生成AIの応答を速めるAI半導体を開発する Cerebras Systems(米国発)

生成AIの応答を速める「AI半導体」を開発【Cerebras Systems|米国発】

生成AIの普及にともない、AIが質問に答える「推論」(学習済みのモデルが答えを出す処理)の計算量と、データセンターの電力需要が世界で増えています。この課題に挑むのが、米国のセレブラス・システムズ(Cerebras Systems)です。シリコンウェハー1枚をほぼ丸ごと1個のチップにした「AI半導体」を開発し、OpenAIとも提携を結んでいます。2026年5月には米ナスダック市場への株式上場を完了しました。

AI推論の課題

Cerebras Systemsの紹介と、データセンターの電力が急増し、メモリ転送で応答が遅延する課題を示す図

データセンターの電力が急増

AIの利用拡大により、データセンターの電力消費が急速に増えています。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、世界のデータセンターの電力消費は2024年の約415TWh(テラワット時)から、2030年には約945TWhへと約2倍に増える見通しです。このままでは電力の確保が各地で課題となり、AIの利用拡大を制約する要因になるおそれがあります。

メモリ転送で応答が遅延

生成AIが文章を生成する段階では、計算そのものよりデータの読み出しに時間がかかる場面が多くあります。文章を1語ずつ生成するたびに、モデルの重み(学習で得た膨大な数値)をメモリから計算部へ読み出すため、メモリ帯域(一定時間に送れるデータ量)の大きさが応答の速さを決める要因です。長い文章を書いたり作業を自動で進めたりするAIエージェントでは待ち時間が積み重なり、利用者の使い勝手が下がります。

FrontJournalの解説
  • AIエージェント利用者の指示を受け、調べ物や資料作成などの複数の作業を自ら順に進めるAI。1回の質問に答えるだけの対話型AIより、多くの推論を繰り返す。
  • メモリ帯域メモリと計算部の間で、1秒あたりに送れるデータの量。道路の車線の数にたとえられ、広いほど多くのデータを同時に運べる。

Cerebras Systemsが「AI半導体」を開発

Cerebras Systemsが開発するAI半導体が、チップ上のメモリで応答を速め、巨大なチップでモデルの分割を軽減することを示す図

課題解決に挑むCerebras Systems

Cerebras Systemsは、生成AIの学習と推論に特化した「AI半導体」と、それを搭載したコンピューターを開発する米国の企業です。2015年に創業し、米カリフォルニア州のサニーベールに本社を置きます。創業メンバーの5人は、省電力サーバーを手がけ2012年にAMDが買収したSeaMicroでともに働いた技術者です。

チップ上のメモリで応答が高速化

主力の「WSE-3」は、約4兆個のトランジスタ(電流を切り替える素子)と約90万個の計算コア(計算を担う回路)に加え、44GBのSRAM(高速なメモリ)を1枚のチップ上に載せています。計算部のすぐ隣にメモリがあるため、GPU(画像処理半導体)のように別のチップからデータを運ぶ待ち時間を短くできます。メモリ帯域はエヌビディアのGPU「H100」の約7,000倍になるというのが同社の説明です。主要な公開AIモデルを使った同社の測定では、GPUを使う方式より最大15倍速く推論できるとしています。

巨大チップでモデルの分割を軽減

一般的な「AI半導体」はシリコンウェハーから多数のチップを切り出しますが、「WSE-3」はウェハー1枚をほぼ丸ごと1個のチップにしています。同社によると、その大きさは代表的なGPUのチップの58倍で、GPUなら多数を配線でつなぐ計算を1個のチップの中で処理できます。学習用には外部メモリを組み合わせる構成があり、最大24兆パラメータのモデルを分割せずに1つのメモリ空間に置けると同社は発表しています。モデルを多数のチップへ割り振る手間が減る点も、同社が挙げる利点です。

FrontJournalの解説
  • シリコンウェハー半導体の材料となる、シリコンの薄い円板。通常は1枚から数十〜数百個のチップを切り出すが、WSE-3は1枚をほぼ1個のチップとして使う。
  • SRAM高速に読み書きできるメモリの一種。計算部の外に置くメモリ(HBMなど)より速いが、大容量にしにくいため、通常はチップ上にわずかしか載せない。

AI半導体の未来

AI半導体がAIの応答待ちを短縮し、AIの省電力運用を目指し、株式上場で資金を調達したことを示す図

AIの応答待ちを短縮

「AI半導体」の普及により、対話型AIの待ち時間は短くなると見込まれます。OpenAIは2026年1月、Cerebras Systemsのシステムを消費電力にして約750MW(メガワット)規模で導入する複数年の契約を結びました。導入は段階的に進み、応答の速さが求められるAIエージェントなどに使う計画です。米Bloombergは契約額を100億ドル(約1兆5,000億円)超と報じており、長い回答もすぐに受け取れるサービスが身近になる可能性があります。

AIの省電力運用を目指す

同社は、AIの計算に必要な電力を抑えることも目指しています。同社によると、「WSE-3」は計算量あたりの電力がGPUを使う方式より少なく済む設計です。「CS-3」は前世代の「CS-2」と同じ消費電力で2倍の性能を持つと発表されています。前述のとおりデータセンターの電力消費が増えるなか、同じ電力でより多くのAIを動かせれば、電力の制約を受けにくいAIサービスの運用につながります。

株式上場で資金を調達

同社は2026年5月14日、米ナスダック市場に株式を上場しました。1株185ドルで約3,450万株を売り出し、約63.8億ドル(約9,570億円)を調達したと発表しています。証券コードは「CBRS」で、上場を主導した引受会社にはモルガン・スタンレーやシティグループなどが名を連ねました。調達した資金で生産とデータセンターの整備が進めば、高速な推論をより多くの企業や利用者へ届けやすくなります。

FrontJournalの解説
  • 引受会社株式の上場で、発行される株式を買い取って投資家へ販売する証券会社。売り出し価格の決定なども担う。

まとめ

生成AIの利用が広がるなか、推論を速く、少ない電力で動かす「AI半導体」の重要性が高まっています。Cerebras Systemsは、ウェハー1枚をほぼ丸ごと使う設計で、メモリの待ち時間を短くするチップを実用化しました。OpenAIとの提携やナスダック上場を経て、事業の規模も広がりつつあります。推論の速さと消費電力の両立は、AIを使う国や企業に共通するテーマです。FrontJournal編集部は、ウェハー規模の「AI半導体」が、速さと省電力を両立するAIの計算基盤の選択肢になることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値で、円換算は1ドル=約150円で計算しています。
主な出典:Cerebras Systemsのプレスリリース(2024年3月13日・2024年8月27日・2026年5月15日)、Cerebras Systems「OpenAI Partners with Cerebras to Bring High-Speed Inference to the Mainstream」(2026年1月14日)、国際エネルギー機関「Energy and AI」(2025年)、Bloomberg(2026年1月14日)。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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