塩水からリチウムを選び取る直接リチウム抽出を研究する Lilac Solutions(米国発)

塩水からリチウムを選び取る「直接リチウム抽出」を研究【Lilac Solutions|米国発】

電気自動車や蓄電池の普及にともない、電池の材料となるリチウムの需要が世界で増え、安定した供給の確保が各国の課題になっています。この課題に挑むのが、米国のライラック・ソリューションズ(以下Lilac Solutions)です。塩水からリチウムだけを選んで取り出す「直接リチウム抽出」を研究し、米ユタ州のグレートソルト湖で電池向けの炭酸リチウムを生産する計画を進めています。2024年2月には、1億4,500万ドル(約218億円)の資金調達を発表しました。

リチウム供給の課題

電池向けのリチウム需要が増える一方、蒸発池による従来の生産では回収できるリチウムが約50%にとどまることを示す図

電池の需要が増え供給確保が急務

リチウムは電気自動車や蓄電池の電池材料として需要が増えており、安定した供給の確保が急務です。米国地質調査所(USGS)によると、2025年の世界のリチウム消費量は約26万3,000トンで前年より約20%増え、用途の約88%を電池が占めると推計されています。このままでは、米国では商業規模の生産がネバダ州の1か所にとどまり、輸入に頼る国と同じく、電池の製造が供給の変動に左右され続けます。

蒸発池の回収率は約50%にとどまる

塩水からリチウムを得る従来の方法は、塩水を広い蒸発池にためて水分を蒸発させるため、回収できるリチウムが限られる方法です。同社の創業者によると、蒸発池で回収できるリチウムは塩水中の約50%にとどまり、蒸発に1年半から2年かかります。このままでは、濃度の低い塩水の資源を活かしにくく、リチウムの産地が一部の地域に偏ったままになります。

FrontJournalの解説
  • 蒸発池リチウムを含む塩水を浅い池に広げ、太陽の熱と風で水分を蒸発させて濃縮する設備。広い土地が要り、濃縮にも時間がかかる。
  • 米国地質調査所(USGS)米国内務省に属する研究機関。鉱物資源の生産量や消費量を毎年まとめて公表している。

Lilac Solutionsが「直接リチウム抽出」を研究

直接リチウム抽出の研究を示す図。イオン交換材が塩水からリチウムを選んで取り込み、蒸発池を使わずに抽出し、抽出に使う材料を米国内で製造する

課題解決に挑むLilac Solutions

Lilac Solutionsは、塩水からリチウムを選んで取り出す「直接リチウム抽出」を研究する米国の企業です。2016年にカリフォルニア州のイーストベイ地域で創業し、オークランドを拠点にしています。出発点はノースウェスタン大学のウォルバートン研究室で、創業者のデイブ・スナイダッカー氏は、材料のデータベース「Open Quantum Materials Database」を使い、塩水からリチウムを取り込む材料を探しました。

イオン交換で蒸発池が不要に

同社の「直接リチウム抽出」は、イオン交換(溶液中の特定のイオンを材料と入れ替えて取り込む仕組み)で塩水からリチウムを取り出すため、蒸発池が要りません。独自のイオン交換材は塩水中のリチウムを選んで取り込み、試験では不純物の99.97%を除いたと同社は発表しています。リチウムを取り除いた塩水は湖に戻すため、湖の水位を下げない方式だと同社は説明しています。グレートソルト湖での7か月の試験運転では、リチウム濃度69mg/L(1リットルあたり69ミリグラム)の塩水から平均約87%のリチウムを回収しました。

イオン交換材を米国で製造

同社は、抽出に欠かせないイオン交換材を米国内で製造し、中国製に頼らない調達先を用意するとしています。2026年1月にはネバダ州ファーンリーで製造ラインの建設を終え、当初の年200トンの生産で、年最大10万トン(炭酸リチウム換算)のリチウム生産を支えられると発表しました。2025年10月に公表した第5世代のイオン交換材は、従来のアルミナ系吸着材と比べて水の使用量を約10分の1に抑え、材料の量あたりの生産性を約20倍に高めたとしています。国内でも、京都大学の研究グループがリチウムに依存しない物質製造につながる合成法を開発しています。

