、2024年)
採択AMED 令和5年度 革新的先端研究開発支援事業(LEAP)に参画(2023年)
URLhttps://www.trans-chromo.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

抗体医薬の開発では、ヒトに投与できる抗体を、いかに効率よく得るかが問われてきました。Trans Chromosomicsは、巨大なヒト抗体遺伝子を丸ごと運べる人工染色体ベクターで、その入口に取り組んでいます。抗体を産み出す動物そのものを設計する点に、特徴を感じます。

遺伝子の長さの制限を超えるという発想が、完全ヒト抗体産生マウスの実現につながった点に、染色体工学の積み重ねを感じました。長年の研究が、受託サービスという形で利用できるようになった点にも、意義があると考えます。研究室の技術が、創薬の現場へ届く過程を示す事例といえます。

今後、公的研究機関などへ提供が広がり、抗体医薬の候補を探索する選択肢が増えることを期待します。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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