2026.07.30 理化学研究所・パデュー大学 元発表:2026.07.30

理研ら、人工細胞で膜が変形する仕組みを再現し設計原理を解明

ニュース紹介

「人工細胞で細胞変形の設計原理を解明」

理化学研究所生命医科学研究センター構成的細胞生物学研究チームの宮﨑牧人チームディレクター(生命機能科学研究センター 構造生命科学/細胞生物学連携チーム 上級研究員、JST創発研究者)と、パデュー大学生体医工学科のキム・テヨン准教授、ラボニ・スルタナ・ファーミダ博士課程学生らの研究グループは、精製したアクチン線維、ミオシン、α-アクチニン、ATPを細胞サイズのリポソームに封入した人工細胞を構築し、アクチン細胞骨格と膜のみでブレブ(細胞膜の局所的なふくらみ)の形成が自発的に起こることを実証した。実験と大規模シミュレーションを組み合わせ、膜変形の大きさは主に「アクチン線維と膜の結合強度」で決まること、ブレブの発生機構は結合が弱い場合の剝離型と強い場合の破断型に分かれ「アクチン線維と膜の結合強度」と「アクチン線維同士の連結強度」のバランスで決まること、ブレブの数は「アクチン線維の空間分布」に影響されることを明らかにした。成果は2026年7月30日(日本時間)に米国科学誌Science Advancesにオンライン掲載された。論文タイトルは「Reconstitution of actomyosin networks in cell-sized liposomes dissects distinct mechanisms of membrane blebbing and symmetry breaking」、DOIは10.1126/sciadv.aed8818。研究はJSTさきがけ「アクチン細胞骨格動態の構成的理解と制御」および創発的研究支援事業「再構成で紐解く細胞骨格機能の自己組織化メカニズム」などの支援を受けて行われた。

出典:理化学研究所 2026年7月30日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20260730_1/index.html

FrontJournalの解説

この研究分野について

細胞が動いたり分裂したりするとき、細胞膜は絶えず形を変えています。その変形を内側から支えているのがアクチンなどのタンパク質でできた細胞骨格です。ただし生きた細胞の中では何千種類もの分子が同時に働いているため、どの要因が変形を決めているのかを切り分けて調べることが難しいという事情がありました。そこで必要な部品だけを精製して人工の膜小胞(リポソーム)に詰め、現象を組み立て直して調べる「ボトムアップ型」の研究手法が使われています。リポソーム内部への細胞核モデルの構築や、マイクロ流体デバイスによる均一な人工細胞の量産など、国内でもこの方向の研究が進んでいます。

①部品を絞ったから因果関係が見える

今回の人工細胞に入っているのは、アクチン線維、ミオシン、α-アクチニン、そしてエネルギー源のATPだけです。この最小構成でもブレブが自発的に生じたことは、ブレブの発生に多数の制御タンパク質が必須ではないことを示しています。さらに部品数が少ないため、結合の強さのような1つのパラメータを変えたときに何が起きるかを、実験とシミュレーションの両方で追えます。研究グループはこれによって、変形の大きさは膜とアクチン線維の結合強度が主に決めること、発生の仕方は剝離型と破断型の2通りに分かれることを特定しました。生きた細胞の観察だけでは切り分けにくかった因果関係を、設計変数として書き出した点が今回の中身です。

②動いて分裂する人工細胞への設計変数

ブレブは、細胞が狭い場所を進むときの推進力にも使われる変形です。その大きさ・数・発生場所を決める要因が分かれば、逆に狙った位置にふくらみを作る設計が視野に入ります。研究グループは今後の展開として、より複雑な人工細胞の開発、細胞運動細胞分裂の人工的な再構成、さらに合成生物学自律制御ソフトマテリアルへの応用を挙げています。外部から配線して動かすのではなく、材料の内部の力学だけで形を変える仕組みは、微小な機械やドラッグデリバリーの担体を考えるうえでも土台になります。今回の成果は理論と実証を接続した段階であり、実用的な材料に組み上げるにはさらに段階が必要です。

編集部からひとこと

生きた細胞を観察する研究と、部品から組み立て直す研究では、分かることの種類が違います。今回は後者で、しかも「結合の強さ」という具体的なつまみに落とし込んだところが読みどころでした。材料開発立場で読むと、膜と骨格接着をどう設計するかという問いになります。動いて分裂する人工細胞という目標はまだ先ですが、そこへ向かうための変数が名前つきで整理された意義は小さくありません。

FrontJournal編集部

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本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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