【GAPファンド・北海道】HSFCの採択課題と研究テーマ
「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。北海道では「HSFC(北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク)」が「HSFC-GAPファンド」を運営し、2025年度は31件を採択しました。本記事では、このうち8件を紹介します。
「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。北海道では「HSFC(北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク)」が「HSFC-GAPファンド」を運営し、2025年度は31件を採択しました。本記事では、このうち8件を紹介します。
「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費(科学研究費助成事業)」や、設立後の企業に投資する「VC(投資会社等)」とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。
GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。
「HSFC」は、「北海道大学」を主幹機関とし、道内の大学や高専、自治体、金融機関などが連携する創業支援のプラットフォームです。現在の参画は23大学4高専1専修学校で、公募の基盤はJSTの「大学発新産業創出基金事業」です。各地の大学・高専に起業支援窓口があり、「北海道大学」内の拠点「HX」(エイチクロス)を中心に連携しています。重点領域は、アグリ・フード、環境・エネルギー、創薬・ヘルスケアの分野に定められています。
2025年度の公募は、上場やM&Aを志向する「ユニコーン型」と、社会課題の解決と経済成長の両立を志向する「ゼブラ型」に分かれていました。応用研究の「ステップ1」は、直接経費の上限がユニコーン型500万円、ゼブラ型300万円で、期間は最長1年間です。「ステップ2」はユニコーン型が上限6,000万円で最長3年間、ゼブラ型が上限500万円で最長1年間でした。「ステップ1」の採択者には、研究開発費とは別に、国内の特許出願費用などに最大90万円が割り当てられます。修士・博士課程の学生も「ステップ1」の研究代表者として応募できます。
採択チームは、起業支援人材、事業化推進機関、学内の知財担当部門、技術移転機関、VCやアクセラレーターの伴走支援を受けます。支援の内容は、顧客課題の把握、初期顧客の獲得、試作品の作成、知財の確保から共同創業者の探索まで具体的です。経営人材の面では、「北海道大学」が客員起業家(EIR)の規程を整備し、首都圏では研究者と経営者候補のマッチングイベントも開かれています。事業の成果は、VCや事業会社とのマッチングの機会となる「Demo Day」などで発表します。
ここでは、2025年度の採択課題から8件を選びました。公式の一覧とは分類が異なり、本記事では編集部が課題名と研究シーズ集をもとに、食と環境、医療・ヘルスケア、素材・インフラの分野に分けています。各課題について、研究テーマと採択枠を表で示し、研究の狙いを本文で説明します。
| 研究テーマ | 植物が作り出す二次代謝物の量をコントロールする方法↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北見工業大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP2 ユニコーン型 |
「オホーツク地域」は昭和初期の最盛期に、ハッカのメントールで世界供給量の約70%を占めました。現在は農家の高齢化と後継者不足が深刻で、地元の生産者からは香料作物の生産を続けられなくなるという声が上がっています。「北見工業大学」の研究チームは、遺伝子組換えを行わずに植物の香り成分を増やす技術を開発しています。収穫直前に安価で安全な脂肪酸などの薬剤を葉面へ散布する方法で、特別な設備や追加工程を必要としません。知的財産のライセンスを軸に、オホーツクを香料メーカーが注目する産地へ育てる構想です。
| 研究テーマ | 災害レジリエンスと水素社会を支える白金フリー燃料電池触媒の事業化↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北海道大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP2 ユニコーン型 |
災害停電時の通信や避難所の照明には、72時間以上連続で稼働するバックアップ電源が欠かせません。しかし、ディーゼル発電機や蓄電池、白金触媒の燃料電池には、燃料補給の手間や騒音、高い導入コストといった負担が伴います。この負担を減らすため、「北海道大学」の研究チームが開発しているのが、白金を使わない「窒素ドープカーボン触媒」(炭素に窒素原子を組み込んだ触媒)です。メタノールに強い触媒の特性を生かせば高濃度の燃料を利用でき、周辺機器の削減と長時間運転につながります。まず民間企業で導入実績を積み、運用データを携えて自治体の市場へ展開する計画です。
| 研究テーマ | スマホ連携型ポータブル水質セーフティ細菌検査キット開発↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北海道大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP1 ユニコーン型 |
世界では約22億人が安全な飲み水を得られない環境にあり、水に関連する疾患で年間約84万人が亡くなっています。細菌検査に時間がかかることも、水の安全を確かめる際の壁でした。「北海道大学」の研究チームのキットは、大腸菌が持つ酵素に反応して光る「蛍光プローブ」を水に混ぜるだけで細菌数を測定します。24時間以上かかっていた検査は、最短1時間以内に短縮されました。費用は1検体200円程度で、片手サイズの装置をスマートフォンと連携させます。「スリランカ」のコロンボ市やゴール市で実証実験を進めており、2026年2月には「株式会社LMusubi」が起業しました。
