【GAPファンド・東北】MASPの採択課題と研究テーマ
「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。東北と新潟では「MASP(みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム)」が「みちのくGAPファンド」を運営し、2026年度は45件を採択しました。本記事では、このうち8件を紹介します。
「GAPファンド」は、大学の研究者や学生が起業する前に、研究開発費の資金援助や人材マッチングなどの支援を受けられる、公的プログラムです。JST(科学技術振興機構)が中心となり、全国の地域組織が公募と審査を担います。東北と新潟では「MASP(みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム)」が「みちのくGAPファンド」を運営し、2026年度は45件を採択しました。本記事では、このうち8件を紹介します。
「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費(科学研究費助成事業)」や、設立後の企業に投資する「VC(投資会社等)」とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。
GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。
「MASP」は、「東北大学」を主幹機関とし、東北と新潟の大学・高専が共同機関として参画する起業支援のプラットフォームです。「みちのくGAPファンド」は、「JST」の「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」の一環として実施されています。令和8年度の公募では、「弘前大学」「新潟大学」「鶴岡工業高等専門学校」など25の大学・高専に所属する教職員と、研究室の修士・博士課程の学生が応募の対象になりました。採択者は支援期間中に、想定ユーザーへのヒアリング、共同創業者の探索、試作品の製作と実証を進めます。あわせて、セミナーやワークショップ、事業性検証とピッチの壁打ちメンタリング、人材マッチング、技術移転機関やVCによる個別相談会といった伴走支援を受けられます。
令和8年度の公募によると、「STEP1」の上限は「モノづくり・Deep-Tech枠」と「医療系・創薬枠」が1件あたり500万円、「ソーシャル・イノベーション枠」が1件あたり200万円でした。「STEP2」は1件あたりの上限が6,000万円に広がり、モノづくり・Deep-Techと医療系・創薬の枠で募集されました。「STEP2」の申請にはVCなどとの共同申請が必要で、学生が研究代表者になれるのは「STEP1」のみです。
ここでは、2026年度の採択課題から8件を選びました。公式の一覧は採択枠ごとに分かれているため、本記事では編集部が課題名と概要をもとに、医療・創薬、宇宙・インフラ、素材・食・介護の分野に分けています。各課題について、研究テーマと採択枠を表で示し、研究の狙いを本文で説明します。
| 研究テーマ | 血圧波形解析による脳梗塞大血管閉塞のプレホスピタル診断システムの事業化検証↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 東北大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP1 医療系・創薬枠 |
脳卒中の患者は増加傾向にあり、要介護の主要な原因にもなっています。脳の太い血管が詰まる「大血管閉塞」(LVO)には「血栓回収療法」が有効ですが、実施できるのは専門施設に限られ、治療の開始は早いほど重要です。「東北大学」の研究チームは、救急車内で首のセンサーから血圧波形を取得し、リスクを1分以内に判定するシステムを開発しています。専門施設への直接搬送の判断を支える診断システムとして、事業化の検証を進めます。
| 研究テーマ | 歯周病菌に特異的に作用する DPP7/11 阻害による抗菌薬の事業化↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 岩手医科大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP2 医療系・創薬枠 |
歯周病はヒトの80%が罹患する細菌感染症で、進行すると歯の喪失や顎骨の破壊を招きます。既存の抗菌薬とは異なる作用機序(薬が効く仕組み)で治療に挑むのが、「岩手医科大学」の研究チームです。着目したのは、歯周病菌の「Porphyromonas属」が栄養源の利用に使う酵素「S46 DPP」。この酵素を阻害する化合物には、効果的で副作用の少ない治療が期待されています。標的分子の立体構造から薬を設計する「SBDD」(構造ベース創薬)で有効性の高い化合物を開発し、抗菌薬の事業化を目指します。
| 研究テーマ | 高齢者に優しく開発コストも安価なポストADC去勢抵抗性前立腺癌治療薬↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 弘前大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP1 医療系・創薬枠 |
ホルモン療法の効果が得られにくくなった「去勢抵抗性前立腺癌」(CRPC)では、既存薬の毒性が治療の壁になります。適応の制限が多く、高齢の患者では治療の継続が難しい場合があるためです。こうした患者に向けて、「弘前大学」の研究チームは低毒性で腫瘍選択性の高い「中分子医薬」の提供を掲げています。開発候補品の「ANX-D7」は、タンパク質「アネキシンA1」を標的とするD型ペプチドを用いた薬剤です。GAPファンドの期間中に薬効と安全性を検証し、製薬企業へのライセンスアウトや共同開発の検討につなげます。
