フォワードサイエンスラボラトリ「水中のトリチウム分離」を研究|酸化マンガンの膜と試験水、回収容器を表したイラスト

株式会社フォワードサイエンスラボラトリ

フォワードサイエンスラボラトリ「水中のトリチウム分離」を研究|研究領域=水中の極低濃度の・トリチウムを分離/強み=酸化マンガンの・結晶に取り込む/将来性=触媒の供給から・浄水プラントへ

企業紹介|株式会社フォワードサイエンスラボラトリとは?

水に混ざった放射性物質のトリチウムを、酸化マンガンの結晶に取り込んで水から分ける技術として研究される「水中のトリチウム分離」。株式会社フォワードサイエンスラボラトリは、その社会実装を目指す、京都大学発の環境系ディープテック企業です。酸化マンガンの機能性触媒(特定の反応を促す材料)の製造販売と、触媒技術のコンサルティングを、事業の柱に掲げています。

キーワード「水中のトリチウム分離」

トリチウムは、水素の同位体(中性子の数が異なる水素原子)で、放射性を持ちます。水分子の水素と入れ替わった水(HTO)として、水中に存在します。「水中のトリチウム分離」は、水に含まれるトリチウムだけを、水から選んで取り出す技術です。同社の研究領域は室温の水から極低濃度のトリチウムを酸化マンガンで選択的に分離する技術の開発です。

市場課題|トリチウムは水と似ていて、極低濃度の水から取り出しにくい

現状のトリチウム分離の課題|現状は、水と性質が近く極低濃度で分離しにくい|水と性質が近く・区別しにくい/極低濃度で・分離が困難とされる

トリチウムは水と似て分けにくい

トリチウムを含む水は、普通の水と性質が近く、水から区別して取り出すことが容易ではありません。トリチウムは水分子の水素と入れ替わった形で水に含まれ、物理化学的な性質が水と似ているためです。この水は、大気中にも水中にも存在します。

極低濃度で分離が困難とされる

濃度が極めて低い水からトリチウムを分けることは、いっそう難しい作業です。同社は、1mLあたり数百〜1万ベクレル(Bq:放射能の強さの単位)の範囲を、極低濃度域と位置づけています。1mLあたり1万ベクレル以下では、分離は不可能とさえ考えられてきた、というのが同社の説明です。

他にも、同社の実験では、粉末での濃度の戻り、アルカリ試薬の添加で生じるスラッジ(沈殿物)、長時間運転での濃度低下速度の低下、といった課題があるといわれています。塩化リチウムの少量添加で、スラッジの発生は抑えられたとされています。

FrontJournalの解説
  • 同位体原子番号が同じで、中性子の数が異なる原子のことである。水素には、中性子を持たない軽水素、1つ持つ重水素、2つ持つトリチウムがある。

フォワードサイエンスラボラトリの強み|「水中のトリチウム分離」を研究

フォワードサイエンスラボラトリが「水中のトリチウム分離」を研究|これまでに、約200mLで濃度低下を実現|トリチウムを・結晶に取り込む/膜と回収で・濃度が下がり続けた

トリチウムを結晶に取り込む

従来は、1mLあたり1万ベクレル以下の極低濃度の水から、トリチウムを分けることは困難と考えられてきました。

同社が用いるのは、水素イオンを含ませたスピネル型酸化マンガン(原子が決まった並びで結晶を作る酸化マンガン)です。水中のトリチウムを含む水酸化物イオン(OHの水素がトリチウムに替わったイオン。OT-)は、酸化マンガンの表面で分解され、トリチウムイオンとして結晶に取り込まれると、同社は考察しています。水素を含むOH-よりも、トリチウムを含むOT-が優先して反応すると考えられ、極低濃度でもトリチウムを選んで分離できる点が特徴です。室温の水から、トリチウムを減らせます。

膜と回収で継続的に濃度を低下

粉末の酸化マンガンをトリチウムを含む試験水に混ぜた実験では、混ぜてから約15分で初期濃度の約30%が低下しましたが、40分ほどで初期濃度近くまで戻りました。

酸化マンガンを膜状に焼き固めた反応膜(取り込む膜)は、水に触れる面の裏側から希酸(薄い酸)で水素イオンを供給する構造です。背面にはナフィオン(水素イオンを通す高分子)を塗って補強し、希酸の量は最少限で済みます。取り込んだ分は水分子として蒸散(気体として逃げること)させ、キャッチャー(水やシリカゲルなど)に回収します。約200mLの試験水(初期濃度3863.8Bq/mL)では、120時間後も濃度低下が続き、減った分の約88.8%が回収されました。継続的に分離・回収できるようになった、との説明です。