| 研究テーマ | 難治性間質性肺炎に対するIL-6アンプを標的にした非侵襲ニューロモデュレーション療法の確立↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北海道大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP2 ユニコーン型 |
進行性の線維化を伴う「間質性肺炎」は、抗線維化薬などの標準治療を行っても肺機能の低下を抑えにくい病気です。「北海道大学」の研究チームは、慢性炎症を増幅する仕組み「IL-6アンプ」に着目しました。耳の皮膚の上から微弱な電気刺激を与える「耳介経皮的迷走神経刺激」(taVNS)で、この仕組みを抑え、炎症と線維化の悪循環を断つ治療法を開発しています。標準治療下でも悪化を続けていた患者に追加したところ、肺機能の改善を示すデータが得られました。今後は実施拠点を広げ、100例、200例規模の医師主導治験を目指します。
| 研究テーマ | 認知症診断支援のためのアミロイドPET定量化ソフトの開発↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北海道大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP1 ユニコーン型 |
「アルツハイマー病」の新薬を適切に投与するには、脳内のアミロイド蓄積を正確に評価する必要があります。現在の診断は専門医の視覚評価が中心で、判定が難しい症例では読影者の間で結果がばらつき、判定できる専門医も不足しています。そこで「北海道大学」の研究チームは、蓄積量を0〜100の数値で示す「センチロイドスケール」や、AIによる仮想MRIの生成などを統合した解析ソフトの開発に取り組みます。客観的な判定を1分以内で行えるようにし、認証と薬事承認を段階的に取得して保険診療に組み込む計画です。全国100〜150か所の実施施設を想定し、月額サブスクリプションや従量課金制を検討しています。
| 研究テーマ | レザバーコンピューティングを用いた指角度・指関節トルクを推定可能な筋電義手制御システムの開発↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 公立はこだて未来大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP1 ユニコーン型 |
実用化されている筋電義手の多くは、握る、開くといった単純な動作が中心です。指ごとの細かな意図を読み取る従来のAI技術は計算量が大きく、義手に内蔵して動かすことが困難でした。「公立はこだて未来大学」の研究チームは、高速学習が可能な「レザバーコンピューティング」を小型マイコンに実装し、900秒かかっていた学習を16秒に短縮しました。指の角度と力を別々に推定することで、紙コップをそっと掴むような力加減に近づけています。身体の変化が大きい子どもと高齢者に届けることを掲げ、実証実験を重ねて製品化と資金調達へ進む計画です。
| 研究テーマ | 微生物セルロースを原料とするマイクロ繊維およびシート材の開発↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 北海道大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP2 ゼブラ型 |
自動車部品に使うガラス繊維や炭素繊維は製造時のエネルギー消費が大きく、石油由来の人工皮革はリサイクルが難しい素材です。代替素材として「北海道大学」の研究チームが取り組むのが、砂糖の製造で生じる副産物「てん菜糖蜜」を原料とする「バクテリアセルロースナノファイバー」(微生物が作る微細な繊維)の発酵生産。ゲノム編集で酢酸菌の代謝を最適化し、糖からの変換効率を従来の約10%から最大29%まで高めました。この繊維を高強度のマイクロファイバーや機能性シートへ加工する技術も開発しています。複数の自動車部品メーカーやアパレルメーカーがサンプル評価を進めており、キログラム単位の安定供給に向けた量産技術の確立が課題です。
| 研究テーマ | レーザ援用超音波探傷イメージングを用いた遠隔インフラ診断↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 室蘭工業大学 |
| 採択枠 | 2025年度 STEP1 ユニコーン型 |
橋やプラントの老朽化が進む中、鉄骨内部の亀裂など表面から見えない欠陥の発見には超音波検査が使われています。ただ、人がジェルを塗りながら計測するため手間がかかり、高所では危険も伴います。「室蘭工業大学」の研究チームは、構造物の表面に生じる微細な振動をレーザー光で検出し、ジェルを使わずに超音波を計測する技術を開発しました。測定器を小型化してドローンに搭載すれば、遠隔から診断できます。計測間隔を1メートルから10センチへ高密度にしながら、丸1週間かかっていた橋の検査を2〜3日程度に短縮できる見込みです。まず金属製の鉄骨やプラント配管の点検から導入し、5年以内の実証と実用化を目標に置いています。
「HSFC」の強みは、広大な北海道に点在する大学や高専が窓口と拠点でつながり、所在地を問わず起業支援を受けられる点です。採択チームは知財、資本、事業の専門人材の伴走を受けながら、顧客の課題を確かめ、試作品と事業計画を磨きます。こうした支援の中から、「大熊ダイヤモンドデバイス株式会社」や「株式会社LMusubi」のように起業へ進んだ例も生まれました。ユニコーン型とゼブラ型に分かれ、研究の段階に応じたステップもあるため、目指す事業の形に合わせて挑戦できます。北海道の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「HSFC」への参加状況と公募の時期を確認してみてください。
作成:FrontJournal編集部
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