ペロブスカイト太陽電池の量産に向けたインクジェット製造装置を開発する Gosan Tech(韓国発)

次世代太陽電池の量産を支える「インクジェット製造装置」を開発【Gosan Tech|韓国発】

薄く軽いペロブスカイト太陽電池は実用化の段階に入りつつあり、材料を無駄なく大きな面積に塗る量産の方法が課題になっています。この課題に挑むのが、韓国のゴサンテック(以下Gosan Tech)です。ノズルから材料を必要な位置に吐き出して膜を作る「インクジェット製造装置」を開発し、韓国の太陽電池メーカーへ納めています。2026年7月には、セイコーエプソンなどが関わるファンドから追加の出資を受けたと発表されました。

ペロブスカイト太陽電池の製造の課題

Gosan Techの紹介と、塗布で材料の多くが失われ、大面積だと膜厚が不均一になる課題を示す図

塗布で材料の多くが失われる

ペロブスカイト太陽電池の製造では、材料の溶液を基板に塗って膜を作る工程で、多くの材料が基板の外へ失われています。研究室で広く使われるスピンコート(基板を高速で回して溶液を広げる塗布法)は、材料の多くを振り落としてしまうため、工業的な量産には使いにくいと研究論文でも指摘されています。このままでは鉛を含む廃液と材料費がかさみ、量産の費用が下がりにくくなります。

大面積だと膜厚が不均一に

ペロブスカイト太陽電池は、面積を広げるほど膜の厚さをそろえにくくなります。スピンコートは小さな基板に向く方法で、パネルほどの大きさでは中心と端で膜厚に差が出やすくなります。このままでは、小さなセルで得た発電効率を大型のモジュール(セルを並べてつないだパネル)で保ちにくく、実用化が遅れる恐れがあります。

  • ペロブスカイト太陽電池
    ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料で光を電気に変える太陽電池。溶液を塗って作れるため、薄く軽く、曲げられる製品にしやすい。
  • スピンコート
    基板を高速で回し、垂らした溶液を遠心力で薄く広げる塗布法。均一な膜を手軽に作れるため研究で広く使われるが、余った溶液は振り落とされる。

Gosan Techが「インクジェット製造装置」を開発

Gosan Techが開発するインクジェット製造装置が、必要な所だけ塗って材料を節約し、層ごとに塗り分けて大型化に対応することを示す図

課題解決に挑むGosan Tech

Gosan Techは、ペロブスカイト太陽電池やOLED(有機EL)のパネル向けに「インクジェット製造装置」を開発・販売する韓国の企業です。2015年12月に設立され、韓国中部の天安市に拠点を置きます。出発点はOLEDパネルを製造するインクジェットシステムで、インクの供給や圧力の制御、工程のシミュレーションの技術を蓄え、2019年からペロブスカイト太陽電池向けの開発を進めてきました。

必要な所だけ塗り材料を節約

「インクジェット製造装置」は、ノズルから材料を必要な位置に必要な量だけ吐き出して膜を作ります。基板全体に溶液を広げて余りを振り落とすスピンコートと違い、材料の無駄を抑えられます。液滴の大きさをそろえて位置と量を精密に制御できるため、膜の厚さや塗る範囲も調整しやすい点が特長です。マスク(塗らない部分を覆う型)を使わずデータのとおりに塗れるため、製造費の低減にもつながります。

層ごとに塗り分け大型化に対応

主力機「Merak 360-PSC」は、発電を担うペロブスカイトの膜に加え、正孔輸送層(HTL)と電子輸送層(ETL)の成膜にも対応します。最大の機種は1,100×1,300mmのパネルに対応し、硬いガラスにも、曲げられるPETフィルム(ペットボトルと同じ樹脂の薄膜)にも塗れます。層を1枚ずつ重ねながら塗り方を細かく調整できるため、大面積でも膜厚をそろえやすい構成です。2025年5月時点では、370×470mmのモジュールを試作する研究開発ラインを動かし、同年中の大型モジュールの生産を見込んでいました。

