小型で導入しやすい手術支援ロボットを開発する CMR Surgical(イギリス発)

小型で導入しやすい「手術支援ロボット」を開発【CMR Surgical|イギリス発】

お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術は、患者の体への負担が小さい手術です。一方で、執刀する外科医の体には負担がかかり、ロボット支援で行われる手術もまだ一部にとどまっています。この課題に挑むのが、イギリスのシーエムアール・サージカル(以下CMR Surgical)です。小型でモジュール型の「手術支援ロボット」の「Versius」を開発し、2025年12月には第2世代の「Versius Plus」が米国で胆のう摘出への使用の認可を得ました。

腹腔鏡手術の課題

CMR Surgicalの紹介と、外科医の体に負担が蓄積し、ロボット支援手術が一部にとどまるという腹腔鏡手術の課題を示す図

外科医の体に負担が蓄積

手術を担う外科医は、長時間同じ姿勢で器具を操作するため、首や背中、肩に負担が蓄積しています。2018年に学術誌「JAMA Surgery」で発表された分析は、外科医とインターベンション医(血管などに細い管を通して治療する医師)約5,800人のデータをまとめ、首・肩・背中・腕の過去12か月の痛みの割合を、評価方法によって約35〜60%と推計しました。仕事に関連する筋骨格系の障害(骨・関節・筋肉の障害)がある医師のうち約12%は休職や業務の制限・変更、早期退職を要しており、1997年から2015年にかけては首と腰の骨の変性疾患の割合も増加しました。

ロボット支援の手術がまだ少数

「手術支援ロボット」を使うロボット支援手術は、まだ手術全体の一部にとどまっています。米国では主要な手術が年間約1,000万件行われていますが、そのうちロボット支援で行われたのは約2.5%との推計があります。裏を返せば、主要な手術の9割以上は、ロボットの支援を受けずに行われています。

FrontJournalの解説
  • 腹腔鏡手術お腹に数か所の小さな穴を開け、カメラと細長い器具を入れて行う手術。お腹を大きく切る開腹手術に比べ、傷が小さく回復が早い。
  • ロボット支援手術外科医が操作席からロボットのアームを動かし、アームの先の器具で行う手術。ロボットが自動で手術するのではなく、操作するのは外科医である。

CMR Surgicalが「手術支援ロボット」を開発

手術支援ロボットの開発を示す図。独立したアームを必要な数だけ使い、開放型の操作席で外科医が手術チームと会話しやすい形で操作する

課題解決に挑むCMR Surgical

CMR Surgicalは、小型でモジュール型の「手術支援ロボット」の「Versius」を開発・販売する医療機器企業です。2014年に5人の共同創業者がイギリスのケンブリッジで創業し、現在も同地に本社を置いています。同社は、患者の負担が小さい腹腔鏡手術を受けられる人が限られているという問題意識から、ロボットによる低侵襲手術を、どこでも手ごろな費用で受けられるようにすることを使命に掲げています。

独立したアームで多くの手術室に導入

「Versius」は、アームが1本ずつ独立した構成で、手術に必要な数のアームだけを使えます。同社によると、装置は小型で運びやすく、ほぼどの手術室にも設置でき、診療科の間で移動させることもできます。同社は、規模を問わずさまざまな病院がロボット支援手術を提供できるようになることを目指し、米国では日帰り手術センターとも連携を進めています。

開放型の操作席で会話を円滑に

外科医は、周囲を見渡せる開放型の操作席(コンソール)で、作業しやすい姿勢を選んでアームを操作します。手首のように曲がる細い器具と、3Dの高精細映像が、腹腔鏡手術の細かな動作を支えます。同社は、この操作席によって外科医のストレスと疲労を軽減できる可能性があり、手術チームとも会話しやすいと説明しています。

FrontJournalの解説
  • 低侵襲手術体を切る範囲をできるだけ小さくし、患者の体への負担を抑える手術の総称。腹腔鏡手術はその代表例である。
  • 日帰り手術センター入院せずに当日帰宅できる手術を専門に行う施設。病院とは別に設けられ、英語ではambulatory surgery center(ASC)と呼ぶ。

手術支援ロボットの未来

手術支援ロボットの未来を示す図。米国の胆のう摘出で使えるようになり、婦人科の手術での活用をめざし、約300億円の資金を調達した

米国の胆のう摘出で使用が可能に

米国食品医薬品局(FDA)は2024年10月、「Versius」を22歳以上の成人の胆のう摘出に使うことを、新しい種類の医療機器の審査制度「De Novo」で認めました。2025年12月には、第2世代の「Versius Plus」も、同じ胆のう摘出を対象にFDAの510(k)認可を得ています。同社は2026年3月、SAGES(米国消化器内視鏡外科学会)の年次総会で米国の外科医へ製品を紹介し、病院や日帰り手術センターとの連携づくりを始めました。導入した米国の病院では、胆のうの手術を「手術支援ロボット」を使って受けられるようになります。

婦人科の手術での活用を目指す

同社は2026年4月、子宮全摘出や卵巣・卵管の摘出といった良性の婦人科手術への適用を求めて、FDAに510(k)を申請しました。同社によると、「Versius」は世界で4万5,000人を超える患者の手術に使われ、その大きな割合を婦人科の手術が占めています。すでに30か国以上の病院で導入され、一般外科や大腸、泌尿器、婦人科、胸部の手術に使われています。認可されれば、米国でも子宮や卵巣の手術を「手術支援ロボット」で受けられる病院が増える可能性があります。

約300億円の資金を調達

CMR Surgicalは2025年4月、2億ドル超(約300億円)の資金調達を発表しました。既存の主要株主に加え、新たに米国のTrinity Capitalが融資で加わりました。同社はこの資金を、「Versius」を導入する病院の拡大と米国での販売開始、製品開発に充てるとしています。米国では、病院や日帰り手術センターへの「手術支援ロボット」の導入を進める計画です。

FrontJournalの解説
  • FDA(米国食品医薬品局)米国で医薬品や医療機器の安全性・有効性を審査し、販売を認める政府機関。日本の厚生労働省などにあたる。
  • 510(k)米国ですでに販売されている医療機器と同等であることを示して、販売の認可を得る手続き。前例の無い機器は、別の制度「De Novo」で審査を受ける。

まとめ

「手術支援ロボット」は、外科医の操作を支えながら、患者の負担が小さい腹腔鏡手術を行うための装置です。CMR Surgicalは、必要な数だけ使える独立したアームを持つ「Versius」で、米国の胆のう摘出の認可を得ました。婦人科の手術への適用拡大も申請中で、米国での普及に向けた準備の段階です。日本でも、東京科学大学発のリバーフィールドが、鉗子(手術で組織をつかむ器具)にかかる力を外科医に伝える「手術支援ロボット」を開発しています。FrontJournal編集部は、「手術支援ロボット」が患者の選択肢として広く使われることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・学術論文をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各論文の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。米国の手術件数とロボット支援の割合は、CMR Surgicalの発表(2024年10月15日)が引用する推計です。
主な出典:米国FDAデータベース(DEN230078/K252111)、CMR Surgical ニュースリリース(2024年10月15日/2025年4月2日/2025年12月16日/2026年3月26日/2026年4月29日)、Epstein S, et al. JAMA Surgery 2018;153(2):e174947。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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