FrontJournalの解説
  • イオン交換水に溶けたイオンを、材料の中のイオンと入れ替えて取り込む仕組み。家庭用の浄水器で水中のカルシウムを取り除くのも同じ原理。
  • 炭酸リチウム換算形の異なるリチウム製品の量を、電池材料の原料となる炭酸リチウムの重さにそろえて表した値。
  • 吸着材表面に特定の物質を付着させて集める材料。直接リチウム抽出では、アルミナ(酸化アルミニウム)系の吸着材が従来から使われてきた。

「直接リチウム抽出」の未来

直接リチウム抽出の未来を示す図。ガス田の塩水などさまざまな資源からの生産、グレートソルト湖での電池向け炭酸リチウムの生産計画、シリーズCでの資金調達

さまざまな塩水で生産が可能に

「直接リチウム抽出」は蒸発池を前提としないため、南米の塩湖に限らず、ガス田の塩水などからもリチウムを生産できる可能性があります。同社は2025年12月、ドイツでNeptune Energyのガス田から出る塩水を使った試験運転を終えたと発表しました。アルゼンチンでは、同社が20%を出資するKachiプロジェクトが2026年9月に環境許可を得たと発表し、塩水を地下に戻す商業規模の直接リチウム抽出事業として南米で初めての許可だと説明しています。国内でも、信州大学らが正極表面のフッ素化でリチウム電池の寿命を改善する研究を進めています。

米国産リチウムで電池供給を目指す

同社は、グレートソルト湖の施設で電池向けの炭酸リチウムを生産し、米国の電池製造に安定して届けることを目指しています。第1期は2028年までに年5,000トンの生産を計画し、第2期で年2万トンに広げると、年約30ギガワット時分の電池製造を支えられるとしています。第1期の生産分は、Traxysとの10年間で計5万トンの購入契約により、全量の引き取り先を確保しました。電池の資源循環では、JFEエンジニアリングがAIで電池を見分ける回収装置の実証を進めています。

約218億円を調達し商業生産へ

Lilac Solutionsは2024年2月、シリーズCで1億4,500万ドル(約218億円)を調達し、累計の調達額は3億1,500万ドル(約473億円)になったと発表しました。Mercuria、Lowercarbon Capital、Breakthrough Energy Venturesが主導し、三菱商事が新たに出資しています。2026年8月には、米エネルギー省から1億ドル(約150億円)の支援の対象に選ばれ、最終交渉を進めています。これらの資金は、イオン交換材の量産と、グレートソルト湖での商業生産を進める土台になります。

FrontJournalの解説
  • ギガワット時電池にためられる電気の量の単位。1ギガワット時は100万キロワット時で、電池工場の年間の生産能力を表すときに使われる。
  • シリーズC創業後の資金調達の段階の1つ。製品の実証を終え、量産や商業化に向けて大きな資金を集める段階を指すことが多い。

まとめ

電池向けのリチウムの需要が増えるなか、Lilac Solutionsはイオン交換で塩水からリチウムを取り出し、蒸発池に頼らない生産を広げようとしています。グレートソルト湖での試験運転と長期の購入契約、米エネルギー省の支援が、商業生産に向けた足場になります。国内では、2026年12月16日から東京ビッグサイトで、ナノ材料の研究開発と事業化をつなぐ展示会nano tech 第26回が開かれます。FrontJournal編集部は、「直接リチウム抽出」が電池材料の安定供給を支える技術になることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・公的機関の統計をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Lilac Solutions 公式(シリーズC・米エネルギー省の支援・グレートソルト湖の試験運転・Traxysとの購入契約・ネバダ州の製造ライン・第5世代技術・Neptune Energyとの試験・Kachiプロジェクトの環境許可・会社概要・従来型吸着材の解説)、米国地質調査所「Mineral Commodity Summaries 2026」、ノースウェスタン大学 McCormick Magazine。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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