  • インクジェット
    細いノズルから微小な液滴を吐き出し、狙った位置に付ける技術。家庭用プリンターと同じ原理で、工業用では電子材料や機能性材料の塗布に使われる。
  • 正孔輸送層
    太陽電池の発電層で生まれた正孔(プラスの電気の担い手)を電極へ運ぶ薄い層。
  • 電子輸送層
    発電層で生まれた電子を、反対側の電極へ運ぶ薄い層。正孔輸送層とともに発電層を上下から挟む。
  • OLED(有機EL)
    電気を流すと自ら光る有機材料を使ったディスプレイ。スマートフォンやテレビに使われ、一部の製造工程でインクジェットの活用が進んでいる。

インクジェット製造装置の未来

インクジェット製造装置が軽い太陽電池の量産を可能にし、電子や医療への応用を目指し、エプソンなどから資金を調達したことを示す図

軽い太陽電池の量産が可能に

「インクジェット製造装置」が普及すれば、薄く軽いペロブスカイト太陽電池を量産しやすくなります。現在主流の結晶シリコン型のパネルは重く、耐荷重の小さい屋根や建物の壁には設置しにくい面がありました。フィルムに塗って作る軽いモジュールなら、工場や倉庫の屋根、ビルの壁面にも設置先が広がります。日本政府も、フィルム型を中心に2040年に約20GW(ギガワット)の導入を目指す戦略を示しています。

電子や医療への応用を目指す

同社は、インクジェットを太陽電池以外の分野にも応用することを目指しています。事業は、OLEDの製造や部品への直接マーキングを含む情報技術、ペロブスカイト太陽電池を中心とする環境、そして医療・バイオの各分野にまたがります。医療・バイオでは、薬剤を狙った場所に載せる技術や、組織工学、診断への応用を見込みます。エプソンとも、エレクトロニクスやバイオテクノロジーでの新たな用途を探るとしています。

エプソンなどから資金を調達

同社は2025年4月、セイコーエプソンとエプソンクロスインベストメントによるファンド「EP-GB」から出資を受けました。2026年7月には同ファンドを運営するグローバル・ブレインが、リードインベスターとして追加出資したと発表しており、出資金額は非公表です。エプソンは韓国の販売子会社を通じて産業用のプリントヘッドを供給し、最初の出資以降、同社はモジュールの発電効率の向上や、新たな顧客からの量産受注を重ねています。日本企業の技術と資金を得て生産体制が広がれば、ペロブスカイト太陽電池を量産する工場へ装置を届けやすくなります。

  • リードインベスター
    資金調達のラウンドで、最も多く出資したり条件の交渉を主導したりする投資家。ほかの投資家が参加を判断する目安になる。
  • プリントヘッド
    インクジェット装置の心臓部で、ノズルが並び液滴を吐き出す部品。液滴の大きさや位置の精度を左右する。

まとめ

ペロブスカイト太陽電池を広めるには、材料を無駄なく大きな面積に塗る製造の方法が欠かせません。Gosan TechはOLED向けに実用化したインクジェットを太陽電池に応用し、発電層から輸送層までを塗り分ける製造装置を太陽電池メーカーへ納めています。エプソンのファンドやグローバル・ブレインからの出資を受け、量産受注も広がりつつあります。日本でも軽い太陽電池の導入目標が掲げられ、量産の担い手には材料だけでなく装置の選択肢も求められます。FrontJournal編集部は、インクジェット製造装置が次世代太陽電池の量産を支える技術の一つになることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。
主な出典:セイコーエプソンのニュースリリース(2025年4月15日・2026年7月23日)、グローバル・ブレインのプレスリリース(2026年7月23日)、pv magazine(2025年5月12日)、経済産業省「次世代型太陽電池戦略」。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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