2026.10.22 │ 科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.21

北海道大学ら、単純立方構造の銀結晶を発見 約60年ぶり2例目

ニュース紹介

「約60年ぶり2例目の単純立方構造の単体結晶を発見~電子線を用いた結晶生成により不安定な結晶構造の観察を実現~」

北海道大学低温科学研究所の榊原雅也博士、山﨑智也准教授、木村勇気教授らの研究グループは、鳥取大学の灘浩樹教授、北海道大学大学院工学研究院の國貞雄治准教授と共同で、高分解能の透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、電子線照射による化学反応で銀結晶が生成する様子を原子レベルで直接観察しました。TEM内でヨウ化銀(AgI)に電子線を当てて分解したところ、通常の銀がとる面心立方構造とは異なる「単純立方構造」の銀ナノ粒子ができることを突き止めました。単純立方構造をとる単体は、これまで1966年に確認された放射性元素ポロニウムの低温相に限られていました。

この単純立方構造の銀は、通常の銀より高い化学反応性を示し、大気圧の100億分の1という高真空でも酸化が進みました。また、分子動力学シミュレーションと第一原理計算から、この構造は銀だけが孤立した状態では安定でなく、ナノサイズ特有の表面や界面の効果で安定化されている可能性が示されました。成果は2026年10月21日付で米国化学会の学術誌「Nano Letters」に掲載されました。

出典:科学技術振興機構(JST) 2026年10月21日 プレスリリース(掲載誌:Nano Letters/DOI: 10.1021/acs.nanolett.6c03635)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261021-4/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

物質の性質は、原子がどう並ぶか(結晶構造)で大きく変わります。金属の多くは、原子をすき間少なく積み重ねた形をとります。銀がふだんとる面心立方構造(立方体の角と各面の中心に原子が並ぶ形)は、空間の約74%を原子が占める、最も詰まった並び方の一つです。

これに対し単純立方構造(立方体の角だけに原子が並ぶ形)は、原子が占める割合が約52%と低く、すき間の多い並び方です。そのため単体の元素がこの形をとることはまれで、研究グループによれば、これまでの例はポロニウムに限られていました。研究者は、ふだんは現れない結晶構造を見つけることで、新しい性質を持つ材料の手がかりを得ようとしています。

①電子線で「作りながら見る」手法

今回の特徴は、透過電子顕微鏡(電子線を試料に通して原子の並びを見る装置)の中で、電子線を使って物質を分解し、銀の結晶ができる瞬間をそのまま観察した点です。銀の結晶は、銀の融点よりはるかに低い温度でできていました。研究グループは、γ-AgIと呼ばれるヨウ化銀の準安定な結晶(条件次第で別の形に変わり得る結晶)からだけ単純立方構造の銀ができ、より安定な形のヨウ化銀からは通常の面心立方構造の銀ができることも確かめました。どの原料から作るかで、できる結晶の形が変わることを示した結果です。

②ナノサイズだから保たれる構造

理論計算では、単純立方構造の銀は、銀だけが孤立していると安定ではないことが示されました。ナノサイズ(10億分の1メートルの単位)の粒子では、全体に対して表面や他の物質と接する面の割合が大きくなります。その表面・界面の効果が、ふだんは保てない構造を支えている可能性があります。この銀は高真空でも酸化が進むほど反応しやすく、研究グループは、こうした特徴的な性質をさらに調べ、ほかの元素や化合物にも同じ手法を広げることを今後の課題に挙げています。

編集部からひとこと

今回の成果は、新しい結晶構造の発見と観察という基礎研究の段階で、具体的な製品や実用化の時期は示されていません。それでも、物質を「作ってから調べる」のではなく、できる瞬間を見ながら未知の構造を探すという進め方は、新しい材料探索の道を広げるものです。反応しやすい銀がどんな性質を持つのか、今後の研究に注目したいと思います。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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