湯海|東京海洋大学発の「温泉スケール」を研究するエネルギー系ディープテック企業

湯海株式会社

湯海「温泉スケール」を研究|研究領域=配管に析出したミネラル/強み=最初に付く鉱物を解析/将来性=温泉と地熱を長く使い続ける

企業紹介|湯海とは?

温泉や地熱の配管を詰まらせる原因として、対策が求められている「温泉スケール」。湯海株式会社は、その抑制技術の開発を試験と分析で支える、東京海洋大学発のエネルギー系ディープテック企業です。温泉水や地熱水に合わせてスケールの付き方を調べる「スケール付着試験」や、析出したスケールの成分分析を事業の柱にしています。

キーワード「温泉スケール」(湯の花)

「温泉スケール」は、温泉水に溶けたミネラル成分が、地上で温度や圧力が変わることで析出し、配管などの表面に付いたものです。多くの温泉地域では炭酸カルシウムが主成分ですが、ケイ酸塩(ケイ素と酸素を骨格とする鉱物)が付く地域もあります。放置すると成長して配管を詰まらせ、熱交換器の効率も下げます。

市場課題|温泉スケールが配管を詰まらせる

現状の温泉スケールの課題|現状は、成分や付き方が地域で異なり対策が難しい/配管の詰まりで清掃が頻繁/スケール抑制の確認は現地頼み

配管の詰まりで清掃が頻繁

温泉施設や地熱発電所では、配管に付着したスケールが湯や熱水の流れを妨げるため、定期的な清掃が欠かせません。温泉水は地下で岩石のミネラル成分を溶かしており、地上で温度や圧力が変わると、その成分が析出して配管の内側に堆積します。ある温泉地域では約3か月に一度の清掃が必要とされ、多くの施設で人の手による除去が続いています。

スケール抑制の確認は現地頼み

スケールを抑える材料や薬剤の効果は、主に現地で実際に使って確かめてきました。スケールの成分や付く速さは地域によって異なり、実験室で同じ付き方を再現するのが困難なためです。そのため、試作と現地での確認を繰り返すことになり、研究開発が長期化します。

他にも、地熱発電所で保守のため発電を止める間の売電量の減少、保守費用の増加による発電単価の上昇、配管の閉塞で本来の能力どおりに発電しにくい状況、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • スケール温泉水や地熱水に溶けた成分が、温度や圧力の変化で析出し、配管や機器の表面に付着した固まりである。成長すると流路を狭め、熱の伝わりも妨げるため、設備の定期的な除去作業が必要になる。

湯海の強み|「温泉スケール」を研究

湯海が「温泉スケール」を研究|現在は、「スケール付着試験」を提供/最初に付く鉱物を解析/実験室で現地の付き方を再現

最初に付く鉱物を解析

温泉スケールの主成分は多くの地域で炭酸カルシウムとされてきましたが、材料の表面に最初に付く鉱物の種類は明確ではありませんでした。

湯海の技術の土台にあるのは、スケールの結晶構造(原子の並び方)と分子構造(原子どうしの結合)を調べる微細構造解析です。スケールを抑える材料も、表面がスケールに覆われると効果を失うため、材料の表面に最初に付く鉱物を抑えることが重要です。技術顧問の盛田元彰准教授の研究室の解析では、炭酸カルシウムのスケールで知られた長崎県の小浜温泉でも、最初に付く鉱物はケイ酸塩であることが明らかになっています。温泉事業者や材料の開発者は、主成分だけでなく最初に付く物質を手がかりに、対策を検討できるようになります。

実験室で現地の付き方を再現

従来の実験室の試験では、現地と同じ構造のスケールを再現しにくく、結果を現場に当てはめにくい面がありました。

同社は、東京海洋大学で開発されたスケール付着の評価試験法を使い、企業の材料や添加剤を評価する「スケール付着試験」を提供しています。試験の中身は、対象の温泉水や地熱水に合わせた条件で材料にスケールを付け、析出したスケールの成分を調べる手順です。盛田准教授の研究室では、小浜温泉のケイ酸マグネシウム(ケイ酸塩の一種)や、大分県の滝上バイナリー発電所のスケールを模擬する手法も研究しています。材料や薬剤を開発する企業は、現地での試験の前に、抑制の効果を実験室で比較できるようになります。

FrontJournalの解説
  • バイナリー発電地熱や温泉の熱で、水より沸点の低い液体を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して発電する方式である。比較的低い温度の熱水でも発電できるため、温泉地の小規模な発電に使われる。