FrontJournalの解説
  • スピネル型酸化マンガンの結晶構造の一種で、マンガンと酸素の原子が規則的に並ぶ構造である。結晶内に水素イオンやリチウムイオンを出し入れでき、電池材料としても研究されてきた。

「水中のトリチウム分離」の未来|触媒の供給から浄水プラントへ

水中のトリチウム分離が変える未来|触媒の供給から浄水プラントへ|結晶構造を指定し・触媒を受注供給/顧客の条件に合わせ・設計・施工が可能/多段処理の・プラント化を目指す

触媒を結晶構造から受注供給

同社は、顧客が酸化マンガンの結晶構造・粒径・原料を指定する、受注制作の方式で、機能性触媒を供給しています。酸化マンガンは、結晶構造の違いで機能が変わる材料です。用途には、リチウム空気電池の正極、トリチウムの分離、メタンの改質による水素製造、燃料電池のアノード(負極)が挙げられています。目的に合わせて結晶構造を指定できるため、用途ごとに材料を使い分けられます。

顧客の条件に合わせた設計・施工

反応膜の設計を変えることで、トリチウムの分離効率を高められるとの説明です。処理期間は、浄水プラント(トリチウムを含む水を処理する設備)の規模に応じて短縮できるとされています。設計に必要な情報は、処理する水の量と質(他の核種(放射性物質の種類)の濃度、油や界面活性剤の濃度)と期限です。これらが示されれば、費用対効果を考慮した浄水プラントの設計・施工が可能になると、同社は説明しています。

多段処理のプラント化を目指す

構想する浄水プラントは、濃度に応じて直列に並べた処理タンクで、トリチウムの濃度を段階的に下げる多段の方式です。濃度が高い水から順に処理し、各タンクで回収したトリチウムは、濃度に応じて保管や再処理に回します。トリチウム以外の核種は、浮選法(少量の薬品で核種を気泡に吸着させて浮かせる除去手法)で、あらかじめ除去する構想です。多段処理を、実際の水処理で使えるプラントに仕上げることを目指しています。

会社概要|フォワードサイエンスラボラトリの事業内容・設立背景

京都大学発の研究を事業化

株式会社フォワードサイエンスラボラトリの設立は、2013年4月です。同社は、京都大学発の環境浄化コンサルタントとして発足しました。代表取締役・技術顧問の古屋仲秀樹氏は、1998年に秋田大学で工学博士の学位を取得しました。2004年から2007年まで研究機関の講師、2007年から2012年まで京都大学の准教授を務めています。

京都大学が研究成果を公表

2015年4月、京都大学は、古屋仲氏らの研究グループが、水素化した酸化マンガンが室温の水からトリチウムを分離する吸収剤として機能することを発見したと公表しました。この成果は、論文として学術誌『Separation Science and Technology』に掲載されています。著者は古屋仲氏と宮武秀男氏で、2015年の50巻14号に収録されています。

事業の柱と設立資本金

同社の事業は、機能性触媒の製造販売、触媒技術のコンサルティング、科学技術情報サービス、各種講演活動です。機能性触媒は、結晶構造や粒径、原料の指定に応じて製造する受注制作の方式です。触媒技術のコンサルティングは、酸化マンガンの結晶構造を制御して機能を引き出す研究を土台にしています。設立時の資本金は500万円です。

会社情報

会社名株式会社フォワードサイエンスラボラトリ(FORWARD SCIENCE LABORATORY LTD)
所在地大分県大分市大字旦野原900番地の103(登記上の本店)
設立2013年4月
代表代表取締役・技術顧問 古屋仲秀樹
資本金500万円(設立時)
事業機能性触媒の製造販売、触媒技術のコンサルティング、科学技術情報サービス、各種講演活動
技術領域酸化マンガン触媒、水中のトリチウム分離、環境浄化
URLhttp://www.fslabo.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

放射性物質のトリチウムは、水と性質が似ているため、水から分けることが難しい物質です。酸化マンガンの結晶に取り込ませて室温の水から分ける同社の取り組みは、材料の結晶構造を調べ、制御する研究の積み重ねから生まれた技術だと感じました。酸化マンガンは、結晶構造の違いで機能が変わる材料です。

同社は、水中のトリチウム分離のほかに、結晶構造を指定した触媒の受注制作も手がけており、1つの材料から複数の用途を広げる事業の組み立てが特徴といえます。水処理のプラントは構想の段階で、将来性は実証の積み重ね次第です。一方、触媒の供給はすでに受注制作の形です。京都大学の研究から生まれた触媒の技術が、水処理のプラントとして形になる日を、楽しみに待ちたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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