2026.10.22 │ 科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.21

名古屋大学ら、鉄ナノ粒子で光免疫療法を強化する治療基盤を開発

ニュース紹介

「ナノと光の力で腫瘍根絶を目指す~鉄ナノ粒子を応用した集学・複合治療プラットフォーム~」

名古屋大学大学院医学系研究科の佐藤和秀特任講師(責任著者)、同大学大学院工学研究科の井藤彰教授、同大学大学院医学系研究科の佐藤光夫教授、JSR株式会社の嶋田遵生子主任研究員らの研究グループは、抗体医薬に極小サイズの鉄ナノ粒子(超常磁性酸化鉄極小ナノ粒子)を付加する、新しいがん分子光標的治療のプラットフォーム「NIR-PICT3」を開発しました。MRI(磁気共鳴画像)で標的の腫瘍を描き出せるようにしたうえで、近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)の効果に加え、690nmの近赤外光による光温熱効果(PTT)、化学動力学治療(CDT)、フェロトーシスの誘導という複合的な効果を同時に示すことを見いだしています。

さらに、光の照射を繰り返すたびに発熱の効率が上がる「光温熱増強効果」と、標的の抗原を持たない腫瘍細胞にも治療効果が及ぶ「光温熱バイスタンダー効果」を見つけ、その仕組みを明らかにしました。成果は2026年10月21日付で科学誌「Journal of Nanobiotechnology」に掲載されました。本研究はJSTの創発的研究支援事業の支援を受けています。

出典:科学技術振興機構(JST)・名古屋大学・JSR株式会社 2026年10月21日 プレスリリース(掲載誌:Journal of Nanobiotechnology/DOI: 10.1186/s12951-026-05148-w)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261021-3/index.html

FrontJournalの解説

光免疫療法とは

今回の研究の土台は「光免疫療法(NIR-PIT)」です。がん細胞の表面にあるたんぱく質にくっつく抗体(特定の目印に結合する分子)に、光に反応する物質を付けて体に入れ、そのあと近赤外光(目に見えない、体の中まで届きやすい光)を当てて、がん細胞を壊す治療法です。日本では2020年に承認され、国立がん研究センターによると、現在は切除できない局所進行または局所再発の頭頸部がんを対象に保険診療として行われています。

ただし、抗体を使う治療には共通の課題があります。同じ腫瘍の中でも、目印のたんぱく質を多く持つ細胞と少ない細胞が混ざっている「腫瘍内不均一性」です。目印の少ない細胞には薬が結合しにくく、治療効果が届きにくくなります。今回の研究は、この課題に挑んだものです。

①鉄ナノ粒子で「見える」治療にする

研究グループは、抗体と光に反応する物質に、極小の鉄ナノ粒子を結合させました。発表によると、鉄ナノ粒子はすでに肝臓がんや肝転移のMRI検査で臨床に使われており、研究グループは人への応用がしやすいと考えています。鉄ナノ粒子を付けたことで、薬が腫瘍に届いたかをMRIで追跡できるようになりました。また、使う抗体を変えれば、さまざまながんの種類に応用できると研究グループは見込んでいます。

②複数の効果を一度に引き出す

NIR-PICT3では、光を当てると光免疫療法の効果に加えて、熱でがん細胞を傷つける光温熱効果、鉄が関わる化学反応で細胞を傷つける化学動力学治療、鉄に依存して起こる細胞死であるフェロトーシスが同時に現れました。さらに、熱の効果は目印を持たない周りの腫瘍細胞にも及んだと報告されています。これは、腫瘍内不均一性という課題に別の方向から取り組む結果といえます。

編集部からひとこと

発表では人での治療効果は示されておらず、今回の成果は治療の新しい基盤を開発した研究段階のものです。すでに臨床で使われている鉄ナノ粒子を組み合わせた点は、今後の研究を進めるうえでの特徴の一つです。抗体を差し替えて他のがんへ広げられるかどうか、今後の研究の進み方に注目したいと思います。詳しい実験条件はJSTの発表資料と掲載論文を確認してください。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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