2026.10.13 │ 京都大学 │ 元発表:2026.10.02

京都大学、室温で一様伸び約140%の超延性鋼を開発

ニュース紹介

「室温で140%も伸びる超延性鋼 ―三つの変形機構を順に活用―」

京都大学大学院工学研究科 材料工学専攻の劉遠宏特定研究員、高斯准教授、辻伸泰教授らの研究グループは、約140%の一様伸びと約900 MPaの引張強さを両立するオーステナイト鋼を開発しました。一般的な金属材料の一様伸びは約20~40%、先進的な鉄鋼材料でも約70%程度とされています。本材料では、転位すべり、変形双晶、変形誘起マルテンサイト変態という三つの塑性変形機構が変形の進行に伴って順番に働き、リレーのように加工硬化を受け渡すことで、塑性変形の局所化を抑え、くびれと破断を大幅に遅らせることが分かりました。炭素添加によって変形双晶とマルテンサイト変態が働くタイミングを制御し、この連続的な発動を実現しています。成果は2026年9月1日に国際学術誌「Materials Today」に掲載されました。

出典:京都大学 工学部・大学院工学研究科 2026年10月2日 研究成果(掲載誌:Materials Today/DOI: 10.1016/j.mattod.2026.103497)
https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/20261001

FrontJournalの解説

この研究分野について

今回のテーマは、金属が壊れずにどこまで伸びるかを示す「延性(材料が破断せずに変形できる性質)」です。鋼を引っ張ると、はじめは全体が均一に伸びますが、やがて一部分だけが細くなる「くびれ」が生じ、そこから破断に至ります。くびれが始まるまでの均一な伸びを「一様伸び」と呼びます。一般に、強度を高めると延性は下がりやすく、強さと伸びの両立は構造材料の研究で長く取り組まれてきた課題です。自動車の車体や建築・航空機の部材では、衝突時などに変形してエネルギーを吸収する性質も求められるため、この両立は実用面でも重要になります。

①三つの変形機構が順番に働く

通常の金属では、結晶内の線状の欠陥が動く「転位すべり」が主な変形の仕組みです。今回の鋼では、これに加えて、結晶の一部が鏡写しの向きに変わる「変形双晶」と、変形をきっかけに結晶構造そのものが変わる「変形誘起マルテンサイト変態」が、変形の進み具合に応じて順に働きます。変形双晶を利用する鋼はTWIP鋼、マルテンサイト変態を利用する鋼はTRIP鋼と呼ばれ、それぞれ高い延性を示す鋼として知られています。今回の研究は、これらの仕組みを一つの材料の中で時間差をつけて発動させ、加工硬化(変形するほど材料が硬くなる現象)を途切れさせない点に特徴があります。加工硬化が続くと、変形が一か所に集中しにくくなり、くびれの発生が遅れます。

②炭素の添加で発動のタイミングを制御

三つの機構を順番に働かせるには、それぞれが動き出す時期を合わせる必要があります。研究グループは炭素添加によって変形双晶とマルテンサイト変態が働くタイミングを制御し、連続的な発動を実現したと説明しています。合金の成分で変形の仕組みを切り替える考え方は、鉄鋼材料の設計で広く用いられてきた手法です。論文は「Super ductile steel via sequentially activating multiple strengthening mechanisms」の題で、Materials Today 100巻(2026年)に掲載されました(DOI: 10.1016/j.mattod.2026.103497)。

編集部からひとこと

今回の発表は、材料の設計指針を示す基礎研究の成果であり、量産や特定製品への採用時期についての言及はありません。一様伸び約140%という値は、原文が示す一般的な金属材料(約20~40%)や先進的な鉄鋼材料(約70%)と比べて大きく、約900 MPaの引張強さと両立している点が目を引きます。複数の変形機構を順に働かせる考え方が、他の合金系や加工条件でどこまで再現できるかが、今後の注目点になりそうです。論文には京都大学のほか国内外の研究者が名を連ねており、詳細は原文とMaterials Today掲載論文で確認できます。

FrontJournal編集部

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