ライラックファーマ株式会社(Lilac pharma)|「iLiNP」(流路デバイス)を研究

ライラックファーマ株式会社(Lilac pharma)

ライラックファーマ「iLiNP(脂質ナノ粒子製造)」を研究|研究領域=脂質ナノ粒子を連続で製造する/強み=粒径を精密に制御できる/将来性=医薬品と化粧品の製造を支える

企業紹介|ライラックファーマ株式会社とは?

医薬品の成分を目的の細胞まで届ける技術として、注目を集める「脂質ナノ粒子」。ライラックファーマは、その「脂質ナノ粒子」の粒径制御に取り組む、北海道大学発の創薬系ディープテック企業です。ナノ粒子製剤の受託開発と製造装置等を、製薬企業や化粧品メーカーへ提供しています。

キーワード「iLiNP」(マイクロ流路デバイス)

「iLiNP」は、脂質の溶液と水を細い流路で合流させ、脂質ナノ粒子を連続して製造する装置です。特徴は、原料の流速(流す速さ)を変えるだけで、粒径を狙った範囲に均一化できる点にあります。医薬品の製剤開発や化粧品素材の製造では、粒径の均一なナノ粒子をその場で得られます。

市場課題|脂質ナノ粒子の製造の難しさ

現状の脂質ナノ粒子の課題|現状は、粒径のばらつきで量産が進みにくい/粒径が不均一で品質を保ちにくい/量産のたびに製造条件を作り直す

粒径が不均一で品質管理が難しい

脂質ナノ粒子の品質を左右するのは、粒径の均一性。粒径によって体内で有効成分が届く場所や量が変わるため、新型コロナウイルスのワクチンにも使われる、有効成分を運ぶ材料には、設計どおりの粒径が求められます。粒径にばらつきが残るほど成分の届き方に差が生まれ、必要な品質を保ちにくくなります

試作から量産まで時間を要する

新しい製剤は、試作で良い結果が出ても、量産まで時間を要します。製造の規模が変わると粒子のでき方も変わるため、流速や脂質の濃度といった製造条件を、一から設定し直す必要があるからです。開発が長引き、患者に届く時期も遅くなります

他にも、有効成分を包み込む封入効率(有効成分を包み込めた割合)の確保、脂質の組成を変えるたびに必要となる条件出し(最適な製造条件を探す作業)の手間、製造記録を残す品質管理の体制づくり、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 脂質ナノ粒子脂質でできた微粒子。直径は数十から数百ナノメートル程度。有効成分を包んで目的の細胞まで運ぶ材料として、ワクチンや核酸医薬に用いられる。
  • 粒径粒子1つあたりの直径。脂質ナノ粒子では、この値によって体内で届く臓器や組織が変わるため、製剤の設計を左右する。

ライラックファーマの強み|粒径の精密制御

ライラックファーマが「iLiNP(脂質ナノ粒子製造)」を開発|今後は、流速の調整で粒径の制御が可能に/ジグザグ流路で粒径を細かく指定可能/流路デバイスを並べて量産可能に

ジグザグ流路で粒径を指定できる

従来のバッチ法(容器内で一括して混合する方法)では、混ざり方が場所によって変わるため、仕上がる粒径が回ごとにばらつきやすくなります。

「iLiNP」は、脂質の溶液と水を合流させ、分子の段階から粒子を組み上げるボトムアップ式のデバイスです。独自のジグザグ流路の中では混ざり方が一定に保たれるため、同じ条件なら同じ粒径の粒子が繰り返し得られます。流速が遅いときは、脂質が自然に集まる境界が長く保たれるため粒子は大きくなります。反対に流速を上げると、混合が激しくなって希釈(濃度が薄まること)が速く進み、粒子は小さくなる仕組みです。リン脂質の一種であるPOPCを用いた検証では、10ナノメートル刻みで粒径を調整できたと報告されています。

流路デバイスを並べて量産可能に

流路を用いる製法では、1台あたりの生産量が限られる点が課題でした。

後継のデバイス「iLiNP-RoA」は、2つの流路が立体交差を繰り返す形状で、原料を段階的に混ぜ合わせる設計です。流路に狭窄部(流れが細くなる箇所)が無いため原料が詰まりにくく、流速を上げても粒径が小さくなりすぎません。生産量を増やすときは、デバイスを積み重ねるか並べて数を増やします。製造条件を改めて検討する必要がないため、試作で決めた粒径のまま生産量を引き上げられる点も利点です。この積層と並列による増産は、2023年の学術誌で報告されています。

FrontJournalの解説
  • マイクロ流路デバイス幅が数十から数百マイクロメートルの細い流路を刻んだ部品。少量の液体を精密に混ぜ合わせられるため、粒子の製造や分析に用いられる。
  • ボトムアップ式原料を分子の段階から組み上げて粒子を作る方法。粗い塊を砕くトップダウン式に対し、粒径の均一な粒子を得やすい。

脂質ナノ粒子の未来|医薬品と化粧品へ

精密な脂質ナノ粒子が変える未来|化粧品と医薬品で実用化が進む/化粧品素材にすでに使われる/医薬品向けの生産装置を販売/核酸医薬の実用化を目指す

化粧品素材として実用化

粒径を均一化したナノ粒子は、化粧品の素材としてすでに使われています。同社と株式会社日本触媒が共同で開発した「iLiNPSOME」は、1ミリリットルあたりおよそ200兆個のリン脂質ナノ粒子を含む素材です。平均粒径は250ナノメートル以下で、安定性を高めるための増粘剤も含みません。50℃で1か月置く加速試験でも安定を保ち、室温で1年以上の保管が可能とされています。

