ティ・アイ・エル株式会社(TIL)|「AI融雪制御」を研究

ティ・アイ・エル株式会社(TIL)

TIL「AI融雪制御」を研究|研究領域=路面の画像から積雪を判定/強み=雪が残る間だけ熱源が動く/将来性=積雪地の設備を効率よく動かす

企業紹介|ティ・アイ・エル株式会社とは?

積雪地の燃料消費を抑える技術として、「AI融雪制御」が注目されています。ティ・アイ・エル株式会社は、北海道大学大学院情報科学研究院・調和系工学研究室発の、AI・IoT系ディープテック企業です。路面の画像から積雪を判定し、融雪設備の運転を最適化する「AIロードヒーティングオプティマイザー」を提供しています。

キーワード「AI融雪制御」(AIロードヒーティングオプティマイザー)

「AI融雪制御」は、路面の画像から深層学習で積雪の有無を判定し、ロードヒーティングの熱源を制御する方式です。特徴は、路面そのものの状態を見て運転を決められる点にあります。北海道の駐車場や歩道では、雪が解けた後に残る余分な稼働を抑えられます

市場課題|融雪設備のエネルギー消費

現状の融雪設備の課題|現状は、路面の雪を見ずに燃料が増える/稼働のたびに電力とガスを消費/センサは路面の雪を捉えにくい

融雪設備が電力とガスを消費

冬の路面を安全に保つロードヒーティングは、稼働のたびに多くの電力とガスを消費します。北海道では駐車場や歩道、坂道などに広く設置され、100台規模の駐車場ではガス代が年間で約500万円に達する例もあります。燃料価格が変動すればそのまま維持費に跳ね返るため、設備を持つ施設ほど冬の支出は読みにくくなりがちです。

センサは路面の雪を捉えにくい

運転の判断に使用されてきた水分検知型センサは、路面に残る雪の状態までは捉えにくい方式です。壁などに取り付けたセンサが降雪時の水分を検知して熱源を動かすため、路面の雪が消えた後も運転が続く時間が生まれます。その結果、必要以上に長く稼働し、燃料を使いすぎる傾向がありました。

他にも、日当たりや風で融け方が変わる設置環境ごとの調整、運転の切り替えを人が判断する手間、老朽化した熱源設備の更新にかかる費用、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ロードヒーティング路面の下に電熱線や温水管を通し、熱で雪を融かす設備。除雪の手間を減らせる一方、運転中は電力やガスを消費する。
  • 水分検知型センサ降雪や降雨による水分を検知して融雪設備を動かす方式のセンサ。路面の雪がどれだけ残っているかまでは判別しない。

TILの強み|AIで積雪を判定し熱源を制御

TILが「AI融雪制御」を開発|今後は、画像判定で運転の無駄削減が可能に/雪の有無を見て熱源を切り替え/現場の機器がその場で判定

AIの判定で燃料消費を抑制

従来の制御は、降雪を検知した時点で運転を始め、一定時間そのまま動かし続ける設計が基本でした。

「AI融雪制御」は、雪が路面に残っている間だけ熱源を動かす制御方式です。北海道ガス株式会社との共同研究で、路面の画像から積雪の有無を判定するモデルを開発しました。札幌市内で3シーズンにわたり実証を重ね、融雪の効果を保ったままガス使用量を約40%から最大50%まで削減できたとされています。100台規模の駐車場であれば、年間で約250万円の節約に相当する計算です。熱源の設備はそのままに、運転の判断だけを置き換えられます。

路面画像から積雪を直接判定

融雪設備は屋外に点在するため、現場の状態を遠隔から確かめる手段が限られていました。

路面を撮影するカメラと小型コンピューターが画像をその場で解析し、積雪の有無を見分けます。調和系工学研究室は、冬期の路面状態の分類や積雪深の評価といった研究を重ねてきました。装置はカメラモジュールと通信用のモデムを組み合わせた構成で、遠隔から稼働状況の確認や切り替えができます。判定を現場の機器で行うエッジAIのため、既存の熱源設備へ後から接続できる点も特徴です。TILはこの構成を製品としてまとめ、施設の管理者やガス事業者へ提供しています

FrontJournalの解説
  • 深層学習多層のニューラルネットワークで、大量の画像や音声から特徴を自動的に学ぶ手法。画像認識の精度を大きく高めた。
  • エッジAIクラウドへ送らず、現場の機器の上でAIの推論を行う方式。通信量と応答時間を抑えられ、屋外の設備制御に向く。
  • 実証研究室ではなく実際の環境に装置を置き、性能や効果を確かめること。気象や設置条件の影響を含めて評価できる。

