2026.10.12│科学技術振興機構(JST)│元発表:2026.10.06

東京大学ら、育児・介護向けチャットボットで振り返り2モードを解明

ニュース紹介

「育児や介護のストレス解消には、適切な『距離』が鍵~チャットボットを用いた実証研究で、2つの振り返りモードを解明~」

東京大学大学院情報理工学系研究科の矢谷浩司教授、乘濵駿平博士課程学生、京都大学の山下直美教授、お茶の水女子大学の平野真理准教授、オウル大学のホシオ・シモ教授らの研究グループは、家族内のケア提供者47名を対象にチャットボットを用いた3週間の実証実験を行い、ケア対象者との時間的・空間的・社会的な「距離」が振り返り(内省記述)の内容と効果に影響することを示しました。心理的な距離が近いときには感情の解放が促される「近接モード(Mode P)」、距離を置いたときには客観的な分析が可能になる「遠隔モード(Mode D)」の2つの振り返りモードが確認されたと発表しています。研究成果は国際学術誌「Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction」に2026年9月30日付(米国東部夏時間)で掲載されました。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年10月6日 プレスリリース(論文DOI: 10.1145/3831973)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261006/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

チャットボットを使ったメンタルヘルス支援は、スマートフォン上で24時間対話できる手軽さから、医療・介護・育児の現場で研究と社会実装が広がってきた領域です。従来は固定スケジュールや本人の体調だけを手がかりに声かけを行うものが多く、ケア対象者との関係や距離を考慮した設計は十分に検討されていませんでした。本研究はこの空白領域に対し、人とコンピュータの相互作用(HCI)の観点から新しい設計の指針を示すものです。

①「近接モード」と「遠隔モード」の2つの振り返り

研究グループは、ケア対象者との心理的な「距離」の遠近によって振り返りのあり方が変わることを示しました。距離が近いとき(たとえばケアの直後やそばにいるとき)には、感情を言葉にして外へ出す「近接モード(Mode P)」の記述が多く見られます。距離を置いたとき(別の時間・別の場所で考えるとき)には、起きた出来事を俯瞰して分析する「遠隔モード(Mode D)」の記述が増える傾向が確認されました。感情を解放する役割と、出来事を客観視する役割を、距離が切り替えているという整理です。

②3週間の実証実験で確かめた設計の方向性

検証は、家族内ケア提供者47名を対象に3週間にわたりチャットボットでの振り返り記述を集める形で行われました。日常生活のなかで記録されたデータを分析し、どのような時間的・空間的・社会的距離のときにどちらのモードが現れやすいかを調べています。スマートフォン型のメンタルヘルス支援を設計する際に、「いつ・どこで・どのような聞き方で振り返りを促すか」を距離に合わせて切り替える設計指針として参照できる結果です。

編集部からひとこと

介護や育児を担う人は自分のケアを後回しにしがちで、支援が届きにくいことが課題として指摘されてきました。本研究は、ケア対象者との「距離」という一見目に見えない要素を、振り返り記述の違いという具体的な形で可視化した点に意味があります。研究成果は基礎的なHCI研究の段階であり、具体的な製品や臨床導入の時期についての言及はありません。詳細な実験条件や統計的な結果は、JST公式ページおよびACM掲載論文をご参照ください。なお本研究はJST先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)などの支援を受けています。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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