| 研究テーマ | 宇宙流体システム新構造バルブの実用化と事業性検証↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 東北大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP2 モノづくり・Deep-Tech枠 |
ロケットや衛星に使う宇宙用バルブは、ラインアップごとに仕様が固定され、特注品ではコストと納期が大きくなりやすい部品です。この調達の難しさに対し、「東北大学」の研究チームが提案するのが「受注組立」の体制。設計を共通化して部品を在庫し、一部の部品だけを特注にする方式で、単価は従来品の300万円以上に対して200万円程度、納期は半年〜1年以上に対して1か月以下を目標に置いています。新構造のバルブの実用化に向けて、事業性の検証に取り組みます。
| 研究テーマ | 量子スピンセンサによる深部非破壊検査技術の社会実装とインフラ診断サービス事業への展開↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 東北大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP1 モノづくり・Deep-Tech枠 |
老朽化したインフラ構造物が増える一方、検査を担う人員は減っています。この課題に取り組むのが、「東北大学」の研究チームが開発する「量子スピンセンサ」です。対象を壊さずに内部を調べる「非破壊検査」への応用で、鋼材の欠陥を40〜50cm離れた位置から検出した結果が示されており、深部を調べるインフラ診断サービスとしての事業化が次の段階です。
| 研究テーマ | 廃棄鳥羽を活用した熱可塑性フェザープロテイン材料の開発↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 鶴岡工業高等専門学校 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP1 モノづくり・Deep-Tech枠 |
鶏の羽根は鶏肉の加工工程で年間100万トン発生し、95%が焼却や埋立で処分されています。主成分の「ケラチン」は単体での加工が難しいため、「鶴岡工業高等専門学校」の研究チームは、精製した粉末にイオン液体を可塑剤(材料を軟らかくする添加剤)として加え、熱で成形できる「フェザープロテイン」材料を開発しています。成形加工用のペレットとして供給することで、生分解性材料の需要に応える考えです。
| 研究テーマ | 気候変動と戦う水産養殖を救う圧倒的低コスト「オールシーズン型高機能添加物」開発事業↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 長岡技術科学大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP2 モノづくり・Deep-Tech枠 |
気候変動下の高水温や低水温の環境で、養殖魚の摂餌、成長、生存率をどう維持するかが水産養殖の課題です。「長岡技術科学大学」の研究チームは、ワイン粕に由来する「摂食刺激化合物」と「Bacillus属」の細菌を組み合わせた「機能性添加物」を開発し、飼料費の20〜50%低減も狙います。ヒラメでは、この化合物を含む飼料の増重率(体重の増加率)が119%となり、慣行飼料の59%を上回りました。量産化と安全性試験を経て、新潟県の錦鯉養殖を皮切りに、中東やヨーロッパへの展開を計画しています。
| 研究テーマ | 印刷型湿度センサを用いたおむつモニタリングシステム↗ |
|---|---|
| 所属・大学 | 山形大学 |
| 採択枠 | 2026年度 STEP1 モノづくり・Deep-Tech枠 |
おむつの交換は介護者の大きな負担で、確認のたびに被介護者の睡眠を妨げることもあります。「山形大学」の研究チームが開発する「おむつモニタリングシステム」は、おむつパッドに組み込んだ印刷型の湿度センサの情報を無線で送り、便と尿を識別します。センサはカーボンブラックと「セルロースナノファイバー」(植物由来の微細な繊維)を混ぜたインクを印刷して作るため、薄く軽く、廃棄も容易とされています。介護者と施設の業務量の低減につなげるシステムとして、約4,000〜4,500億円の国内の大人用おむつ市場で事業化を目指します。
「みちのくGAPファンド」の強みは、東北と新潟の大学・高専が「MASP」に参画し、医学から工学、高専の材料研究まで幅広い課題を一つの制度で支えている点です。採択者はメンタリングや人材マッチングの伴走支援を受けながら、想定ユーザーの声を聞き、試作品を実証して事業の形を固めます。2026年度には、脳梗塞の搬送前診断、インフラの非破壊検査、鶏の羽根を使う材料といった課題が採択されました。「STEP1」から「STEP2」へ支援の規模が広がるため、研究の段階に合わせて挑戦できます。東北や新潟の大学で事業化を考えている研究者は、所属大学の起業支援の窓口で、「みちのくGAPファンド」の公募の時期と応募条件を確認してみてください。
作成:FrontJournal編集部
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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。
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