2026.11.03 │ 甲南大学・大阪府立環境農林水産総合研究所・水産研究・教育機構・北海道大学・産業技術総合研究所・理化学研究所 │ 元発表:2026.10.27

甲南大学ら、魚にDHAを届ける食物連鎖の未解明ルートを発見

ニュース紹介

「魚にDHAが多いのはなぜ?食物連鎖の未解明ルートを発見」

甲南大学理工学部生物学科の本多大輔教授、甲南大学大学院自然科学研究科の森本冬海博士後期課程学生、大阪府立環境農林水産総合研究所、水産研究・教育機構、北海道大学、産業技術総合研究所、理化学研究所環境資源科学研究センターの菊地淳チームディレクターの研究グループは、三陸沖海域での年間を通したモニタリングを行いました。環境DNAから推定された原生生物ラビリンチュラ綱のアプラノキトリウム類の現存量や、魚類の主要な餌である動物プランクトンのカイアシ類の食性などから、DHAの上位捕食者への供給において、アプラノキトリウム類の影響力が最も大きいことを明らかにしました。

魚類や動物プランクトンなどの捕食者はDHAをほぼ生合成できないため、その供給源は一次生産者の植物プランクトンとされてきました。しかし、捕食者と生産者の脂質組成が大きく異なる「DHAパラドックス」が知られており、本研究はこの謎の解明に大きな前進をもたらすとしています。原論文のDOIは10.1093/ismeco/ycag178です。

出典:甲南大学・大阪府立環境農林水産総合研究所・水産研究・教育機構・北海道大学・産業技術総合研究所・理化学研究所 2026年10月27日 プレスリリース
https://www.riken.jp/press/2026/20261027_3/index.html

FrontJournalの解説

魚のDHAをめぐる「DHAパラドックス」

「DHA」(ドコサヘキサエン酸)は、脳や神経、網膜の細胞膜に多く含まれるオメガ3系脂肪酸です。魚はDHAを多く含みますが、魚自身や餌の動物プランクトンは、DHAをほとんど体内で合成できません。そのため供給源は、一次生産者(光合成で有機物をつくる生物)である植物プランクトンと考えられてきました。

甲南大学の発表によると、植物プランクトンの珪藻類はDHAも合成するものの、EPA(エイコサペンタエン酸)が多い組成です。一次生産者全体のDHAとEPAの比が約1対6なのに対し、魚類は両者をほぼ等量ずつ蓄えています。この食い違いが「DHAパラドックス」と呼ばれてきました。

①三陸沖の通年観測と環境DNAによる推定

研究グループは、水産研究・教育機構の「Aライン」の調査海域(三陸沖から北海道南岸)で、年5回、1年を通して観測を行いました。沿岸から沖合約600kmまでの6地点で、表層から深さ約3000mまで5層に観測点を設けています。海水中の環境DNA(水中に残る生物由来のDNA)を定量PCR(特定のDNAの量を測る手法)で分析し、アプラノキトリウム類の細胞数と現存量を推定しました。

栄養塩の多い親潮が流入した表層では、1リットルあたり数千〜約5万細胞のアプラノキトリウム類が検出されました。検出地点は植物プランクトン由来のクロロフィル濃度が高い地点と一致し、海の中でも植物プランクトンを捕食している可能性が示されています。ただし現存量は多いときでも主要な一次生産者の約2%、DHA量でも約13%で、現存量だけでパラドックスを説明するのは難しい結果でした。

②カイアシ類へDHAを届ける「アプラノキトリウム経路」

研究グループが、魚類の主要な餌である「カイアシ類」(数mmの小型甲殻類)の消化管DNAを過去の研究データから解析したところ、DHAの供給比率はアプラノキトリウム類が56%、珪藻類が34%、渦鞭毛藻類が10%と推定されました。この分を加えると、カイアシ類の消化管内のDHAとEPAの比は約1対2.4になり、パラドックスの解消に大きく近づきます。

研究グループは、植物プランクトンからアプラノキトリウム類を経てカイアシ類へ至る流れを「アプラノキトリウム経路」と名付けました。アプラノキトリウム類が植物プランクトンを捕食してEPAをDHAに変換し、カイアシ類へ効率よく受け渡すという筋道です。論文は、微生物生態学の国際誌「ISME Communications」に掲載されています。

FrontJournalからのひとこと

魚のDHAは、植物プランクトンから動物プランクトンを経て届くと考えられてきました。今回の研究は、その間に原生生物が入り、EPAをDHAへ変える経路が最も大きな供給源となることを、海での通年観測から示しました。甲南大学は、DHAが孵化(ふか)直後の仔魚(しぎょ)の生残や成長に大きく影響するとして、アプラノキトリウム類の観測が漁獲量予測や資源保全の基礎情報になる可能性を挙げています。海の食物連鎖を支える小さな生物の役割が、水産資源の管理にどう生かされるか注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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