2026.11.03 │ 東京大学・理化学研究所 │ 元発表:2026.11.02

東京大学・理研、生きた細胞内の成分を三次元動画で捉える顕微鏡

ニュース紹介

「生きた細胞内の成分を三次元動画で捉える顕微鏡を開発-ビデオレート非標識三次元化学イメージングを実現-」

東京大学大学院理学系研究科の福島誠人大学院生、戸田圭一郎特任助教、菅原優生大学院生、川野将太郎特任研究員と、同大学大学院新領域創成科学研究科の井手口拓郎教授(理化学研究所光量子工学研究センター・チームディレクター兼任)らの研究グループは、細胞内の成分分布を三次元動画として捉える中赤外フォトサーマル顕微鏡を開発しました。分子振動に由来する中赤外光の吸収で生じる屈折率変化を可視光で検出し、染色せずに細胞内の成分を高い空間分解能で可視化する技術です。

従来の三次元計測を約400倍高速化し、毎秒19.2ボリューム(1ボリューム52ミリ秒)の三次元化学イメージングを実現しました。生きた細胞内の脂肪滴を、脂質に由来する信号で三次元追跡し、その運動を定量的に解析しています。さらに、1秒で約20波数の三次元画像を取得する分光イメージングも実証しました。本研究成果は学術誌「Nature Communications」に掲載されました(DOI:10.1038/s41467-026-78699-z)。

出典:東京大学・理化学研究所 2026年11月2日 プレスリリース
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/0030898.html
理化学研究所の発表:https://www.riken.jp/press/2026/20261102_1/index.html

FrontJournalの解説

中赤外フォトサーマル顕微鏡とは(染色せずに成分を見る仕組み)

中赤外フォトサーマル顕微鏡は、細胞を染色せずに、どの成分がどこにあるかを映し出す顕微鏡です。分子は化学結合ごとに決まった波長の中赤外光を吸収し、その際のわずかな温度上昇が屈折率(光の進み方を表す値)を変えます。この変化を波長の短い可視光で読み取るため、中赤外光を直接検出する一般的な赤外顕微鏡よりも細かな構造を見分けられます。

「井手口拓郎」教授らのグループは、この方式の高速化と高解像度化を続けてきました。2023年には単一細胞の中赤外イメージングで染色を使わないビデオ撮影を、2024年には約100ナノメートルの空間分解能での分子振動分布の可視化を発表しています。

①照明角度の高速切り替えで三次元撮影を約400倍速く

研究グループは、可視光を当てる角度を「空間光変調器」(光の位相などを制御する光学素子)で約2.3ミリ秒ごとに切り替え、11方向から撮った画像をもとに三次元像を組み立てました。高強度の中赤外光パルスを使い、1方向につき1回の撮影で十分な信号を得られるようにしています。従来の三次元計測は毎秒0.05ボリューム未満でしたが、新しい顕微鏡は1ボリュームを52ミリ秒で取得し、約400倍の高速化に当たります。

②脂肪滴の動きを奥行き方向まで追跡

生きた細胞の観察では、脂質に多い「CH₂結合」の振動に中赤外光の波数を合わせ、「脂肪滴」(脂質を蓄える細胞小器官)を約3.6秒間、三次元で追い続けました。軌跡の解析から、移動範囲が通常の拡散より広がりにくい「異常拡散」を確認し、動き方が移動の方向や細胞内の場所で変わることも明らかにしました。こうした奥行き方向を含む運動は、二次元の画像では評価しにくい情報です。

波数を高速に変える「分光イメージング」(波長を変えながら撮影し、成分の違いを見分ける技術)では、約1秒で20波数分の三次元画像を取得できました。固定した細胞では、脂肪滴と「核小体」(細胞核の中にある構造体)からそれぞれ異なる分子振動のスペクトルが得られています。

FrontJournalからのひとこと

細胞内の物質が「どこにあるか」に加え、「どの成分が、どう動くか」まで染色なしで追える点に、この顕微鏡の特徴があります。研究グループは応用先として、脂肪滴の融合や、「液-液相分離」で生じる分子集合体の観察を挙げています。生命現象を成分と動きの両面から捉える計測手段として、今後の展開に注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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