2026.10.13 │ 京都大学化学研究所 │ 元発表:2026.10.07

京都大学・QSTら、ナノダイヤモンド量子センサの個体差を約4分の1に

ニュース紹介

「血液中の微量な病気のサインを、高い信頼性で捉える量子センサの量産化へ ~ナノダイヤモンドの個体差を約4分の1に抑え、量子信号も55%向上~」

京都大学化学研究所の水落憲和教授は、量子科学技術研究開発機構(QST)、千葉大学、東京科学大学、株式会社Type-I Technologiesと共同で、がん等の病気のサインとなる血液中にごく微量に含まれる物質を高感度に捉える「ナノダイヤモンド量子センサ」の製造プロセスにおいて、粒子ごとの個体差を約4分の1に低減し、量子信号を55%向上させる作製技術を開発しました。

従来は原料ダイヤモンド粒子をナノサイズに砕いてからセンサ機能を作るため、破砕で生じる傷やひずみによる粒子ごとの“クセ”が測定誤差につながっていました。研究グループは、原料粒子にあらかじめセンサ機能(NVセンター)を作り込み、その後に空気中で穏やかに加熱して表面を少しずつ削り、結晶性の高い中心部分10%のみを取り出す方法を確立しました。温度読み出しの基準となるD値の粒子間ばらつきは従来粒子の約4分の1に、ODMR信号強度は55%向上し、HeLa細胞内の温度計測では細胞間の温度読み出しの不確かさを約0.7℃まで低減しました。多数の粒子を一括して高性能化できるため、量産化への展開も期待されるとしています。

出典:京都大学化学研究所 2026年10月7日 研究トピックス(共同発表:量子科学技術研究開発機構(QST)、千葉大学、東京科学大学、株式会社Type-I Technologies/掲載誌:ACS Nanoscience Au/DOI: 10.1021/acsnanoscienceau.6c00068)
https://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/sites/topics/261007/

FrontJournalの解説

この研究分野について

ダイヤモンドの結晶中には、炭素原子の一部が窒素に置き換わり、隣が空席(空孔)になった「NVセンター(窒素-空孔中心)」という構造があります。NVセンターに光とマイクロ波を当てると、蛍光の強さが変わるマイクロ波の周波数が温度や磁場によってわずかにずれます。この性質を使えば、ごく小さな領域の温度や磁場を測る量子センサとして利用できます。

数十〜数百ナノメートルのナノダイヤモンド(微小なダイヤモンド粒子)は細胞に取り込ませることができるため、細胞内の温度計測や、血液などの体液に含まれる微量な分子を検出する研究に使われています。QSTはこれまでに、ナノダイヤモンドを用いて細胞内の磁場・温度・pHなどの計測や、血液中のバイオマーカー分子の検出に取り組んできたと公表しています。

①「先に砕く」から「先に作り込んで削る」へ

従来の作り方では、ダイヤモンドを機械的に砕いてナノサイズにしてからNVセンターを作り込むため、粒子ごとに傷やひずみの入り方が異なり、センサとしての特性もばらついていました。今回の方法は手順を入れ替え、結晶性の良い大きめの粒子に先にNVセンターを作り、空気中の穏やかな加熱(酸化:酸素と反応させて表面を取り除く処理)で外側を削ります。発表によれば、ダイヤモンドは結晶面によって酸化されやすさが異なる性質を利用し、結晶の乱れた部分を優先的に除いて中心部分を残す仕組みです。

②ばらつきを抑えることが診断用途の前提になる

NVセンターの温度読み出しでは、D値(温度を読む基準となる共鳴周波数)が粒子ごとにずれると、同じ温度でも粒子によって読み値が変わります。診断に使うには、粒子や製造ロットが変わっても同じ結果が出る再現性が必要です。今回、D値のばらつきが従来の約4分の1になり、信号強度も55%向上しました。性能の良い粒子を一つずつ選ぶのではなく、まとめて処理できる点は、量産を見据えた製造工程として意味を持ちます。

編集部からひとこと

今回の成果は作製法の確立と細胞内温度計測での検証の段階であり、血液検査などの診断用途への適用は今後の展開として示されています。発表では関連報道として、QSTが量子センサの量産を2028年に計画しているとの日本経済新聞の記事(2025年8月)も挙げられています。センサの「感度」だけでなく「ばらつき」に焦点を当てた点は、量子センシングを研究室の計測から実用の計測へ移すうえで確認しておきたい論点です。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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