2026.11.03 │ 名古屋大学・科学技術振興機構(JST) │ 元発表:2026.10.28

名古屋大学ら、蚊のオスがメスの羽音に惹かれる仕組みを解明

ニュース紹介

「蚊のオスが「メスの羽音」に惹かれる理由を解明~行動の性差を生む遺伝子fruitlessがオスの耳をつくる~」

名古屋大学大学院理学研究科/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)のロー・ユーミン博士研究員、マシュー・スー助教、上川内あづさ教授らの研究グループは、米国アイオワ大学のEberl Daniel教授らとの共同研究で、遺伝子fruitless(フルートレス)が、デング熱などを媒介するネッタイシマカのオスに特異的な聴覚系を成り立たせることで、メスの羽音に誘引されるというオス特有の繁殖行動を成立させていることを発見しました。

蚊のオスは夕暮れに群れをつくり、飛来したメスの羽音を聞きつけて交尾します。一方で、メスはオスの羽音には誘引されません。研究グループは、fruitlessのオス型たんぱく質FruMを欠くオスが、夕暮れに他のオスと集まる行動を示さずメスの羽音への誘引も完全に失うこと、その耳がメスの羽音を能動的に増幅する仕組みを失い、脳へ届く聴覚情報も大きく減っていたことを見いだしました。本研究成果は、2026年10月28日(日本時間)付で国際学術誌「PLOS Biology」に掲載されました(DOI:10.1371/journal.pbio.3004041)。

出典:名古屋大学・科学技術振興機構(JST) 2026年10月28日 プレスリリース
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20261028/index.html

FrontJournalの解説

蚊のオスが羽音を聞き分ける耳

「ネッタイシマカ」は、デング熱、ジカ熱、黄熱などを媒介する蚊です。そのオスは夕暮れに群れをつくり、近づいたメスの羽音を聞きつけて追いかけ、交尾に至ります。名古屋大学の発表資料によると、羽音の高さはオスで約750Hz、メスで約450Hzと、雌雄で異なる値です。

音を受け取る耳は触角にあり、付け根の「ジョンストン器官」(音の振動を神経の信号に変える器官)と、そこから伸びる鞭節(べんせつ:音を受けて揺れる細長い部分)から成ります。鞭節が鼓膜のように音で揺れ、その振動をジョンストン器官の神経細胞が受け取る仕組みです。オスの耳は自ら振動して、最も感度の高い音の高さをメスの羽音の帯域に合わせています。

①オスの耳を形づくる遺伝子「fruitless」

「fruitless」は、昆虫の神経の働きに雌雄の差をもたらす遺伝子の一つです。ショウジョウバエの研究では、行動の性差を主に担う遺伝子として調べられてきました。研究グループは、この遺伝子のオス型たんぱく質「FruM」を欠く変異オスの行動を観察しました。正常なオスは飼育ケージの中央付近に集まり、メスの羽音に相当する400〜500Hz付近の音に強く誘引されます。変異オスは集まらず、試したどの周波数の音にも誘引されませんでした。

研究グループが耳を調べると、fruitlessはジョンストン器官の神経細胞で強く発現(遺伝子からたんぱく質がつくられること)していました。レーザードップラー振動計(レーザー光で微小な振動を測る装置)を使うと、変異オスの感度のピークは高い音域側へずれ、メスの羽音の帯域から外れていました。同じ強さの音に対する聴覚神経の応答も、正常なオスの約6分の1に減っていたと発表資料は述べています。

②メス型に近づいた変異オスの耳

正常なオスの耳は、遠心性神経系(脳から感覚器へ信号を送る神経)による抑制を外すと自ら大きく振動し、音を大きく増幅します。変異オスでは、この増幅は見られませんでした。増幅を制御する神経のつながり方も、一部がメス型に変わっていました。

研究グループが耳で働く遺伝子を網羅的に解析すると、変異オスでは、振動を生む際に働くとされる分子モーター「ダイニン」(細胞の中で力を生むたんぱく質)の遺伝子が複数変化していました。同グループは、FruMがメス型の遺伝子を直接抑える一方で、オス型の遺伝子を間接的に高めていると考えています。こうした調節の積み重ねが、メスの羽音をとらえるオス特有の耳をつくるという見方です。

FrontJournalからのひとこと

約100年前から知られる蚊の雌雄の行動差について、研究グループは鍵となる遺伝子を突き止めました。今回の成果は、fruitlessが耳という感覚器の性能そのものを決めていることを示しています。発表資料は、fruitlessや下流の遺伝子が、蚊の繁殖を抑える新たな防除法の標的になりうるとしています。行動の性差を耳の働きから説明した研究として、防除への応用に向けた今後の展開に注目します。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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