C-INK|岡山大学発の「導電性ナノインク」で電子回路の配線をインクジェット印刷する素材系ディープテック企業

株式会社C-INK(シーインク)

C-INK「導電性ナノインク」を開発|研究領域=電気を通す金属のナノインク/強み=銀ペーストより銀を約10分の1に/将来性=版のいらない配線の製造へ

企業紹介|C-INKとは?

電子回路の配線を、デジタルデータから直接インクジェットで印刷できる「導電性ナノインク」。C-INKは、その社会実装を目指す、岡山大学発の素材系ディープテック企業です。銀のナノ粒子を水に分散させたインク「DryCure」を製造し、GPS機器大手のGarminが航空機向けタッチパネルの量産に採用しています。

キーワード「導電性ナノインク」

導電性ナノインクは、直径が数十ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の金属粒子を液体に分散させた、電気を通すインクです。印刷して乾かした後に加熱すると、粒子どうしが結合してつながり、金属の膜として電気を流します。粘り気が小さいため、ノズルから必要な量だけを吐き出すインクジェット印刷で配線を描けます。

市場課題|電子回路の配線製造は銀と手間がかさむ

現状の配線製造の課題|現状は、銀の高騰と版の手作業で製造コストが膨らむ/配線材料の銀が高騰する傾向/印刷の版の準備に手作業が残る

配線材料の銀が高騰

電子回路の配線材料として欠かせない銀は、世界的な需要の高まりで価格の上昇が続いています。タッチパネルや回路基板の配線に広く使われているのが、電気をよく通す銀です。配線に使う銀の量が多いままでは、電子機器の製造コストが膨らみ続ける恐れがあります。

版の準備に手作業が残る

配線の製造で主流のスクリーン印刷(版の細かい穴からインクを押し出す印刷)では、版の準備に多くの手作業が残っています。樹脂に銀の粒子を混ぜた「銀ペースト」を、回路の図柄ごとに用意した版で塗るため、版の制作やインクの充填、洗浄といった工程が欠かせない方式です。多品種を少量ずつ製造する場面ほど、準備の手間と人件費が重くなります。

他にも、銀ペーストの配線は時間とともに抵抗が増えやすい、版のいらないインクジェット印刷では導電性インクがにじみやすい、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 銀ペースト樹脂の中に銀の粒子を分散させた、ペースト状の導電材料。スクリーン印刷で基板に塗り、銀の粒どうしが接触することで電気を流す。電子部品の配線や電極に広く使われている。

C-INKの強み|「導電性ナノインク」を開発

C-INKが「導電性ナノインク」を開発|現在は、版なしで配線を描くインクを提供/銀の粒が焼結し使用量を削減/基板を温めて細線を直接印刷

焼結した銀で使用量を削減

銀ペーストは、樹脂の中で銀の粒どうしが接触するだけで電気を流すため、配線の抵抗が高くなりやすく、銀を厚く塗る必要があります。

C-INKの「DryCure」は、直径約30ナノメートルの銀ナノ粒子を水に分散させたインクです。加熱すると粒子どうしが焼結(加熱によって粒子どうしが結合する現象)してつながり、金属箔に近い連続した膜になり、抵抗も時間とともに増えにくくなります。200℃で120分加熱した膜の体積抵抗率(電気の流れにくさを表す値)は、典型的な銀ペーストの約10分の1です。同じ抵抗の配線を作るのに必要な銀も銀ペーストの約10分の1で済むため、価格の上昇が続く銀の使用量と材料費を抑えられます。

版なしで細線を直接印刷

インクジェット用の導電性インクは粘り気が小さく、基板に着弾した後に流れ広がるため、細い線を正確に描きにくいという弱点がありました。

C-INKは、印刷中に基板を40〜50℃に保ち、着弾した直後のインクをその場に留める印刷技術を開発しました。回路の図柄をデジタルデータのまま印刷するので、版の制作や交換、洗浄の手作業が要りません。銀の粒子は変質を防ぐ保護層で覆われていますが、同社はこの層を薄く加工しており、120℃で30分加熱すれば電気が流れ始めます。低い温度で済むことから、PETフィルム(ペットボトルと同じ樹脂の薄い膜)のような熱に弱い基板にも配線を描け、設計を変えてもすぐに作り直せるようになります。

FrontJournalの解説
  • 体積抵抗率物質そのものの電気の流れにくさを表す値で、形や大きさに左右されない。値が小さいほど電気を通しやすく、同じ抵抗の配線を薄く、少ない材料で作れる。

未来|インクジェットで回路を量産する時代へ

版のいらない導電性ナノインクが変える未来|航空機から工場へ、印刷で配線を製造/航空機の操作パネルに量産で採用/専用プリンターで試作を容易に/配線工程の自動化を目指す