医薬品向けの生産装置を販売

GMP基準に準拠した生産装置も登場しました。信越化学工業と北海道大学が開発した装置で、「iLiNP」を部品として組み込んでいます。信越化学工業が2025年4月に生産を開始し、販売はライラックファーマが担います。少量多品種のナノ医薬品から大量生産まで1台で対応するとされ、設置面積はおよそ1平方メートルです。

核酸医薬の実用化を目指す

同社が目指すのは、核酸医薬(遺伝子の働きを調整する薬)をはじめとするナノ医薬品の実用化を支えることです。核酸医薬は、従来の医薬品では治療が難しかった疾患への新たな手段です。核酸医薬を効かせるには目的の細胞まで運ぶ技術が欠かせず、粒径を細かく制御できれば、届けたい臓器や組織に応じた設計を試せます。受託開発と装置提供を通じて、製薬企業や研究機関の開発を支えます。

FrontJournalの解説
  • GMP基準医薬品の製造と品質管理に関する国の基準。原料の管理から製造記録の保存までを定め、医薬品の製造には適合が求められる。
  • 核酸医薬DNAやRNAといった核酸を成分とする医薬品。遺伝子の働きに直接作用し、従来は治療が難しかった疾患への応用が進む。
  • 加速試験通常より高い温度などの厳しい条件に置き、品質が時間とともにどう変化するかを短期間で調べる試験。保存できる期間の見積もりに用いられる。
  • リン脂質細胞膜を構成する脂質の一種。水になじむ部分と油になじむ部分を併せ持ち、水中で自然に集まって膜状の構造をつくる。

会社概要|ライラックファーマの事業内容

北海道大学の研究から創業

ライラックファーマ株式会社は、2016年4月に札幌市で設立されました。「iLiNP」の開発者は、北海道大学大学院工学研究院の渡慶次学教授と真栄城正寿氏らです。同社は北海道大学から特許の独占実施許諾(その特許を単独で使える権利)を受け、2016年6月には「北大発ベンチャー」に認定されました。

受賞と採択で事業を拡大

創業の前後から、受賞と採択が事業を後押ししました。2016年3月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「スタートアップイノベーター」に採択され、同月に代表の須佐氏が「SAPPOROベンチャーグランプリ2015」で大賞を受けています。事業会社との連携も進み、2019年3月には日本触媒と化粧品用素材事業の契約を結びました。

日本触媒のグループへ

2024年12月9日付で、株式会社日本触媒が全株式を取得しました。両社は2019年から共同研究を続け、複数の化粧品用リポソーム(脂質でできた袋状の微粒子)を開発してきました。両社は、開発の効率向上と安定供給の体制づくりを進めるねらいがあるとしています。2025年2月には資本金を4515万円へ増やしています。事業は、ナノ粒子製剤の試作と受託開発、製造装置の販売、化粧品素材の供給等です。

会社情報

会社名ライラックファーマ株式会社(Lilac pharma Inc.)
所在地北海道札幌市北区北21条西12丁目 北海道大学構内 北海道産学官協働センター Cルーム
設立2016年4月18日
代表代表取締役 須佐 太樹。取締役 万木 啓嗣、宮井 孝。監査役 堀内 寧斗。
資本金4515万円(2025年2月時点)
株主株式会社日本触媒(2024年12月9日付で全株式を取得)
連携日本触媒(2019年3月に化粧品用素材事業の契約、化粧品素材「iLiNPSOME」を共同開発)。信越化学工業・北海道大学(GMP基準に準拠する脂質ナノ粒子生産装置を共同開発。2025年4月に生産開始、販売はライラックファーマ)。
技術領域マイクロ流路デバイス「iLiNP」(日本特許6942376号ほか。権利者は北海道大学、同社が独占実施許諾)。後継「iLiNP-RoA」。脂質ナノ粒子・リポソーム・ミセルの受託製造。化粧品素材「iLiNPSOME」シリーズ。
採択北大発ベンチャー認定(2016年6月)。NEDO「スタートアップイノベーター」採択(2016年3月)。SAPPOROベンチャーグランプリ2015 大賞(2016年3月)。
論文ACS Omega 2018, 3, 5044-5051。Applied Materials Today 31 (2023) 101754。
URLhttps://www.lilacpharma.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

脂質ナノ粒子という言葉が広く知られたのは、新型コロナウイルスのワクチンがきっかけでした。有効成分を包んで運ぶ材料の良し悪しが、医薬品そのものの成否を左右します。ライラックファーマが向き合ってきたのは、脂質ナノ粒子を狙った粒径で、同じ品質で作り続けるという地道な課題です。

この技術の面白さは、粒径を混ぜ方の設計で決めていることにあります。流速を変えるだけで粒径が決まる設計なら、条件さえ書き留めておけば、誰が作っても同じ結果へ近づけるはずです。単なる製造装置ではなく、再現性そのものを提供している点に、この会社の価値があります。

札幌の大学構内で生まれた流路が、世界の製薬現場へ静かに広がろうとしています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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