温泉スケール対策の未来|温泉と地熱を長く使い続ける

温泉スケール対策が変える未来|分析から機器まで、温泉の持続的な活用へ/温泉施設の詰まりを分析/試験機と熱交換器の提供へ/温泉資源の持続的な活用へ

温泉施設の詰まりを分析

同社は、温泉事業者に向けて、配管の詰まりの原因を分析し、対策を提案するサービスも手がけています。温泉の成分や配管に析出したスケールを分析し、泉質に合わせた温泉の利用方法も提案します。温泉熱を有効に活用するための技術的な助言や、導入の支援も事業の一部です。温泉施設は、詰まりの原因に合わせて清掃や設備の見直しを進められるようになります。

試験機と熱交換器の提供へ

試験の受託に加えて、同社は機器の提供にも事業を広げようとしています。「スケール付着試験機」は、地熱水に合わせた評価試験を顧客の研究所で行えるようにする機器です。あわせて、温泉や地熱で発生するスケールを抑える機器や熱交換器を扱い、導入から運用までを支える計画です。企業は自社の研究所で評価を繰り返せるようになり、材料や薬剤の開発を進めやすくなります。

温泉資源の持続的な活用を目指す

同社が目指すのは、地域資源である温泉を、将来にわたって持続的に活用できるようにすることです。温泉や地熱の熱水には海水に由来するものもあり、そうした資源ではスケールによる配管の詰まりが起きやすいといわれています。そのため技術顧問の研究室では、全国の温泉水や地熱水について、泉質ごとに材料の表面に最初に付く物質を整理する研究も進行中です。同社は、研究成果を社会に還元し、温泉地の環境保全とエネルギー効率の向上に貢献することを掲げています。

会社概要|湯海株式会社

東京海洋大学の研究から設立

湯海は、2024年9月に設立された東京海洋大学発のベンチャー企業です。東京海洋大学で生まれた技術と知識を基盤に、温泉や地熱のスケール対策を事業にしています。技術顧問は、同大学の学術研究院 海洋電子機械工学部門で准教授を務める盛田元彰氏です。本社は東京都中央区銀座にあり、代表取締役は小甲大輔氏です。盛田氏の研究室は、地熱発電所や温泉の給湯配管で生じるスケールの解析と、現地のスケールを模擬する装置の開発を進めてきました。

大学発ベンチャーとして紹介

湯海は、東京海洋大学の海の研究戦略マネジメント機構のウェブサイトで、「東京海洋大学発ベンチャー」として紹介されています。この「東京海洋大学発ベンチャー」の認定制度は、大学の知的財産や研究成果の事業化を主な目的として起業した企業を対象に、2023年9月に設けられました。認定された企業には称号が与えられ、大学から各種の支援策を受けられます。

スケール対策に特化した事業

同社は、温泉と地熱のスケール対策に特化した事業を営んでいます。会社情報に示された事業内容は、スケール対策のコンサルティング、スケール抑制技術の評価、スケール抑制技術と熱交換器の研究開発で、いずれもスケール対策に関するものです。2025年度の調査時点で、正社員は2名、資本金は300万円です。

会社情報

会社名湯海株式会社(Yukai corporation)
所在地東京都中央区銀座1丁目12-4N&EBLD.7階
設立2024年9月
代表小甲 大輔(代表取締役)
資本金300万円(2025年度調査時点)
事業温泉・地熱のスケール対策に関するコンサルティング。スケール抑制技術の評価(スケール付着試験・析出スケールの成分分析)。スケール抑制技術・熱交換器の研究開発。温泉熱利用に関する助言
技術領域温泉スケール・地熱スケールの微細構造解析、現地スケールを模擬する付着試験
連携東京海洋大学(技術顧問=盛田元彰 准教授・学術研究院 海洋電子機械工学部門)
URLhttps://yukaicorp.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

温泉は入浴の場であると同時に、熱を生かせる地域の資源でもあります。その利用を支える配管の中で、析出したミネラルが少しずつ積み重なる問題は、利用者の目には見えにくいものでした。湯海は、その問題を実験室で再現して確かめる手段を事業にしています。

興味深いのは、スケールの主成分ではなく、材料の表面に最初に付く物質に注目している点です。最初に付く物質が分かれば、それを抑える材料や薬剤の狙いも定めやすくなります。同じ詰まりは地熱発電所でも起きる問題です。米国のFervo Energyのように地熱発電の新しい方式を広げる動きもあり、熱水を扱う設備は今後も増えていくと考えられます。

東京海洋大学の研究から生まれた設立間もない会社が、温泉地の設備を長く使い続ける仕組みをどこまで広げられるのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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