サイエンスインパクト「宇宙線ラジオグラフィー」を研究|宇宙線で構造物の内部を透視するイラスト

株式会社サイエンスインパクト

サイエンスインパクト「宇宙線ラジオグラフィー」を研究|研究領域=宇宙線で・構造物を透視/強み=電力不要の・検出器で測定/将来性=インフラ点検を・目指す

企業紹介|株式会社サイエンスインパクトとは?

宇宙から降り注ぐ宇宙線を使い、橋やトンネル、溶鉱炉といった大規模構造物の内部を透視する技術「宇宙線ラジオグラフィー」。株式会社サイエンスインパクトは、その社会実装を目指す、名古屋大学発のディープテック企業です。「原子核乾板」(宇宙線の飛跡を記録する特殊な写真フィルム)を用いた測定サービスの依頼を、民間企業や自治体などから受け付けています。

キーワード「宇宙線ラジオグラフィー」

「宇宙線ラジオグラフィー」は、地上に届く宇宙線の大半を占めるμ粒子(ミューオン)が物質を通り抜ける数の違いから、内部の像を得る技術です。厚い方向ほど数が減るため、レントゲン撮影と同じく、密度分布を読み取れます。同社は、電力が不要な検出器「原子核乾板」を使い、数メートルから数百メートルの対象を調べます。

市場課題|大規模構造物は、厚さと設置条件のせいで内部を調べにくい

現状の構造物検査の課題|現状は、X線の限界と設置条件で内部を調べにくい|厚い構造物の・内部を調べにくい/検出器を置ける・現場が限られる

厚い構造物の内部を調べにくい

橋やトンネルなどの大規模構造物は、内部を壊さずに調べる非破壊検査(対象を壊さずに内部の状態を調べる検査)の手法が、厚さによって限られます。X線では、厚い鉄を通して内部を見ることが難しいとされています。厚さが数メートルから数百メートルの対象は、従来の非破壊検査では調べることが難しい範囲です。

検出器を置ける現場が限られる

大規模構造物の内部調査では、検出器を置く現場の条件が、使える手法を左右します。電源のない屋外や狭い空間にも置ける検出器が、現場では求められます。この制約が続くと、調べられない部分が残ることが、課題です。

他にも、測定に要する期間、対象ごとの設置計画、検査結果の読み取り、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 非破壊検査構造物や材料を壊さずに、内部の傷や空洞、厚みの変化などを調べる検査である。X線などを使う方法があり、橋やトンネル、製鉄設備の維持管理で使われる。

サイエンスインパクトの強み|「宇宙線ラジオグラフィー」を研究

サイエンスインパクトが「宇宙線ラジオグラフィー」を研究|現在は、宇宙線の測定で内部の透視像を提供|数百メートルの・厚みまで透視/電力不要の検出器を・現場に設置

数百メートルの厚みまで透視

X線は透過力が限られ、厚い鉄の内部の撮影が難しくなります。

同社の宇宙線ラジオグラフィーは、宇宙線に含まれるμ粒子が、物質を厚く通るほど減る性質を使います。検査対象の下や斜め下に置いた検出器が、通り抜けたμ粒子の方向と数を記録し、物質が多い方向ほど数が少ない分布から、透視像を得る仕組みです。μ粒子はX線より透過力が高く、同社を含む研究グループは、製鉄所の溶鉱炉の内部調査や、トンネル上部の地盤調査に使ってきました。そのため、数メートルから数百メートルの構造物の内部を、壊さずに調べる検査が可能です。

電力不要の検出器を現場に設置

検出器には、設置する場所の電源や広さへの条件が付きます。

同社が使う「原子核乾板」は、宇宙線の飛跡を記録する特殊な写真フィルムで、電力が要りません。軽量でコンパクトなため、両面テープで壁面に貼り付けたり、鉄板で挟んで配管にねじ止めしたりして設置できます。ラミネートパックされていて、雨風にさらされる屋外にも置けます。通常は設置後に2週間から4週間置いておくだけで、その間の作業員の配置は要りません。そのため、電源のない現場や狭い空間でも、測定できるようになります。

FrontJournalの解説
  • μ粒子宇宙線が大気中の原子核と衝突して生じた粒子の崩壊でできる素粒子で、ミューオンとも呼ぶ。透過力が高く、地上に届く宇宙線の大半を占める。物質を通る間にエネルギーを失うため、厚い部分ほど通り抜ける数が減る。

宇宙線ラジオグラフィーの未来|インフラ点検から文化財の調査まで

宇宙線ラジオグラフィーが変える未来|社会インフラを壊さず点検する姿を目指す|トンネルと溶鉱炉で・調査実績/万治の石仏で・測定を実施/大規模インフラの・点検を目指す