「AI融雪制御」の未来|冬の現場へ広がる

省エネなAI融雪制御が変える未来|駐車場から除雪や配車へ広がる/駐車場の融雪の費用を削減/音声や配車の現場へ広がる/積雪地の省エネ基盤を目指す

駐車場の融雪費を削減

「AI融雪制御」は札幌市内の駐車場へすでに導入され、融雪にかかる費用の削減につながっています。設置場所ごとの実証では、病院の来客用駐車場で消費エネルギーを46.7%、職員用駐車場で54.3%削減した結果が示されています。個人宅やマンションの駐車場にも導入され、条件によっては最大85.7%の削減も報告されました。融雪の効果は保ったまま、熱源の稼働時間だけを短くできるとされています。

音声や配車へ応用が広がる

TILの技術は、冬の道路以外の現場へも広がっています。AI音声ダッシュボード「RECORiS」は、現場の会話をテキストとして残し、あらかじめ設定した言葉を検知する仕組みです。2023年にはGPT-4を搭載し、会話の要約や感情分析、キーワードの抽出といった機能を加えました。カーシェア事業者向けの「Mobility controller」や、通信機能を内蔵したボタン型端末「Call button」も提供し、配車や呼び出しの現場を支えています

積雪地の省エネ基盤を目指す

TILが目指すのは、積雪地の設備を効率よく動かす共通の基盤の構築です。気象条件や設置環境の違いを集めるほど、積雪の判定は現場の実態に近づくとされています。路面を画像で捉える考え方の応用先は、除雪車の出動判断や配車の最適化です。北海道の冬で積み重ねた知見は、国内外の積雪地でも生かせるとみられています。

FrontJournalの解説
  • 感情分析会話や文章から、話し手の感情の傾向を推定する技術。対応の質の把握や、トラブルの早期発見に用いられる。
  • カーシェア一台の車を複数の会員が時間単位で使う仕組み。鍵の開閉や利用時間の管理を通信で行うため、IoTとの相性が良い。

会社概要|ティ・アイ・エルの事業内容

北海道大学の研究から事業化

ティ・アイ・エル株式会社は、2017年9月に設立されました。共同創業者は、北海道大学大学院情報科学研究院で調和系工学研究室を率いる川村秀憲教授です。研究室が進めてきたAIとIoTの研究成果を、生活の現場で使える形にすることを目的としています。代表取締役には藤浪慧氏が就任し、技術拠点は北海道大学発スタートアップが集まるインキュベーション施設(起業を支援する共同オフィス)「北大ビジネス・スプリング」に置かれています。

北海道ガスや大学発企業と連携

TILは、北海道ガス株式会社との共同研究を事業の柱にしてきました。「AI融雪制御」の成果は、2019年度の人工知能学会「現場イノベーション賞 銀賞」を受賞しています。2020年には、同じ北海道大学発のAWL株式会社・株式会社調和技研とともに、小売業向けの感染症対策ソリューションの開発に着手しています。

資本業務提携で開発を強化

2022年4月には、IoTソリューションを手がけるエコモット株式会社と資本業務提携を結びました。エコモットからはAI人材が出向し、データの収集からAIの構築までを両社で分担する体制がとられています。「RECORiS」の共同実証にも取り組みました。北海道大学発認定ベンチャーとして、研究室の知見を製品へ結び付ける役割を担っています。

会社情報

会社名ティ・アイ・エル株式会社(TIL Inc.)
所在地東京都港区赤坂5-2-33 IsaI AkasakA 1812。札幌拠点:札幌市東区北8条東4丁目1-20 EZOHUB SAPPORO 2階。技術拠点:「北大ビジネス・スプリング」(札幌市北区)。
設立2017年9月
代表代表取締役 藤浪 慧。共同創業者 川村 秀憲(北海道大学大学院情報科学研究院 教授)。
連携北海道ガス株式会社(「AI融雪制御」の共同研究)。エコモット株式会社(2022年4月から資本業務提携)。AWL株式会社・株式会社調和技研(2020年、小売業向けソリューションの共同開発)。
技術領域深層学習による画像認識。エッジAI。IoTデバイス開発。音声認識。モビリティ向けプラットフォーム。
製品「AIロードヒーティングオプティマイザー」(設置場所ごとの実証で消費エネルギーを35.7〜85.7%削減)。AI音声ダッシュボード「RECORiS」。「Mobility controller」。「Call button」。
採択人工知能学会「現場イノベーション賞 銀賞」(2019年度、北海道ガスとの共同研究)。北海道大学発認定ベンチャー。
URLhttps://tilab.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

雪が解けたあとも動き続ける融雪設備は、北海道で暮らす人にとって見慣れた光景です。TILは、その運転の判断をセンサから路面の画像へ移し、無駄な稼働を減らしてきました。冬の安全を守りながら燃料を抑えるという、両立の難しい課題に正面から向き合っています。

とりわけ印象的なのは、研究室の成果を3シーズンの実証まで運び切った点です。気象も設置環境も年ごとに変わる屋外で、性能を確かめ続けた積み重ねが製品の説得力を支えています。大学とガス会社、IoT企業が役割を分け合う体制も、地域の技術を社会へ届ける形として参考になります。

路面を見つめる小さなカメラが、北国の冬の当たり前を静かに変えていきます。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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