航空機の操作パネルで量産

C-INKの銀ナノインクは、すでに航空機の操作パネル(タッチパネル)の製造に使われています。Garminは航空機に載せるタッチパネルの外周配線(画面の縁に沿って走る配線)に「DryCure」を採用しました。量産が始まったのは2023年10月です。版を替えずに1台のインクジェット装置で複数の品番を製造できる点が、採用の決め手になったとされています。

専用プリンターで試作を容易に

2024年11月には自社のインクに合わせたインクジェットプリンター「C-JET」を発売し、回路を試作する装置まで提供しています。フラットベッド式(台の上に置いた基板へ印刷する方式)のため、紙送りできない厚い基板にも最大A3サイズまで印刷可能です。電子部品メーカーは、量産装置を入れる前でも、手元で回路の試作と評価を進められます。インクジェット方式を検討する企業の入口となる装置です。

配線工程の自動化を目指す

C-INKが目指すのは、電子機器の配線の製造を版のいらないインクジェット印刷へ置き換え、製造工程を自動化することです。その一歩が、浜松ホトニクスと進める「レーザー焼結」(印刷した配線にレーザー光を当てて短時間で焼き固める技術)の開発です。オーブンで基板全体を長時間加熱する工程が不要になれば、加熱して焼き固める工程に使う電力の削減につながるとされています。配線の自動化と銀の使用量削減が進めば、電子機器メーカーは人手と銀を抑えた製造ラインを組みやすくなります。

会社概要|株式会社C-INK

岡山大学の研究室から創業

C-INKは、2012年8月に「株式会社コロイダル・インク」として設立されました。創業者は代表取締役社長の金原正幸氏で、岡山大学で研究室を運営しながら起業しています。金原氏は大学院時代から金属ナノ粒子の合成を研究し、電気をよく通す金属ナノ粒子の合成に成功したことが起業のきっかけです。その後、社名を現在のC-INKに改め、岡山県総社市のテクノパーク総社に本社を置いています。

受賞と大手との提携

代表の金原氏が国の表彰を受け、C-INKは大手企業との提携で量産に向けた体制も整えました。2024年度には、金原氏が物質・材料研究機構(NIMS)の三成剛生氏らと共同で、文部科学大臣表彰の「科学技術賞(開発部門)」を受賞しています。対象の業績は「半導体製造を効率化するプリンテッドエレクトロニクス(印刷技術で電子回路を製造する技術)の開発」です。量産に向けては、半導体材料大手のJSRと事業提携を結び、大企業へ製品を供給するための品質保証体制を整えました。セイコーエプソンとは、銀ペーストからの置き換えを希望する企業に向けて、活用分野を共同で提案しています。

個人投資家から資金を調達

資金面では、2022年12月に株式投資型クラウドファンディング(インターネットで多くの個人から出資を募る仕組み)を通じ、247名の個人投資家から約3,898万円を調達しました。2024年には2回目の募集を行い、目標額を上回る約4,010万円の申し込みを集めています。「MBC Shisaku 1号投資事業有限責任組合」からも出資を受けています。

会社情報

会社名株式会社C-INK(シーインク)。旧社名は株式会社コロイダル・インク
所在地岡山県総社市赤浜550 テクノパーク総社内
設立2012年8月
代表金原 正幸(代表取締役社長)
調達株式投資型クラウドファンディングで約3,898万円(2022年12月・247名)/2回目の募集で約4,010万円の申し込み(2024年)/MBC Shisaku 1号投資事業有限責任組合から出資
事業導電性ナノインク「DryCure」の製造・販売/ナノインク用インクジェットプリンター「C-JET」(2024年11月発売)/フッ素系防湿コート剤「OniCoat」
技術領域導電性ナノインク(銀ナノインク・金ナノインク)、プリンテッドエレクトロニクス、インクジェット印刷
連携Garmin(航空機向けタッチパネルで量産採用・2023年10月量産開始)/浜松ホトニクス(レーザー焼結の技術開発)/セイコーエプソン(銀ペースト代替の用途提案)/JSR(事業提携・品質保証体制の構築)
採択令和6年度 文部科学大臣表彰「科学技術賞(開発部門)」(物質・材料研究機構の三成剛生氏らと共同受賞)
URLhttps://www.cink.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

スマートフォンから航空機まで、電子機器の中には必ず配線があります。その配線の多くは、版を使った印刷と人の手に支えられています。C-INKが取り組むのは、材料そのものを変えることで、配線をデジタルデータから直接印刷する形に置き換える試みです。

興味深いのは、インクだけでなく、にじみを抑える印刷条件や専用プリンター、レーザーでの焼き固めまで、使い方ごと提案している点です。材料の性能だけでは、製造現場の工程は置き換わらないためです。インクジェット方式を量産に取り入れる動きは、韓国の太陽電池向けインクジェット製造装置のように、電子部品以外の分野でも見られます。

岡山のスタートアップが製造するインクが、航空機のパネルに載るまでに至りました。版のいらない配線の製造がどこまで広がるのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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