トンネルと溶鉱炉で調査実績

同社は、トンネルの上部地盤や製鉄所の溶鉱炉の調査に、宇宙線ラジオグラフィーを使ってきました。鹿児島県の北薩トンネルと、2023年に調査した北海道の穂別トンネルの上部地盤を、川崎地質と同社を含む研究グループが調べています。神戸製鋼所の加古川製鉄所では、2016年から2018年にかけて、溶鉱炉の内部調査が行われました。耐火壁の残りの厚さの測定も、掘削せずに行われました。

万治の石仏で測定を実施

2025年5月に、長野県下諏訪町の万治の石仏を、宇宙線ラジオグラフィーで透視するプロジェクトが始まりました。7月上旬まで原子核乾板を設置して宇宙線を測定する、下諏訪町観光協会と同社の取り組みでした。同社は、古墳や遺跡、石像、木像などの考古学分野も、測定の対象に挙げています。壊さずに内部を調べられれば、文化財を傷つけない調査の選択肢が増えます。

大規模インフラの点検を目指す

同社は、宇宙線ラジオグラフィーの技術を、より広く提供することを目指します。橋梁や堤防、岩盤などの土木分野から、地層や火山の地質学分野までが、測定の対象例です。これまで民間企業が使うには大学との共同研究が必要でしたが、同社は共同研究契約を結ばずに依頼できる測定サービスとして提供しています。壊さずに内部を把握できる検査が広がれば、社会インフラの維持管理に、新たな選択肢が加わります。

会社概要|2010年設立の名古屋大学発企業サイエンスインパクト

システム開発と測定サービス

株式会社サイエンスインパクトは、システム開発と宇宙線ラジオグラフィーの測定サービスを手がける、2010年1月設立の名古屋大学発の企業です。代表取締役の成田浩司氏は、2003年に名古屋大学大学院理学研究科(素粒子宇宙物理学専攻)で博士(理学)を取得し、弁理士の資格も持ちます。同社は、知的財産のポータルサイトや、防災情報の自動放送システムなどの開発を手がけてきました。2023年4月には、宇宙線ラジオグラフィーの研究開発と測定サービスの拠点として、名古屋ラボを開設しました。

採択・連携

宇宙線ラジオグラフィーの開発は、2016年に科学技術振興機構(JST)の先端計測分析技術・機器開発プログラムに採択されました。名古屋大学、川崎地質、富士フイルム、同社が開発に取り組みました。中間評価(2017年度)と事後評価(2021年度)は、いずれもS評価です。2026年3月には、日本経済団体連合会(経団連)のピッチイベント「Keidanren Innovation Crossing(KIX)」で、名古屋大学発の企業として技術を紹介しました。

測定サービスの流れ

測定サービスは、お問い合わせと初期検討から始まり、原子核乾板の設置位置と設置期間の検討、費用の見積もり、設置、回収、現像と飛跡の読み出しを経て、透過像を結果として提供する流れです。同社は、これらの工程をワンストップで引き受けます。測定後に精度を高めたい研究課題が生まれたときは、同社または名古屋大学との共同研究として、研究を続けることもできます。

会社情報

会社名株式会社サイエンスインパクト
所在地本社=東京都江東区青海2-7-4 the SOHO 812/信州オフィス=長野県塩尻市大門一番町15-3-2/名古屋ラボ=名古屋市千種区千種2-22-8 名古屋医工連携インキュベータ402
設立2010年1月22日
代表代表取締役 成田浩司
事業原子核乾板を用いた宇宙線ラジオグラフィーの測定サービス・技術提供、知財ポータルサイト「IP Force」、機密情報暗号化送信システム「ExFile」、防災情報自動放送システム「ラジアラート」、システム開発
技術領域非破壊検査(宇宙線ラジオグラフィー)
連携名古屋大学(発祥)。個別の案件での共同相手=川崎地質、富士フイルム、神戸製鋼所、下諏訪町観光協会
採択科学技術振興機構(JST)先端計測分析技術・機器開発プログラム(2016年)。東京都「世界発信コンペティション」特別賞(2019年・ラジアラート)
URLhttps://science-impact.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

サイエンスインパクトの宇宙線ラジオグラフィーは、電源のない現場に原子核乾板を置いて回収し、記録された飛跡から、厚い構造物の内部を読み取る技術です。X線では届かない厚さの対象を、壊さずに調べられる点に、この技術の価値があります。同じ名古屋大学発では、秘密計算で機密データを分析する株式会社Acompanyも、同じ経団連のピッチイベントで技術を紹介しました。大学の研究成果が、さまざまな分野の課題へ向かう動きです。

同社の特徴は、大学との共同研究が必要だった技術を、共同研究契約なしで頼める測定サービスにした点です。技術を使える人の範囲を広げる姿勢が伝わってきます。測定後に研究課題が生まれたときは、同社または名古屋大学との共同研究へ移れる点も、使い始める際の安心につながります。

測定できる対象が、橋やトンネル、文化財へと広がることを期待します。名古屋大学から生まれたほかの企業は、名古屋のスタートアップ10選で紹介しています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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